コラム

「けんすう」古川健介氏が明かす「サービスの作り3つの観点」

2019-03-31
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
インターネットで本能を刺激する。けんすう氏が考える、伸びるサービスに共通すること

「けんすう」の名で知られる古川健介氏。ライブドアへの事業売却、nanapiの創業、KDDIへの売却、今年は「アル」の設立など、広い世代に知られる起業家だ。インターネットとの出会いは、もう20年以上前にも遡る。時代の潮流にゆるやかに、ただし確実に乗り続けている印象を受けるけんすう氏だが、これまでの経験の中で感じるインターネットの世界で生きるためのTipsはあるのだろうか。

けんすう氏が考える、サービス作りの3つの観点

■古川健介(ふるかわ・けんすけ) ー1981年生まれ。19歳で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中に掲示板サイトを運営するインターネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任。2019年1月「アル」を設立。
古川健介(ふるかわ・けんすけ)ー1981年生まれ。19歳で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中に掲示板サイトを運営するインターネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任。2019年1月「アル」を設立。

(以下、けんすう氏)このメディアでは、スタートアップに興味がある人や、実際に起業している人が多く読んでいると思います。なので、今回は

1.サービス作りをする観点2.経営をする観点3.経営者としてインターネットでどう振る舞うか

の3点、お話したいと思います。1のサービス作りをする観点では、サービスの中でもとくに「ユーザーが投稿するサービスの設計はどうするといいか」という話をします。2の経営する観点では、「スタートアップがそういったサービスをうまく伸ばすにはどうしたらいいか」という話を、そして、3では「経営者という個人がインターネット上でどう振る舞うといいか」という話をします。

人間とはなんぞや、と考えてサービスを設計する

人間とはなんぞや、と考えてサービスを設計する

まずは「ユーザーが投稿するサービスの設計はどうするといいか」からお話します。これまで僕は、インターネットでのコミュニティサービスを作る、ということを多くやってきました。たとえば、学生時代は、大学受験生のためのコミュニティサイトを作ったり、レンタル掲示板の運営に携わったりしていましたし、起業してからもハウツーを投稿するCGMサービス、スマホでのQ&Aコミュニティなどを作ってきました。失敗したサービスを含めると10個以上作っています。そんな風に、インターネット上でユーザーさんが投稿することが主なサービスを作ってきたのですが、これはめちゃくちゃ難しいです。ほとんど成功したことはないのですが、それでも多くの失敗からいくつかユーザーさんが投稿したくなるサービスをつくるために必要なことがわかってきました。まず、人間の本能についてよく知ること。たとえば、コミュニケーションそのものは、人間の生存本能に直結していると考えています。人間は社会的な生き物なので、コミュニケーションで失敗すると、昔は生きるのが難しかったはずなので、そこに対してはすごく敏感です。たとえば、チャット型のインターフェイスにすると、そこを刺激することになります。チャット型のインターフェイスで質問をされると人は答えたくなってしまいます。コミュニケーションを否定することに対して根源的な恐怖があるので、やめるのにはそれなりの意思力が必要なのですね。昔、チャット型のQ&Aサービスを作ったときには20時間以上オンラインのユーザーさんが現れたことがありました。あまり、そのあたりの生存本能を刺激しすぎると、熱量が高くなりすぎてそういう人がでてきてしまう。ここまでやってしまうと、健康な生活を阻害することになるので、サービスとしてはあまりよくありません。また、所属したいという欲求もあります。コミュニティサービスだと、「自分の居場所のひとつだ」と思ってもらうと居続けたくなります。大規模な掲示板サービスなどでは、いろいろな掲示板ごとの雰囲気や風土を変えることで、居場所感を出してあげる、などは効果的だと感じました。このように、人間とはなんぞや、どういうところに欲を感じるか、などを深く調べ、考えて、実装するというのが大事な気がしています。

スタートアップを成長させるために、大企業を活用する

スタートアップを成長させるために、大企業を活用する

次に、そういうサービスを作ったときに、スタートアップを効率的に成長させるにはどうしたらいいのか、というところを考えたいと思います。ここでいう成長させるというのは、1〜2人から始めて、売り上げ数億円くらいとか、ユーザー数2,000万人くらい、のところまでのイメージで話しています。それくらいまでしか僕がいっていないので、それ以上はよくわからないので、そういうのが知りたければ上場している企業の人とかに聞いた方がいいと思います(笑)。まずは戦略の面から考えます。スタートアップは基本的には、弱い存在です。大企業と真っ正面から戦っては勝てません。だからといって、戦術でトリッキーなことをしても一過性のものです。経営は長期の活動なので、王道でないと、なかなか厳しいはずです。なので、戦術じゃなくて戦略で勝たないといけないのかなと思っています。そもそも、戦略とは何か?という点なのですが、個人的には戦略とは「てこの原理のように大きな成果を生み出す一点を見極めて、リソースを集中させること」だと思っています。大企業はリソースが多くありますが、それゆえに、大きな範囲の事業をやっています。なので、彼らがリソースを常に多く使えるとは限りません。なので、スタートアップのような弱い存在であればあるほど、大企業がリソースを使っていない一点を見極めて、大企業よりもリソースを投下する必要があります。なので、3人で1,000万円しかない状態で戦う、となった場合は、3人で1,000万円をどこか1点で使うことにより、大企業や他のスタートアップよりも、多くのリソースを費やすことになるポイントを見極めるべきです。スタートアップとコミュニティサービスが相性がいいな、と思うのが、インターネットユーザーの力を活用できるところ。そして、「知らない人をたくさん巻き込む」というのは不確実性が高まるので、大企業がやりたがらないポイントなんですね。コミュニティサイトを運営すると、そこでのトラブルなどが発展すると、企業にとってはリスクなので、あまりやりたがらない、もしくは、やるとしても規制を強めたりするので、そのあたりはチャンスがあると思います。というわけで、まずは「戦略をちゃんと練って、少ないリソースでも勝てそうなポイントを見つけて、そこで勝つと大きな成果が得られるところを見極める」というのが大事かなーと思いました。めっちゃ難しいですけど。

