コラム

「VALU」「The Chain Museum」などを次々に生み出すPARTYの意思決定システム

2019-04-12
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
「VALU」「The Chain Museum」などを次々に生み出すPARTYの意思決定とは

経営者は「決断が仕事」であると表現されることがある。決断の専門職、という意味だ。ところが、世の中には、ほかにも「決断することが仕事」とされる職業があるように思う。ひとつは、クリエイティブディレクターと呼ばれる仕事だ。今回、STARTUP DBでお話を伺った、PARTY創業者の中村洋基氏も、自身の仕事は決断だと語る。それでは、決断を仕事にする人物は、どのように日頃の意思決定と向き合い、あらゆる決断を下すのか。意思決定のヒントとなるようなお話を、今回は、見ていこう。

意思決定の始まり、とは?

■中村洋基(なかむら・ひろき) (株)電通にて、斬新なアプローチのバナー広告を次々と発表し、やがてデジタルキャンペーン全体を手がけるようになる。2011年独立、4人のメンバーとPARTY設立。エンジニア出身であることから、プログラミングや、データが持つ面白さと、SNSなどのコミュニケーションを利用したアイデアを組み合わせてつくる、新しいエンターテイメントを模索している。カンヌ国際広告祭、One Show、D&AD、NYADC、ロンドン広告賞、Adfest、文化庁メディア芸術祭など、内外300以上の広告賞を受賞、審査員歴多数。電通デジタルの客員ECD、株式会社VALU取締役、TOKYOFM「澤本・権八のすぐに終わりますから」司会・パーソナリティ。
中村洋基(なかむら・ひろき)(株)電通にて、斬新なアプローチのバナー広告を次々と発表し、やがてデジタルキャンペーン全体を手がけるようになる。2011年独立、4人のメンバーとPARTY設立。エンジニア出身であることから、プログラミングや、データが持つ面白さと、SNSなどのコミュニケーションを利用したアイデアを組み合わせてつくる、新しいエンターテイメントを模索している。カンヌ国際広告祭、One Show、D&AD、NYADC、ロンドン広告賞、Adfest、文化庁メディア芸術祭など、内外300以上の広告賞を受賞、審査員歴多数。電通デジタルの客員ECD、株式会社VALU取締役、TOKYOFM「澤本・権八のすぐに終わりますから」司会・パーソナリティ。

ーー中村さん、もともとは電通の出身ですよね。経歴を拝見して、今はPARTYを設立して、本当にいろいろな取り組みをなさってらっしゃるなと思って。

中村氏(以下、中村)「はい。自分の“価値”を売買できるSNS『VALU』を立ち上げたり、ホリエモンや医師らと行なっている『予防医療普及協会』の理事メンバー、表参道の『TINTO COFFEE』のオーナー、最近では、古巣の電通とスタートアップをつなぐ『GRASSHOPPER』という登竜門イベントを作っています」

ーー多いですね……。そもそもですが、どうしてそんなにたくさんのプロジェクトに関わろうと思ったのでしょう。

中村「前職の電通を辞めて『なんでもやってみよう』と決めたからです」

ーーというと?

中村「電通はすごくいい会社で、正直、死ぬまで安泰でしたが、ルールが完成している分好きなことを試す自由がなかった。辞めた以上、そこでできなかった新しい可能性は全部やってみようと。……とは言ってもカッコいい『自分で選んだ道』ではぜんぜんないです。電通はアルバイトで拾ってもらって、たまたま。PARTYも、代表の伊藤に誘ってもらっただけ(笑)。自分では決めていません」

ーーそうは言っても、嫌だと感じたらその道を選ぶことはないですよね。判断の軸になにがあったのか気になります。

中村「ぼくはスタートアップの経営者のような社会的ミッションを帯びているキャラじゃないので、フィールドはなんでもいいんです(笑)。だから人の誘いにホイホイ乗ってなんでもやってみる。苦手だったらギブアップ。ただ、たいていにおいて、ある程度ルールが見えたら、誰よりもうまくやる自信があります」

