独自分析

「東京以外」のスタートアップが伸びている。大阪、京都、名古屋、福岡…「東京一極集中」に変化の兆し【独自調査】

2023-06-07
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

日本のスタートアップは、会社も金も東京に集中している。

数字を見れば明らかだ。東京に本社を置くスタートアップの数は日本全体の66%を占め、78%の資金が流れ込む。

だが、地方都市のスタートアップを取り巻く環境にも厚みが出てきた。1年間に実施される資金調達件数では、東京の割合は年々減少。代わりに関西圏や九州、中部地方などが存在感を示し始めている。

「東京一極集中」は変わるのか。足元で起きつつある変化を、47都道府県を対象にしたデータ分析から浮き彫りにする。

立地66%、カネ78% 日本のスタートアップは東京一極集中

まずは東京への集中ぶりをSTARTUP DBのデータから紐解いていく。

東京に本社を置くスタートアップは2022年末時点で10,395社。日本全体の66.17%を占めている。2番目にスタートアップが多い自治体は大阪府の810社で、東京が9,000社以上の差をつけて圧倒している。

2012年時点では、東京のスタートアップは3,353社で日本全体の61.8%だった。およそ10年間で7,000社近いスタートアップが都内に生まれ、東京の占める割合は増加した。

次は金の流れだ。2022年の1年間で都内のスタートアップが調達した金額は9,341億円。これは新株を発行するエクイティファイナンス(用語解説)だけでなく、銀行からの借入なども含めた数字だ。

これに対し、国内全体の調達額は1兆1,908億円。東京だけで調達額全体の78.45%を占めていることになる。

スタートアップの66%が立地し、成長資金の78%が投下される東京。まさに一極集中状態だ。

調達「金額」は東京が圧倒も...「件数」は異なる光景

では地方のスタートアップは閑散とした状況なのかと言えば、そんなことはない。むしろ、緩やかではあるが着実に成長している。

まず、年間のスタートアップ設立数を見ていく。東京では2015年に693社が生まれ、同年に設立された全国のスタートアップのうち71.22%を占めていた。だがこれ以降は地方の設立数も増加し始め、東京の割合は低下。2022年には63.65%と、直近10年で最も高かった時期と比べて7.57ポイント下落している。

次は資金調達。スタートアップは一般に、外部からの資金調達を経て成長スピードを加速させていく。地方では、この資金調達活動が件数、金額ともに上昇トレンドにある。例えば大阪府は、2017年には85件だったが、年を経るごとに右肩上がりに成長し、22年には190件にまで伸びた。京都府も66件(2017年)から121件(2022年)と成長軌道を描く。福岡県や愛知県も徐々に厚みを増している。

加えて、より広い範囲の地方発スタートアップに成長資金が供給されるようになった可能性もある。注目したいのが「調達実績ゼロ」スタートアップの割合だ。

外部からの調達を公表していないスタートアップは、東京では2023年4月時点で6,243社。東京都全体の6割程度にのぼる計算だが、これは全国的にみても低い数字で、富山県や三重県、佐賀県など8割を超える地域もある。東京ほど投資家が集積していない地域では、調達実績ゼロ割合も高くなる傾向にあるのだ。

これに対し、調達ゼロの割合が東京の水準に近い地域も出ている。大阪府では、5年前・2018年は480社(78.7%)だったが、23年4月には70%にまで低下。京都府も18年は214社(74.0%)だが、23年4月には66.8%となっている。

こうした数値の変化は、地方スタートアップに投資マネーなどが流入しやすい環境が整いつつあることを示唆している。地方に根ざした事業会社や地方大学発のVCなど、投資家側にも多様性が増してきたことが背景にありそうだ。

