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10年先の未来が3年後に訪れる今。経済産業省がオープンイノベーションのためにできること

経済産業省は令和2年度の税制改革として「オープンイノベーション促進税制」を発表した。

これは令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に国内の事業会社やその国内CVCがスタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される制度だ。

経済産業省としては、国内企業によるスタートアップへの資金供給を活性化し、今後の成長につなげる考えだ。

今回は、この税制の創設・執行を担当する、経済産業省産業創造課長 金指壽氏(以下、金指氏)に「日本のオープンイノベーションの課題と未来」について話を聞いた。

■ 金指壽(かなざし・ひさし)
経済産業省 産業創造課長。東京都出身。1998年東京大学工学部卒業、同年、通商産業省入省。09年産業再生課、11年大臣官房総務課、12年原子力安全保安院及び原子力規制庁、14年内閣官房日本経済再生総合事務局。16年ジェトロ・ロサンゼルス事務所。19年から現職。

「オープンイノベーション=従来の成功体験の否定」ではない

国内のスタートアップ市場が盛り上がるにつれて、それと同時に「オープンイノベーションの必要性」があらゆる場面で話題になっている。ところで、そのオープンイノベーションを牽引する金指氏は、そもそもオープンイノベーションをどのように定義するのか。

金指 「いわゆる日本企業の『自前主義』の対義語と捉えていただくのが良いのかなと思います。日本経済の歴史を考えてみると、戦後からV字回復を遂げ、オイルショックを乗り越えられた背景には、自前主義という概念が大きく影響しています。

欧米企業を目標とし、均質で高品質な工業製品を作る点において日本は高い評価を受けてきました。結果として、ものづくりの面においては世界一の競争力を手に入れたわけです。

ただ、これからの時代は自ら新しいビジネスモデルを生み出す必要性があります。コロナ騒動があった今はまさに、ディスラプティブ──大変革を求められているタイミングです。

これまでの自前主義からは視点を変え、変革に対応するため、社外の人々と協調しながら技術や考え方を取り入れイノベーションを生み出す必要があります。私たちはこの考えを念頭に置きながらスタートアップ支援に取り組んでいます」

日本企業からしてみると、今までの成功体験を一度横に置き、新たな考えの元、イノベーションを促進していかなければならないのが現状だ。多くの企業にとって突然の方針転換はそう容易に受け入れられるものではないだろう。

金指 「慣性の法則は必ず働くものだと考えます。オープンイノベーションを考えるとき、企業によってはそれこそ自己否定を必要とするものだと捉えてしまうケースがあるようです。

ただ、それは断じて違うとお伝えしたいです。あくまでオープンイノベーションの根幹にはこれまで培ってきた企業それぞれの強みがありますし、それらをどう活かすのか、新しいアイディアと融合させるのかを考えるものだと思っていただければと。
企業は生き物のように常に形を変えるものですから、組織のトップから末端まで、常に自己否定はせず新しいアイディアと共存しながら事業を生み出していただきたいというのが私たちの考えです」

 20年かけて作った土壌が、今大きく動き出す

これまで経済産業省では、オープンイノベーションにまつわる改革や取り組みを毎年進めてきた。今回のオープンイノベーション促進税制は、オープンイノベーションの必要性が浸透した今、最後の押しの一手としてのポジションを担う制度と金指氏は触れる。

金指 「私自身、1998年に経済産業省に入省したのですが、その頃からベンチャー政策としてあらゆる取り組みを行ってきました。起業に必要な資本金額の改正を含む商法特例の制定などがそれに当たります。

時代が進むにつれて日本企業のスタートアップへの理解、期待は増しており、ユニコーンも創出できています。20年ほどかけてエコシステムを作ってきたので、今後はさらにスタートアップへの投資額を増加させ、市場全体の成長を図りたいと思っているのです。

オープンイノベーション促進税制の取り組みは、いわばそのためのインセンティブのような制度。多くの日本企業に活用していただくことで、さらなる循環を生み出していきたいです」

日本のスタートアップ投資額は年々成長を続けており、スタートアップの企業数もここ1〜2年急速に増加している。事業会社からの投資額が増えるだけでなく、CVCを新しく組成する企業数も増加。

スタートアップとのオープンイノベーションに着手するために腰を上げる企業が続々と登場している状況なのだ。ただ、そんなタイミングでの新型コロナウイルス蔓延による市場の縮小予測について金指氏はどう考えているのか。

金指 「スタートアップの資金調達環境はたしかに厳しくなると思っています。ただ、私たちも指をくわえてこの状況を見ているわけではありません。未来への投資を検討できない企業のため足元の資金繰り対策に踏み切ったり、官民ファンドの立ち上げを行いエクイティ性の資金供給も積極的に行なっていく方針です。

また、社会全体として見ると、アフターコロナのタイミングでおそらくリモートワーク、自動化、データ活用などの必要性が強まっていることでしょう。現在の動向を見ながら、日本や世界全体がどのように変化し、何を求められているのか、早い段階でソリューションを提示できる仕組みは考えていかなければなりません」

突然訪れるブレイクスルーに日本企業は対応できるか?

新型コロナウイルスの蔓延によって、世界的に働き方が見直され、企業はデジタルトランスフォーメーションを早急に求められる環境になった。

10年ほどかかるとされた変化は2〜3年ほどになると、金指氏は予測しており、世界中の予定表は一気に前倒しされる見込みだそうだ。今後はその社会に適応しながらスタートアップと大企業とのイノベーションを起こすことが必要になる。

金指 「オープンイノベーションの考えが広まってきたとはいえ、実は日本企業の多くはいつ花が咲くのかわからないものへの投資の不安を抱えていたはずです。ところが、この事態で変化のスピード感が急速に早まっています。それはつまり、見えなかったはずの市場が突然目の前に現れることに他なりません。いち早くタイミングを掴み、事業をグロースさせたもの勝ちの世の中ということでもあるのです。

ブレイクスルーは思っていたよりも早く訪れるはずなので、イニシャルの不安を越えてオープンイノベーションに取り組む企業が増えることを強く望んでいます。また、これまでは日本から世界へという事業拡大ルートが一般的でしたが、これから日本市場と世界の市場を同時並行で攻略する必要性すらあります。来たる波に乗るためにも経済産業省としてできることを最大限やっていきたいですね」

最後に、金指氏は経済産業省の立場から大企業やスタートアップに向けて届けたいメッセージを語ってくれた。

金指 「どういった規制がイノベーションの阻害要因になるのか、どう改革されたら進めやすいのかなど、情報をキャッチアップできるよう発信いただきたいと思っています。

大企業もスタートアップも役所との付き合いは面倒だと考えている方が多いのではないかと思いますし、私自身もその気持ちは十分に理解しているつもりです。ただ、省として筋の悪い改革は行うべきではないと考えますし、できる限り最短ルートで改革を進めていきたいです。
そのためには、まさに官民一体となって規制改革に取り組む必要があります。スタートアップはイノベーションを生み出す起爆剤としてさまざまなアイディアや事業を生み出していただきたいですし、大企業はこれまで培ったノウハウや資金などでスタートアップを支えていただけたらと。そして、私たちにも心の声を届けてください。垣根が無くなることで作れる未来がきっとあるはずですから」

執筆:鈴木しの
取材・編集:BrightLogg,inc.
撮影:戸谷信博

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