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「ナンバーワンを確信していた」。位置情報共有アプリ「whoo」3ヶ月で1,000万ダウンロード達成の舞台裏 LinQ・原田CEO

2023-05-24
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「3か月で1,000万ダウンロードを突破」

「各国のアプリストアで1位を獲得」

「MIXIから最大約20億円の資金調達」

2023年4月に発表されたプレスリリースにはこんな文言が躍る。

出したのは、若者向けのアプリ開発を手がけるLinQ(リンキュー)だ。友達と現在位置を共有できるアプリ「whoo(フー)」が急成長している。

位置情報共有アプリといえば、アメリカ・Snap社のZenly(ゼンリー)が多くのユーザーを握っていた。サービス終了に伴い、複数のアプリによる「後継争い」が発生。whooはその流れをうまく掴んだ形だ。

製作決定からアプリのリリースまではわずか1ヶ月半。リリース時の機能は競合と比べ最も少ない。そんなwhooだったが「国内ではナンバーワンになれる確信があった」と原田豪介・CEOは明かす。熾烈な競争を制し、掴み取った急成長。その舞台裏を聞く。

whooとは? 若年層に広がる位置情報共有アプリ

whooは位置情報の共有アプリ。同じアプリを使う友人同士で「今どこにいるか」をリアルタイムで知らせ合う。チャット機能を通じて、近くに居合わせた友人に話しかけることもできる。機能的には極めてシンプルで、若い世代を中心に流行している。

「コミュニケーションのハードルを下げる、というのが一番の良さです」と原田CEO。例えば、関係が深くない知り合いをいきなり飲みに誘うのは気が引ける。しかしお互いの位置情報を共有していれば前提は変わる。夕方、相手が仕事場から離れ始めたことが分かり、なおかつ自分が偶然近くにいた場合、声もかけやすくなる。

「既存のSNSにはありそうでなかったコミュニケーションです。ランチタイムに、インスタグラムでカフェの写真を公開したら現在地が分かりますよね。whooは何かを投稿しなくてもリアルタイムで位置情報を表示します」

位置情報を共有する機能は真新しいものではない。先行してユーザーを獲得していたのは、アメリカ・Snap社が保有していたZenlyだ。TechCrunchによると、2022年には月間3,500万人のアクティブユーザーを擁していたとされ、日本でも若年層を中心に利用が広がっていた。

しかし、Snapは2022年9月、業績悪化を理由にリストラを実施。Zenlyは巻き込まれる形でサービス終了が決まり、利用者の間で「次のZenly」を探す動きが広まっていた。

「作る気ない」アプリが1,000万DLを達成するまで

「元々Zenlyが好きだった」という原田CEOもこの動きを把握していた。しかし当初は、位置情報共有アプリを作る気はなかったという。

「我々にも小さなプライドがあって(笑)。Zenlyをトレースしたものは作りたくないし、すでに市場には類似のアプリがいくつか出ていました。僕らがやる必要はないと思っていました」

原田CEOが考えを改めたきっかけは、毎日のように寄せられる要望だった。LinQはこれまでにも複数のアプリを世に送り出している。運営終了となったものも少なくないが、過去のアプリを通じてユーザーコミュニティを構築していたのだ。

「ユーザーとのコミュニケーションの一環としてインスタグラムのアカウントを運営していたのですが、『次のZenlyを作って』という問い合わせが毎日数百通のレベルで届きました」と原田CEOは振り返る。しばらくは断り続けていたが、毎日のように声が届き、気持ちも傾いてきた。

「小さなプライドを捨てて、作ってみるか」。

そう決心したのは、Zenlyがサービス終了を発表してから2ヶ月ほどが経った頃だった。

元々、世界中で利用されるアプリを日本から生み出したいという気持ちもあった。原田CEOは新卒で買取価格比較サイトなどを運営するジラフに入社。当時はインターネットに興味がなく、Googleのメールサービスである「Gmail」のアドレスの作り方すら知らなかった。しかし、匿名質問サービスのプロダクトマネージャーなどを手がけるうちに、あることに気づく。

「日本人はSNSが大好きで、かなりアクティブに使っている。なのに、日本発のサービスは誰も使っていない」

情けなさと悔しさを胸にLinQを設立したのは2019年のこと。Zenly終了は、日本発の世界的アプリを作るチャンスにも映った。

開発を始めたのは2022年11月。LinQのチームはおよそ1ヶ月半で完成にこぎつけ、12月にはwhooをリリースする。国内勢だけでも複数の競合アプリが存在していたが、ダウンロード数は増え続け、Zenlyがサービス終了した23年2月3日を境に急激な伸びを見せ始める。

「色々な国のアプリストアでランキング1位をとって……ユーザー数が伸びる速度もえげつなかった。社内では『本当に、これ本当か』とか『バグなんじゃないか』といった会話が起きていました」

