コラム

日本は本当に「起業しにくい」のか?(2019年)

2019-01-08
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
変わる日本の起業環境、本当に日本は起業しにくいのか? スタートアップデータベース

本田技研工業株式会社パナソニック株式会社トヨタ自動車株式会社ソフトバンクグループ株式会社――。世界的大企業であるこれらの企業もみな、かつてはゼロから起業された。「起業するのが難しい」「起業家精神がない」と揶揄される日本だが、起業家をとりまく環境は、実は大きく変化しはじめている。

日本は実は起業しやすい?

日本の開業率は、微増傾向にあるものの4~5%で推移しており、他国と比較しても高い水準にあるとはいえない。しかしながら、起業環境という点で、米ペンシルべニア大学ウォートンスクールと市場調査会社Y&Rが実に興味深い調査結果を提示している。この調査は世界80カ国を対象に、「冒険性」「シティズンシップ」「文化的影響力」「起業家精神」「受け継がれる遺産」「有力者」「ビジネスのオープンさ」「権力」「生活の質」の9つの項目とそれぞれの細目のうち、起業家に関連する属性に着目して評価したものである。

1位 ドイツ2位 日本3位 アメリカ4位 イギリス5位 スイス

この調査では、なんとアメリカやイギリスを押さえ日本が第2位につけている。このように、起業しにくいと揶揄されている日本ではあるが、起業環境という点で現在の日本を高く評価しているレポートも存在するのである。そこで、本記事では2つの視点から起業家をとりまく環境の変遷を考察し、日本において実は起業のハードルが下がってきている、ということを示していきたい。

①社会環境の変遷

時代の変化に伴い、起業家をとりまく環境は変化しはじめている。ここでは、2つの視点から起業環境の変化を紹介していく。

ソーシャルビジネスの勃興

日本は豊かで、物が溢れる時代になった。連動して、社会のニーズも変化しはじめている。たとえば、「地球温暖化」や「少子高齢化」などの社会課題に対する「ソーシャルビジネス」が勃興してきている。メディケア生命保険が2015年に行った意識調査によると、20%がソーシャルビジネスで「起業してみたい」、34%が「働いてみたい」と回答するなど、「社会課題解決型」のビジネスは大きな潮流になりつつある。こうした社会課題解決を求める声は高く、社会起業家を大きく後押ししている。また、制度面でもソーシャルビジネスを支える土壌が形成されはじめている。2010年には日本で最初の社会起業家育成に特化したビジネススクール「社会起業大学」が設立されたほか、日本政策金融公庫は「ソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付)」を設け、社会課題解決型事業に対して必要な資金の提供を行うなど、支援体制も着実に構築されつつある。

情報化時代の新たなビジネス

高速インターネットやスマートフォンの急速な普及による、情報化時代の新たなビジネスの可能性も挙げられる。日本は世界でもトップクラスのネットワーク環境が整っており、インターネットとスマートフォンに関するビジネスが浸透しやすい環境となっている。とりわけ、1980年代生まれ以降の世代は「デジタルネイティブ世代」と呼ばれ、既存の常識を打ち破る新たな事業を生み出すことが期待されている。また、インターネット環境やインターネットサービスが成熟してきたことで、事業を立ち上げるうえでのさまざまなハードルが下がっているということも挙げられる。かつて、IT領域で起業をするといえば、高価なパソコンを大量購入したり、莫大な通信費用やサーバー代を払わなければならなかったりとさまざまな障害があった。しかし、いまではパソコンの価格や通信費が安価になり、ITサービスを提供するために環境を整える費用は大きく下がった。サーバーに関しても、クラウドサーバーが普及したことで、サーバー費用に悩まされることもなくなった。

(参考:http://diamond.jp/articles/-/41133

こうした環境の整備は、「起業はお金がかかるもの」という概念を覆しはじめている。

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② 資金調達面での変化

日本はリーマンショック後の不況のあおりを受けて、長らく企業活動が停滞気味であった。しかし日本経済は徐々に回復してきており、そのなかで資金調達も活発になってきている。ここでは、従来の銀行による融資にとどまらない、資金調達の手段を紹介していく。

ベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資金額の増加

VCによる投資が活発化してきている。IPO件数は2009年を底に回復が続いており、市場への資金投資は着実に活発化している。こうしたVCのなかには、創業期の投資・育成に特化したVCも多く、創業期に投資するVCの中には、単なる資金提供にとどまらず、アイデアの提供や起業家向け事業相談会・勉強会などのイベントを開催しているところもある。秀でたアイデアと潤沢な資金力を持たなければ起業できなかった従来の起業モデルは、確実に変化しはじめているのである。

インターネットの発展による多様な資金調達方法

インターネットの発展は、事業内容にとどまらず、資金調達にも変革を与えている。たとえば、クラウドファンディングが資金調達方法として脚光を浴びつつある。2015年3月、株式会社サイバーエージェントのグループ企業、株式会社マクアケが展開するMakuakeを活用した、劇場アニメ「この世界の片隅に」の制作資金のクラウドファンディングは、合計3,374人の支援者から36,224,000円の支援を集めたことで注目された。こうした資金調達方法は、インターネットの世界中とつながることのできる特性を最大限に活用した新しい方法だといえるだろう。また、プロの投資家が選んだスタートアップに個人投資家が投資できるクラウドファンディングサービスを提供しているエメラダ・エクイティなど、投資手段も多様化してきていることで、起業のための資金調達のあり方も多彩になってきている。インターネットの力を利用した多様な選択肢は、今後さらに生まれてくるだろう。

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政府の創業支援策

資金調達環境の改善に対しては、日本政府も積極的に関わり始めている。1994年の独禁法ガイドラインの改正(VC投資先への役員派遣に関する規制撤廃)を皮切りに、政府は各種ベンチャー支援策を講じてきている。とりわけ近年では、平成25年6月に閣議決定された「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」にて開業率10%台(アメリカ・イギリスと同水準)を目指すことも盛り込むなど、日本政府は起業家に対し積極的な姿勢を見せはじめている。現在政府が行っている支援の一例には下記のようなものがある。・国(中小企業庁)による補助金「創業補助金」日本政策金融公庫による融資制度信用保証協会による創業関連保証募集時期にばらつきはあるものの、幅広い業種・規模の資金調達を支援している。こうした情報は政府の運営する起業家支援サイト「ミラサポ」にて随時更新されている。加えて、政府は資金調達以外の制度面の整備も急ぎ始めている。例えば、政府は2018年4月に株式会社の設立にかかる期間を今の10日から1日に短縮できるようにする方向で調整していることを発表した。公証人による定款のチェックをオンライン化し、24時間での起業を可能にする方針だ。

日本は変わりはじめている

ここまで、国内における起業環境の変遷について概観してきた。もちろん、最初に述べたように、いまだ日本においての起業への意識は低い。しかし、志さえあれば起業のチャンスをつかむことができる国に変わりつつある。上記の変遷以外にも、大学発ベンチャーの勃興や、ブロックチェーン技術をはじめとする最先端技術の発展など、起業を支える環境や技術はさらに進展を続けている。10年、20年先の世界を変えているような企業がこの日本から生まれる時代は、もう十分にありうるのだ。

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