ーーじゃあ、幼い頃から今の仕事につながるような出会いがあったから自然とクリエイティブの世界にってほうが近いのですかね。

中村「子どもの頃から運動がキライで、パソコンは好きでしたね。プログラミングも好きでした。実家はトンカツ屋だったのですが、中学の頃に描いていたマンガを親に見られて『お前は俺たちの子だから、芸術性なんてない』と言われたことが忘れられず、クリエイティビティが評価される職業につきたいなあ、と漠然とは思っていましたが……。まあ運ですね。意思決定していません」

ーーたしかに。キャリアにおける意思決定の話を伺おうと思っていましたが、中村さんに伺うのは少し違ったのかもしれません……。

中村「『意思決定』ってコトバ、おもしろいですよね。スタートアップ用語でいうと、すごくカッコよく聞こえます。でも『今日はこっちのカップラーメン食べるか』って『オレはいま、意思決定している!』と思ってやるんですかね(笑)」

ーーそう思うと、スタートアップで使われる意思決定って、なんだか意味が違って聞こえるような気がします。違いがあるんですかね?

中村「ぼくは、自分だけじゃなくて、他人にも責任を持つようになったら『意思決定』と定義します。一般的には若い頃は部下もいないので、意思決定がある人は少ない。それよりも、目的について『いかに最高以上の結果を出すよう、努力と工夫をするか?』が若者にとって一番大事だと思います。 いっぽう、意思決定とは『周囲の人や共同体をハッピーにできる』判断をすること。クリエイティブディレクションのときは基本それで動いています。『クライアントにとって、チームにとって、広告やサービスを受け取る人にとって、どれが最良なのか?』という思考回路ですね」

ーー中村さんは、いつから意思決定をしていたなと感じていますか?

中村「チームでクリエイティブディレクターを任されたときからです。たとえば、広告キャンペーンで、チーム4人からおもしろいアイデアの種が5個ずつ出る。合計20個のアイデアの中から、1〜3個に決める。何なら現実的か、効果的か、何ならPARTYとしてやるべきことか。PARTYは『やったことのないことを、きちんと作りきる』が基本のスタンスです。 どれを採用したらチームが笑顔になるか。中村とまた仕事をしたい、と思ってもらえるか考えるんです。でも、ダメな人は、決められないで20個のうち10個くらい残しちゃう。もしくは、自分で出した案にしてしまう。ぼくは、自分ではアイデアを後ろ手に持っておき、明らかにそれが最も優れている場合以外、最後の最後まで出しません。他のアイデアに光るものがあったら、自分のアイデアはその場で圧殺します。自分のアイデアを通すことよりも、ギラギラしたチームが、ここならではの結果を出せることのほうが伸びしろがあるんです」

ーーなるほど。それが意思決定の始まり、ということですね。

中村「そうですね。どうするとメンバーをスポイルするか。どうすると快活になるか。どこなら周囲の話をよく聞き、どこはバッサリと決断するか。それを短期的に何度も繰り返せたのが、いい経験だなと」

どんなトラブルも、宇宙から見たらどうでもいい

ーー先ほど、意思決定の際には、ハッピーになる道を選ぶとおっしゃっていましたよね。そのためにできるのは、どういったことなのでしょう。 中村 「まず前提の話から入りますが、ぼくはAとBとCの選択肢、3つに大した差はないと思っています。表現者失格かもしれませんが。迷うだけ時間の無駄。むしろ、その選択肢ができる『前提』が大事であることがほとんどです。

