コラム

「決断は今すぐしなくてもいい」。WAmazing・加藤史子が伝えたいキャリア論

2018-06-11
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
加藤史子 「動機が持続可能なのか見極める」リクルート出身、新規事業の仕掛け役が挑戦を続ける理由

インバウンド旅行者向けアプリと無料のSIMカードを提供する「WAmazing」。

代表取締役を務める加藤氏は、新卒でリクルートに入社。現在でも数多くの人々に知られるサービスに立ち上げから従事していた経歴を持つ。

そんな加藤氏が、リクルートを離れて立ち上げたのがWAmazing株式会社(以下、WAmazing)だ。インバウンド旅行者――とくに、中国・台湾・香港から旅行で日本を訪れたユーザーに向けてサービスを展開している。

リクルート時代、そして独立後の現在まで、数多くの決断を迫られる瞬間を経験してきた加藤氏は、どのようにしてこれまで歩みを進めてきたのだろうか。加藤氏の考え方の根幹に迫った。

“なんでもやる”から選んだリクルート時代

「動機が持続可能なのか見極める」リクルート出身、新規事業の仕掛け役が挑戦を続ける理由
加藤史子(かとう・ふみこ)― WAmazing株式会社 代表取締役慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1998年に株式会社リクルート(以下、リクルート)に新卒入社。 「じゃらんnet」・「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなどを担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。 「雪マジ!19」「Jマジ!」「ゴルマジ!」などを展開。2016年7月、WAmazing株式会社を創業。

新卒でリクルートに入社後、各サービスのリリースに従事した加藤氏の経歴は、比較的多くの人々に知られている。では、そもそも加藤氏はなぜリクルートを選んで入社したのだろうか。就職活動まで遡って加藤氏のこれまでを紐解いた。

加藤 「わたしは、SFC卒業後新卒でリクルートに入社しました。就職活動中に受けていた企業には、広告・メディア系があったのですが、いろいろな企業を見た結果リクルートに一番の魅力を感じたんです」

加藤氏が就職活動を行なっていた当時、情報収集源の主流はインターネットではなかった。就活生は、一様に分厚い情報誌を片手に企業情報を収集していたのだ。

数ある企業の中から選んだリクルート加藤氏の決断のポイントは、いったいどこにあったのだろう。

加藤 「面接を担当してくれていた人事の方がとても親身だったこともありますが、一番は企業としてさまざまな事業に挑戦していたところです。企業情報誌を眺めていると、広告業界にもメディア業界にも人材業界にも名前のある企業ってすごく珍しくて。『リクルート』とはいったいなにをしている企業なのだろう、と気になったので入社を決めました」

リクルート入社後、加藤氏が立ち上げに参画した事業は数知れない。代表的なサービスには、「じゃらんnet」や「ホットペッパーグルメ」などがある。その中でも、社内初の“トランザクション型(※)”のモデルを導入した、宿泊施設予約サイト「じゃらんnet」の立ち上げは、加藤氏にとって印象的な事業だった。

※トランザクションモデル:Web上で何らかの商取引が行われることよって収益を得るモデル

加藤 「『じゃらんnet』が立ち上がった当時は、まだインターネットよりも紙媒体の影響力が強い時代でした。見開き1ページで広告枠が何十万、何百万の世界のなかで、私たちが始めたのは1件で数百円程度しか利益の出ないモデル。小銭の音しかしない“チャリンチャリンビジネス”なんて揶揄(やゆ)されていました」

ビジネスモデルが新しいだけでなく、今となっては当たり前の“口コミ”の導入すらリスクと捉えられた。

加藤 「宿泊施設の掲載には、お金を払って広告枠を購入いただいている。それなのに、宿泊施設の悪い点を掲載するなんて言語道断という風潮がなかなか抜けなかったんです。しかし、ユーザーが必要としているのは、良い点のみを洗い出した情報ではなく、本当に役に立つ情報。ひるむことなく突き進むことが、サービスのためになると確信していました」

ライフイベントと共に変化するキャリアのかたち

WAmazing社長、加藤史子 ライフイベントと共に変化するキャリアのかたち

新規事業と共に走り抜けた2000年代前半。2007年に第一子を出産すると、加藤氏の事業に対する想いは少しずつ変わっていった。

加藤 「子どもを出産したとき、今よりもフレキシブルな働き方に変えていかないといけないと思ったんです。それまでは終電まで働いて、帰って寝て、また働いて……と、走り抜けてきたように感じますが、子どもの存在は生活を大きく変えるきっかけになりました」

