独自分析

トップ5%が1,078億円を調達。国も支援強化「大学発・研究開発型」スタートアップに二極化現象【独自調査】

2023-02-15
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

大学の研究成果などを事業化したり、大学と共同研究を行ったりする「大学発・研究開発型スタートアップ」に投入される資金の半分以上が、上位5%のスタートアップに集中していたことがSTARTUP DBの調査で分かった。

これらの企業は今後、国が増加させたいとしている「ユニコーン」への成長にも期待がかかるが、その一方で裾野は十分に広がっておらず、二極化が起きているとも言えそうだ。

2015年ごろから創業・資金調達盛んに

国が2022年11月に発表した「スタートアップ育成5か年計画」は、大学発スタートアップの創出に力を入れると明記していて、「1大学につき50社起業、1社はEXITを目指す」運動を展開するとしている。

このうち、大学の研究成果については、海外のベンチャーキャピタルの参加を得るなどして「5年間で5,000件以上」の事業化を支援する方針を打ち出している。

STARTUP DBでは、経済産業省が認定した大学発ベンチャー企業のうち、「研究成果」型か「共同研究」型のいずれかに当てはまるスタートアップを「大学発・研究開発型スタートアップ」と定義(※)し、資金調達の推移などを調べた。

大学発の研究開発型スタートアップは、2015年ごろから設立社数が増え始め、資金調達も盛んに実施されている。2015年から20年にかけて設立された企業のおよそ半数が、これまでに何らかの資金調達を実施していた。

なかでも2017年に設立された50社を見ると、2回以上の調達を実現した企業は21社と4割以上あり、5回以上調達している企業も6社あった。筑波大学発でメディアアーティストの落合陽一氏がCEOを務めるピクシーダストテクノロジーズや、電力売買プラットフォームを手掛けるデジタルグリッド(東京大学)などが含まれている。

「公的資本で事業化、民間資本で成長」が勝ちパターンか

調査した479社を創業からの累計資金調達額順に並べた。

1位は2011年設立のメガカリオンで合計102億2,000万円。東京大学と京都大学で開発された、iPS細胞から血小板を作り出す技術の事業化を手掛けるスタートアップだ。

同社は、官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)をリードインベスターとし、17年に37億円、20年に28億円をそれぞれ調達している。STARTUP DBが推計した評価額は約181億9,500万円となっている。

2位は2015年設立の九州大学発スタートアップ、Kyuluxだ。次世代有機EL材料の開発・製造を行なっている。累計資金調達額は約86億900万円だ。

設立からおよそ1年後に、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)から出資を受けている。金額は、ベンチャーキャピタルなど他の投資家との合計で15億円だ。JSTがスタートアップの株主となってハンズオン支援を行う「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」の枠組みを活用したもので、2018年にも追加の出資を受けている。

IPOやM&AなどのEXITは20例あった。このうちマイクロ波化学(大阪大学)、イーディーピー(産業総合研究所)、ティムス(東京農工大)の3社は2022年に東証グロース市場へ上場した。

国は5か年計画で、「時価総額1,000億円超の未上場企業」と定義する「ユニコーン」100社の創出を掲げている。現状、大学発の研究開発型スタートアップからはこの定義に当てはまる企業は生まれていないが、ランクイン企業には設立10年未満のものも多く、今後の伸長が期待される。

上位24社が調達額の半分以上を占める「二極化」状態に

一方で、大学発・研究開発型スタートアップをめぐっては、一部の企業に資金が集中していることも分かってきた。

調査対象479社がこれまでに調達した資金は、把握できた範囲で累計2,004億7,300万円。このうち、調達額で上位5%に入った24社に対し、全体の54%にあたる1,078億2,400万円が投入されていた。調達実績が確認できなかった企業は6割超の319社に上った。

上位5%の企業に多いのは、上記のメガカリオンやKyuluxのように、創業から比較的早い時期に公的機関の資本が注入されたパターンだ。

ピクシーダストテクノロジーズは創業1年目に、プリント基板製造のエレファンテック(東京大学)は2年目に、それぞれ国立研究開発法人のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業化支援に採択され助成を受けている。この制度は、研究開発や事業化に必要な費用について、1/3以上をベンチャーキャピタルが出資する場合、NEDOも助成金を交付するという仕組みだ。

つばめBHBは、東京工業大学の細野秀雄・教授らが科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業」の一環として研究していたアンモニア生産技術の事業化を目指して生まれた企業だ。設立にあたっては、JSTからスピンアウトして誕生したベンチャーキャピタル・ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)も出資している。

こうした企業はいずれも、その後の資金調達で民間投資家からも出資を受けている。公的資金が注入されたことで事業化までの運転資金を確保できるほか、公的機関の認証を受けたことなどが呼び水となって投資家の評価を高めた可能性もありそうだ。

それ以外では、マイクロ波化学やサイアス(京都大学)のように、創業から数年以内に大学系のベンチャーキャピタルから資金を調達した例もあった。


国の支援策は

公的資本が創業期を資金面で支え、事業化段階で民間資本が成長を加速させる。そんな成功例が複数生まれている。一方で、そうした成長ストーリーを実現できたスタートアップは限られているのも現実だ。

国は「1大学につき50社起業、1社はEXITを目指す」運動を掲げるほか、5年間で5,000件の研究成果の事業化を目標としている。達成に向けては、トップ層の成長だけでなく、裾野を広げていく工夫も欠かせない。

国の育成5か年計画には具体的な打ち手が盛り込まれている。

科学技術振興機構には従来の10倍となる1,000億円規模(5年分)の基金を設ける。優れた技術とビジネス面の知見を融合させるため、大学や産業技術総合研究所(産総研)の技術シーズと大企業の経営人材をマッチングさせる取り組みにも着手する。

社会実装までに時間がかかるとされるディープテック分野については、「グローバルスタートアップキャンパス構想」を始動させる。海外の大学や研究者を誘致し、官民の資金を注入することで国際共同研究やインキュベーション(事業化支援)を加速させる。

NEDOの役割も強化する。ピクシーダストテクノロジーズやエレファンテックが活用してきた事業化支援プログラムの補助額上限の引き上げや、支援メニューの拡大などを見込む。予算として、年間200億円規模の基金を新たに立ち上げる方針だ。

STARTUP DB MAGAZINEでは今後、今回の調査結果をより細かく網羅した「詳細版」の記事を掲載する。

※大学発・研究開発型スタートアップの定義:経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」のうち、「研究成果ベンチャー」(大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー)と「共同研究ベンチャー」(創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)のいずれかに当てはまる529社を抽出。そのうち、スタートアップ企業としてSTARTUP DBに収録されている479社を「大学発研究開発スタートアップ」と定義した。データは2023年1月23日時点。

(データ分析:井伊悠斗 城間正人 石渡戸紘 執筆・編集 高橋史弥)

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