ーー先ほど、意思決定の際には、ハッピーになる道を選ぶとおっしゃっていましたよね。そのためにできるのは、どういったことなのでしょう。

中村「まず前提の話から入りますが、ぼくはAとBとCの選択肢、3つに大した差はないと思っています。表現者失格かもしれませんが。迷うだけ時間の無駄。むしろ、その選択肢ができる『前提』が大事であることがほとんどです。 たとえば『バズ狙いのムービーを作ってほしい』と言われたら、バズになりそうな3つのアイデアより『そもそも本質はバズを起こすことなんだっけ? その前にタイムスリップできるなら、戦略のどこから変えれば、もっと圧倒的にいいやり方に到るのか?』ということを考えます。 ちなみに『単純にバズりたい』というクライアントはだいたい本質が見えていないので、頓挫する可能性がかなり高いです。ABCの前に『S』という選択肢があるはずなんですよ。いずれにせよ、眼の前のABCにはあまりこだわりません」

ーーそうでしょうか。たとえばキャリアに置き換えても、A社、B社、C社への転職は大きく意味が変わると思います。

中村「転職は、企業側と雇用される人の側との、情報の非対称性がメチャクチャ高い分野ですよね。本来は、ニーズと供給スキル、およびカルチャーフィットと条件が100%に近いA社、B社、C社なら、やっぱり当人にとって『あんま変わらない』んじゃないかと思います。これは社会実装されてないので、イノベーション待ちな部分ですね。 PARTYは、超プロフェッショナル型企業なので『何が自分の軸か』にこだわります。たとえばRubyが三度の飯より好きで、そこに軸足があって、まだ見ぬ何かをやりたい、自分のキャリアを伸ばしたい人にとって、超ハッピーな会社であるようにデザインしてます」

ーーなるほど……。

中村「話を戻しますと、クリエイティブディレクションという意思決定だらけの分野において、必要なのは『経験』と『教養』だなと感じるんです」

ーー経験と、教養。

中村「経験は、先読みするための素材です。経験を活かすからこそ、同じことを前にも体験していたら、悪そうな結末を選ばないわけです。経験をしなくても先読みができる人もいますよね。孫さんは五手先くらいまで読めるそうですが、ぼくは優秀じゃないので二手先くらいまでが限界ですけれど(笑)」

ーー(笑)。教養、というのは。

中村「電通の古川裕也さんに教えてもらった言葉です。企画を考える脳は、マーケティングとは違うんです。企画を考えるのに必要な素材と、成功事例の知識が脳内にあると、ふいにアイデアが『ふわっと降ってくる』んです。マーケティングの垂直思考が徹底的な調査と蓋然性で答えを導くとしたら、企画のための水平思考は『降ってくるの待ち』なんです。 では、そんなテキトーなやりかたで、なぜ頻繁に『それは面白いね!』という、いいアイデアを思いつく人がいるのか。水平思考を鍛えるのはとても難しい。これは、予備知識量と、そもそもの生き方でだいぶ違ってくる。そういうものを総合して『教養』と言っています。 ……ああ、すみません。キャリアの話ですよね。どうもADHD気味で。ちなみにADHDの人は水平思考に向いていると思います。 経営者には、必ず『HARD THINGS』がつきものです。ぼくも転職後うつ病になりかけて、薬を処方してもらったり、頭にゴマ油をかけたりした時期もありました。PARTYには自分より優秀な人間がひしめいていたし、大企業一社しか経験していない自分にとっては、カルチャーフィットも難しかったので『なんで電通やめちゃったんだろう……』『転職して失敗したかも』とも考えたりしました。今は、経営側に立って、また挫折の連続です。そのときに、どう捉えるのかが大切なのかなあと」

ーー中村さんは、どう捉えるのですか。

中村「宇宙から見たらどうでもいい、と考えます」

ーー!?