あと、汎用的に使える考え方としては「正しい問いをする」ということが挙げられます。

あと、汎用的に使える考え方としては「正しい問いをする」ということが挙げられます。よく、若手起業家の方からアドバイスを求められることが多いのですが、一番よく見るのが「問いを間違えてしまっている」ケース。ここは僕も間違いがちなので、えらそうなことは一切言えないのですが、確かにいえることは、正しい問いが立てられていないと、どんな優れた解でも意味がない、ということです。たとえばですが、「良いVCを教えてください」みたいな問いがあったとします。しかし、問題としては「3ヶ月後に資金がショートする」ことだった場合に、VCから調達する、というのはひとつの方法にすぎません。本来であれば、借り入れをする、コストを削減して支出を減らす、などいろいろな方法があるはずなのですが「資金を出してくれるVCを探す」という問いにしてしまうと、そこばかりに目がいってしまったりします。つまり、解決法のうちのひとつを問いにしてしまい、その解決法の精度をあげるところにフォーカスしてしまっているのですね。昔アインシュタインが「If I were given one hour to save the planet, I would spend 59 minutes defining the problem and one minute resolving it.(もしも私が地球を救うために1時間の時間を与えられたのだとしたら、59分を問題の定義に使い、1分を解決策の策定に使うだろう)」と言葉を残していました。そのくらい、問いの立て方は大切です。問いを間違うから、施策も間違う。ここに注意した方がいいと思います。どうしたら間違わないのかって話は『イシューからはじめよ』という本に詳しく書いてあったので僕からは語りません!読んでください!

「経営者」という個人がインターネットで意識するべき振る舞い

3つ目として、じゃあ経営者はどのようにインターネットで振る舞うといいか、というところです。個人的には、好きなように振る舞えばいいんじゃないか、と思うのですが、サービスを運営している弱いスタートアップはここでもファン作りなどをできると会社の成長に寄与していいんじゃないかと思います。で、そこで知っておきたいのは、人間は基本的に噂話がめちゃくちゃ好きということです。何かの本で読んだんですが、噂話って人間が生きる上でとても必要だったらしく、会話の70%くらいが噂話だ、という話も聞きました。古代の時代では、せいぜい150人くらいの単位で社会が構成されていたので、そこで「あいつは悪いやつだ」という評判が出てくると、生存が脅かされるのですね。なので、人間は人からの評判などを強く気にしてしまいますし、人が人をどう評価しているのか、というのが気になってしまう生き物なのです。で、よく言われるのですが、何をやっても割と2割は自分のことを好きになってくれて、2割は嫌ってくる、というのがあります。ここは変わらないので、2割の嫌いになってくる人のことは考えてもしょうがないので、無視したほうがいいです。一方で、大事なのは、中間にいる6割の人たちです。ここの層はふわふわしていて、あなたのことは好意的でも否定的でもなく、割とどっちでもいいのですね。いわば、そのときどきに合わせて意見を発する存在です。そして、本当かどうかは知りませんが、人間は、10人中4人が、同じ方向を見ると、8人までその人たちが増えるという話もあったりします。つまり、10人いて、2人が好意的に見てくれている中で、もう2人、好意的にすることができたら、8人までが好意的な人になってくれたりするのですね。当然、逆もまたしかりです。なので、6割の人の、ふわふわした状態で、何か否定的なことを言われたとしても、その否定的な意見を「アンチ」扱いして攻撃してしまうと、その人たちは当然、攻撃されたくない人たちなので、途端に本当にアンチに変わってしまうんですよね。バカな意見には、当然、バカだといっておいたほうがいいのですが、様子見程度の人が、たいして考えもせずに発言した否定的な意見にまでちゃんと反論すると、全体の流れが変わってしまうので、結果的に損しちゃうと思います。なので、適当な悪口とか、叩きに関しては「そうっすよね、すいませんー」くらいで対応しておいて、本当に問題がある場合のみ対応する、くらいで考えたほうが、経営者のインターネット上での行動としてはいいと思います。

執筆:鈴木しの取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:小池大介

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