息をするように働き続ける生活と、子どもと過ごす時間との共存。母になったことで芽生えた感情は、加藤氏の行動にも確実な変化を与えていた。

加藤 「同じ社内でもよりフレキシブルな働き方ができる場所をと考えて、『じゃらんリサーチセンター』に異動しました。研究員として働きながら、業界の流れを追うなかで見えたのが、観光業界の衰退と、国が立ち上げていた観光振興事業でした」

研究員でありながら立ち上げた「雪マジ!19」。19歳限定で全国100以上のスキー場のリフトを無料で利用できる、学生にとってはまさに夢のようなプランだった。

加藤 「バブル期に絶頂を迎えていたスキー産業も、当時は衰退の一途を辿っていました。なんとかして立て直そうと考えていくなかで思いついたのが、限定であることと、無料であることのふたつでした。もしも今無料で雪山に来てもらうことができたら、その後もきっとウィンタースポーツの楽しさに気がついて足を運んでくれるようになるのではないかと考えたんです」

“無料化”に際しては、各スキー場からは大きな反発があったのだという。それでも事業を続けてきたのは、加藤氏が長年培ってきた「ユーザーのためのサービス」を実現するためのタフな心構えがあったから。

リクルートからの独立を経て、WAmazingの創業へと踏み切った加藤氏。現在もなお、ユーザーありきのサービスを生み出すべく日々走り続けている。

加藤 WAmazingも、これまでリクルートで経験してきたさまざまな経験から生まれたサービスです。リクルートという大きな看板を捨てて立ち向かうことへの不安や戸惑いはありましたが、なにがユーザー本位のサービスなのかの軸をブラさないことで、強く意思をもってサービスと向き合えているような気がします」

挑戦、独立……大きな決断は「焦らない」ことから

WAmazing社長加藤史子、挑戦、独立……大きな決断は「焦らない」ことから

大手企業からの独立。決して簡単ではない選択に対する迷いはなかったのだろうか。「悩むことはないのか?」という編集部の問いに、加藤氏は答える。

加藤 「わたしは、決断は今すぐしなくてもいいのではないかと考えているんです。思い立ったときに即行動、みたいなのが風潮としては流行っていますが、必ずしもその限りではないと思っていて。大きな決断をする場合には、必ずその先に大きな壁があります。つらいことも必ずあるので、どれだけ自分と向き合えるのかが一番大切なポイントになってくるのではないでしょうか。とくにわたしの場合は、本当はなにがやりたいのかと自分に問いかける時間をつくることで、ゆっくりと結論を出すようにしています」

迷ったときにこそ、自分と向き合う時間をつくること。悩むこと、迷うことと素直に向き合うことで、本当の自分の心が見えてくるのだという。

加藤 「わたし自身、どうしたらいいかと人から相談されることが多いのですが、そんなときには必ず『自分の好きなようにしたらいい』と答えるんです。それは、どれだけ悩んでも相談しても、自分の好きなようにすることしか解決方法はないとわかっているから。人に相談することはもちろん重要ですが、最終的に判断するのは必ず自分です」

最後に、スタートアップの起業や転職を検討している方に向けてメッセージを伺った。

加藤 「まず、創業者になることと、スタートアップに転職することは大きく意味が異なります。創業者は万人におすすめできる働き方ではないので、自分自身が熱意を持って事業に注力できるかどうかがとても大切です。市場が大きいとか、儲かるとか、そういった基準だけで判断していたら事業はなかなか続きませんから。その点、スタートアップへの転職は挑戦できる領域も大きくなりますし、いろいろな点で企業としては整っていない部分もあるので裁量も大きいです。興味を持っているのなら一度挑戦してみるとおもしろいですよ」

スタートアップの創業と転職は、まったく異なるもの。「ただ、」と一息おいて、加藤氏は最後にこう続ける。

加藤 「創業も、転職も、どちらもチャレンジングな環境であることは間違いありません。でも、一歩踏み出した先には今までは経験できなかった濃密な時間や、気がついてこなかった新しい価値観が待っています。もしもそんな経験に興味を持っている方は、ぜひ新たな環境へと踏み込んでみてください」

執筆:鈴木しの取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:三浦一喜

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