ランキングレポート

2023年世界時価総額ランキング。世界経済における日本の存在感はどう変わった?

2023-03-03
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

日本の「失われた30年」が始まったのは1990年代初頭のことだ。グローバル市場を席巻していた日本企業はバブル崩壊を皮切りに勢いを失っていき、その後、急成長する海外のIT企業などに世界上位の座を奪われた。

平成元年(1989年)の世界時価総額ランキングをみると、トップ50のうち32社を日本企業が占めている。翻って2023年は、日本企業の名前はない。最も順位が高かったのはトヨタ自動車の52位で、まさに隔世の感がある。日本企業が隆盛を誇っていた時代と、現代の世界的大企業たちの姿を見比べていく。

1989年 日経平均が史上最高値を記録。日本勢が6割

1989年の時価総額ランキングでは、NTTが1,639億ドルで1位に輝いている。NTTは1987年に上場。民営化に伴い政府保有株式の2/3が売却されることになり、信頼性の高さが喧伝されたことも相まって空前の株式ブームを巻き起こしたことでも知られる。

2位以下は日本興業銀行・住友銀行・富士銀行・第一勧業銀行と金融機関4行が続き、トップ5を日本勢が占めている。当時の日本は製造業が経済の中心。トヨタ自動車(11位)や日産自動車(26位)といった自動車メーカーが名を連ねている。また、大きな付加価値を生み出していたのがエアコン・テレビなどの家電や半導体だ。「メイド・イン・ジャパン」がグローバル市場での繁栄を謳歌し、半導体シェアも50.3%で世界トップ(1988年時点 / 経済産業省)。その好調ぶりを示すかのように、日立製作所(17位)や松下電器(18位)、それに東芝(20位)や日本電気(NEC / 48位)といった企業がランクインしている。

ハーバード大名誉教授で、知日派の社会学者として知られたエズラ・ボーゲル氏(故人)が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を世に送り出したのは1979年のことだ。それから10年たったこの年は、年末に日経平均株価が3万8,957円44銭と史上最高値を記録。日本企業にとっては「この世の春」とも言えた時代だ。

2023年 米中メガIT・医療・半導体が躍進。日本勢はなし

2023年1月末時点のランキングでは、アップル・マイクロソフト・アルファベット(グーグル)・アマゾンとアメリカ発のITプラットフォーマーが上位に並ぶ。2位のサウジアラムコはサウジアラビアの国営石油会社だ。

国別のランクイン企業を見ると変わりようは明らかだ。かつて50社のうち32社を占めた日本勢の姿はない。1月時点ではトヨタ自動車が47位とランク圏内にとどまっていたが、2月時点では52位となった。

代わりに伸びたのはアメリカ(32社)と中国(5社)だ。アメリカは「GAFAM」に代表されるITプラットフォーマーに加え、投資家のウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ(6位)、イーロン・マスク氏がCEOを務める電気自動車・テスラ(7位)など著名な企業が並ぶ。

中国勢はテンセント(14位)やアリババグループ(32位)などがランクインしている。テンセントはSNS「微信(ウィーチャット)」やモバイルゲーム事業に強みを持つ。アリババはECプラットフォームが中核で、中国市場を見据える日本メーカーなどにも馴染みが深い。両社はいずれも規制当局から締め付けを受けリスクが顕在化した影響で株価を大きく下げたが、中国14億市場での存在感は依然として強大だ。

業種別では、30年余りで「IT・通信」がより大きなウエイトを占めるようになった。新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ラゲブリオ」を開発したアメリカのメルク(28位)やワクチンを供給したアメリカのファイザー(38位)、それにイギリスのアストラゼネカ(45位)など医療関連も伸びた。

目立つのは半導体銘柄だ。半導体はスマホから自動車、それにスーパーコンピューターなど幅広い用途に使われる。このうち、演算などを司る「ロジック半導体」は回路幅が狭ければ狭いほど性能が上がるとされ、アメリカや中国、それに日本などが政策レベルで継続的な確保を打ち出している。

回路幅「3ナノメートル」と世界最先端の技術を擁するのが台湾・TSMC(台湾積体電路製造 / 13位)だ。同社は半導体の受託製造を専門に手掛ける「ファウンドリ」という形態をとる。世界でも例を見ない技術力から、台湾の国際社会上の存在感をも引き上げているとされ、台湾では台風から市街地を守る山脈になぞらえて「護国神山」とも呼ばれる。

半導体関連ではほかにも8位にNVIDIA(アメリカ)が入った。こちらはTSMCとは対照的に、工場を持たずに設計を専門とする「ファブレス」だ。韓国のサムスン電子(23位)も製造を手掛ける。34位に入ったオランダのASMLは、半導体の製造過程に欠かせない「露光装置」の世界最大手だ。

「アフターコロナ」でランク入り企業も受難

ランキング上位に入ったメガITも2023年は試練の時を迎えている。

コロナ禍で在宅シーンが増えたことによる需要増や金融緩和による投資マネーの流入などで恩恵を受けたが、2022年ごろから状況は一変した。需要の落ち着きにインフレ対策として開始された利上げが重なり、株価の面でも反動を受けている。

日経ヴェリタス(2022年12月25日号)によると、GAFAM5社の時価総額は金融緩和を追い風に21年末には合計10兆ドルを超えた。しかし23年1月末時点では6兆7,283億ドルと大幅に下げている。

ランキング1位のAppleは2022年1月に、史上初めて時価総額3兆ドルを突破した(ロイター通信 2022年1月4日)。iPhoneやMacBookなどの主力製品に加え、自動運転やVR(仮想現実)など新興分野への期待も重なった。一方で利上げによる景気冷え込みのほか、中国の厳格なコロナウイルス対策による消費の減速懸念などが重なり、年初には2兆ドルを割り込んだ。2月末時点では2兆3,242億ドルとなっている。

特に下落幅が大きいのはMeta Platforms(旧Facebook)で、かつて1兆ドルを超えていた時価総額は4,454億ドルと5割以上のマイナス。コロナ禍などでデジタル広告の出稿量や単価が減少したことなどが響いた。

「巣ごもり需要」の恩恵が特に大きかった動画配信サービスも苦心しているようだ。2022年にランクインしていたネットフリックスとウォルト・ディズニーは揃ってランク圏外へと転落した。

2023年2月時点では、アメリカ中央銀行の利上げ幅は縮小しているものの利下げや緩和政策への転換は見通せない。さらにロシアによるウクライナ侵攻の長期化や、先端半導体関連の輸出規制に波及した米中の技術覇権争いなど、地政学的な要素が民間企業の業績や株価の変動要因となっている。こうしたランキングは今後、地球規模のマクロ経済の不確実性を反映しながら変動していく可能性がある。

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