地方ではスタートアップの設立が安定して増加し、資金調達も盛んに実施されつつある。この変化は「都道府県別の資金調達件数」に如実に反映されている。

東京の占める割合は、2012年は83.55%だったのが、2022年は71.18%と大きく減らしている。東京以外のエリアはいずれも5%に満たず、明確に東京に迫る自治体は出現していないものの、各地域がじわじわと食い込んでいる構図だ。

ただし、上述のように、金額で見た場合には東京のスタートアップが依然として78%(9,341億円)と大半を占めている。過去数年と比べてやや減少しているものの、大きな変化があるとは言い難い数字だ。

背景には、新たに地方で生まれたスタートアップの若さがあるとみられる。設立まもない「シード」や「アーリー」ステージでは、成長期と比べて一回の調達で集める金額も少ない。成長期以降のスタートアップに投資する投資家の集積にも課題がありそうだ。

スタートアップ育成に力入れる地方都市 巨額の調達実施する企業も

東京以外の地方自治体にとっても、スタートアップ育成や支援体制の拡充は重点領域となっている。

国は2019年に「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を発表。地方自治体・大学・金融機関など民間組織がタッグを組んだ「コンソーシアム」に対し集中的な支援を実施している。東京都や渋谷区も参加しているが、札幌、仙台、中部、関西、広島、北九州、福岡とほぼ全国から自治体が加わっている。

コンソーシアムの選定は2020年から始まっていて、2023年5月時点で明確な効果を計測するのは難しい。一方で、参加自治体のスタートアップを対象にした資金の流れを見ると、調達件数・金額いずれも多くの自治体で増加傾向にある。

件数・金額ともに伸びが著しいのは大阪市だ。2022年には157件の調達があり、合計金額は273億1,100万円だった。京都市も着実に伸びていて、22年は103件の調達で247億1,600万円だった。

これらの地域には有力な大学が立地していて、大学の研究成果を活かしたスタートアップが生まれている。大阪大学発で、2022年に上場を果たしたマイクロ波化学(大阪府吹田市)や、東京大学・京都大学の研究を元にiPS細胞から血小板を作り出す技術の事業化を手掛けるメガカリオン(京都府京都市)などが含まれる。

関西圏で積極的な投資活動を展開するのは、京都に本社を置く独立系VCのフューチャーベンチャーキャピタルだ。2011年から23年4月にかけて、大阪府で28件、京都府で39件の投資を実行している。いずれも他の投資家を抑えて地域最多だ。大阪ではSMBCベンチャーキャピタル、京都では京都大学イノベーションキャピタルもそれぞれ存在感を発揮している。

関西以外にも目を見張る動きがある。「福岡スタートアップ・コンソーシアム」の福岡市や、中部地方の自治体などで構成される「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」に所属する名古屋市では、地域全体の調達額の大半を占める大型調達を実施するスタートアップも出現している。

このうち、自然エネルギー発電の設計などを手がける自然電力(福岡県福岡市)は2022年に合計で744億円規模の調達を実施。この年の福岡市全体の調達額は870億円だから、影響の大きさが分かる。自動運転技術のためのオープンソースソフトウェア「Autoware」を手がけるティアフォー(愛知県名古屋市)も同年に121億円の調達を発表している。

これらの地域は、資金調達の件数・金額ともに上下動を繰り返しながら伸びている。特定企業の大型調達により全体の金額も左右されるが、全体としてエコシステムが形成されつつあると言えそうだ。

地方におけるスタートアップ創出は、国の「スタートアップ育成5か年計画」にも盛り込まれている。計画は、地方大学による支援や、地域金融機関からの投資促進などを促進していくとしている。実際に関西圏では大学発のベンチャーキャピタルによる投資が盛んなほか、愛知県や静岡県では静岡キャピタル信金キャピタルなど、金融系投資プレイヤーからの調達が多くなっている。規模では未だ東京に及ばないまでも、5か年計画の期待する方向へ進んでいると見て良さそうだ。

(データ分析:井伊悠斗 城間正人 石渡戸紘 執筆・編集 高橋史弥)

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