中村「これ、タモリさんが若い頃の言葉でして。『笑っていいとも!』が一番ブレイクしていた時期に『まあ、私も結構活躍しているみたいなんですけども、宇宙から見たらどうでもいいですね』と。宇宙からみたら、ぼくの意思決定なんて、チリのように小さな悩みですよ」

ーーそれぐらいの大きさで物事を捉えれば、確かにそうなんでしょうけれど……。

中村「大事なのは、そこから。『どうでもいいから楽な方に流される』のではなく、開き直って、自分の人生を生きられるか。やっぱり目の前の仕事は、自分にとって一つひとつがチャンスであり、大事な時間を使うものでもある。それに自分がどうオトシマエをつけるか、あきらめないかっていうのは、その人の『教養』次第なんじゃないかと思うんですね。 ぼくは、大学の指定校推薦に落ち、ガムシャラになって勉強したら、自分の実力よりはるかに高い大学の問題に『昨日音読した問題がそのまま出た』んです。死ぬほど頑張れば、絶対に結果は出る。どこかで花は絶対に開くときが来る。自由だからこそ、気楽に死ぬほどがんばろう。それが、宇宙の塵芥(ちりあくた)になって投げ出されたぼくの人生の結論であり『教養』です。……なんとか『教養』の話に戻ってこれましたかね(笑)」

大成する起業家に必要なのは「誠実さ」「へこたれない強さ」「夢」

ーー根本的にはどんな判断もちっぽけなものでしかないから、気負うことなく気ままに選んだらいい。すごく魅力的な考えのように思います。たとえば、PARTYでは、スタートアップに対する出資も行なっていますが、そのときに判断も同様に行われているのでしょうか。

中村 「まず、投資家としては、ぼくなんかヒヨッコです。その前提で恐縮ですが……。PARTYがお手伝いしやすいのは、たいていシリーズB以降の『事業の軸が見えてきて、マーケティングやクリエイティブで事業を思いっきり伸ばしたい』企業です。しかし、実際の出会いはもっと前、シード〜シリーズAラウンドであることが多いです。そんなとき、先輩方がよく言うように、事業ではなく人で見ていますね。『誠実さ』『へこたれない』『夢を語れる』人。もともと、スタートアップの経営者って、世間とズレたところがあって、そのズレに問いを出して、真摯に立ち向かう努力ができる人だと思います。並大抵ではない努力が必要とされます」

ーー努力ですか。

中村 「そうですね。でも、こういう考えって平成生まれには流行らないらしいですよね。コスパとか効率を考える世代って言うじゃないですか(笑)」

ーーたしかにそういう話も耳にしますね。ただ、続けるから成功するっていうのもまた、真理のようには思います。

中村 「上記の3点セットを持ち、かつ『ズレ具合(世の中と、事業がぼく好みにいい感じにある意味ズレている)』が一致した幸運な出会いができた場合は、土下座ばりに出資をお願いして、あらゆる自分の知識や努力を総動員して、この人と事業を支援し続けてあげたい、と思っています」

ーーでは、そんな中村さんだかこそ贈れる、起業家へのメッセージというと、どんなものがありますか? 中村 「ぼくは、新しいコミュニケーションを作るのが好きです。PARTYで今やっている『The Chain Musium』でも、アートを通した新しい人々のコミュニケーションを作ろうとしています。ぼくは欲張りで、かつ自分に自信がないので、自分の事業だけじゃなく、みなさんの夢にも関わりたい。そのために(狭いですが)業界トップを疾走しつづけて得たクリエイティブとマーケティングの知識、PARTYのプロフェッショナル人材を惜しみなく総動員するつもりです。お会いできる日を楽しみにしています!」

ーーでは、そんな中村さんだからこそ贈れる、起業家へのメッセージというと、どんなものがありますか?

中村 「ぼくは、新しいコミュニケーションを作るのが好きです。PARTYで今やっている『The Chain Musium』でも、アートを通した新しい人々のコミュニケーションを作ろうとしています。ぼくは欲張りで、かつ自分に自信がないので、自分の事業だけじゃなく、みなさんの夢にも関わりたい。そのために(狭いですが)業界トップを疾走しつづけて得たクリエイティブとマーケティングの知識、PARTYのプロフェッショナル人材を惜しみなく総動員するつもりです。お会いできる日を楽しみにしています!」

執筆:鈴木しの取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:高澤啓資

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