結果的に、リリースから3ヶ月後には世界170の国と地域で1,000万ダウンロードを達成することになる。「本当に世界で勝つための第一歩なんだ、とヒシヒシと感じました」と原田CEOは話す。

なぜwhooは競合との争いを制することができたのか。理由として挙げられるのが、過去に製作してきたアプリのユーザーたちの存在だという。LinQが運営する匿名質問アプリ「Ninjar」のインスタグラムのフォロワーは9,300人あまり。原田CEOたちは、彼らからアプリに求める機能などの要望を吸い上げ、自分たちからは開発状況などをこまめに知らせていった。

「かなり熱量の高いコミュニティです。お互いに信頼関係があって、友達同士のような感じ。『whooにこんな機能がつくよ』とか『ついにここまで来たよ』とかがユーザーの投稿に溢れていました。他のアプリではなく、絶対にwhooを使いたいという人もかなり多くいたため、身の回りの友達にも広めてくれるだろうと確信していました」

これまでの度重なるアプリ開発の経験も役に立った。

「whooをリリースした時、(競合と比べ)機能は一番少なかったと思います。ただ、過去の製作経験やユーザーとのやり取りのなかで、最低限どこまで・どの機能があればクオリティを担保できるかが完璧に理解できていました」

わずか1ヶ月半の開発期間でリリースできた理由もここにある。「削れるところはどんどん削った」と原田CEO。友達の位置や滞在時間、それに円滑にコミュニケーションが始まる設計になっているかなどに絞った。

アプリならでの特性もwhooを後押ししたとみられる。位置情報共有アプリは、友達が同じアプリを持っていなければ意味がない。そのため、少数しか使っていないアプリの利用者は、必然的に多くのユーザーを抱えるアプリへの乗り換えを迫られる。「ネットワーク外部性」などと呼ばれる効果だ。

whooは国内において、ネットワーク外部性を発揮できるポジションを得たとみられる。マーケティングDXなどを手がけるナイルが運営する「Appliv」の調査によると、2月のZenly終了時に、代替アプリとして最も多く使われていたのはwhooで55.5%。次点はSuishowが運営する「NauNau」で13.6%だった。41.9ポイントの差をつけている。

海外での伸びは予想以上だったが、インスタグラム上のユーザーコミニュティの盛り上がりから国内では勝てる自信があった。「アプリを出せば、国内ではナンバーワンになれる。それは確信していました」と原田CEOは振り返る。

サーバーコストに絶句 MIXIから最大20億円の調達

急激に伸びるユーザー数。社内の熱気も高まっていく。だがその裏でヒットの弊害とも言える事態が進行していた。原田CEOがそれに気づいたのは、年明けのことだったという。

「今でも覚えているんですけど…夜中の3時にくらいにちらっと確認したら、サーバーコストがとんでもないことになっていて。残キャッシュの10倍くらいのコストが1ヶ月でかかっていました。半泣きになりそうで。結構、モニターの前で絶望していて…資金調達をしないと大変なことになると思いました」

アプリがヒットしたが故に、会社の運営が立ち行かなくなるかもしれない。それまでアプリ製作に専念していた原田CEOは、資金調達に動き出した。

そこへ声をかけたのがMIXIだった。同社はLinQにシードラウンドで出資していたWが運営するファンドのLP(ファンドに対する出資者)でもあり、whooに興味を持っていたという。

「アプリストアでずっと1位にいたため、プロダクトに興味がある人ならば絶対に知っている存在になれていた」と原田CEO。MIXIとの交渉のなかでは「プロダクトを作るマインドがかなり似ている」と感じたといい、最大20億円の出資を受け入れるに至った。サーバーコスト問題も一旦は解決した。

出資は2024年3月末にかけて段階的に実施される。詳細は明かさなかったが、「一般的なコンシューマー向けサービスで指標となるような数字」を達成するか、もしくは達成する見込みがある場合に追加の出資を受けられる。一度に20億円を受け入れた場合、原田CEOら既存株主の希薄化が激しくなるという考えもあった。

MIXIからは、今回の20億円だけでなく、その先も継続して出資を受けることも検討しているという。

1,000万も1億も通過点 収益化封印し限界を目指す

LinQは資金調達をきっかけに、whooの機能拡充と採用の強化を進める。これまではZenlyを踏襲するものだったが、「友達といた時間や一緒に行った場所をログで残すとか、友達との関係性を可視化する機能を作っていきたい」と意気込む。

課題は海外での浸透だ。170の国と地域で使われていることを謳い文句にするが、Zenlyの後継を狙うアプリは乱立している。

別のアプリが覇権的なポジションを確立した場合、今度はwhooがネットワーク外部性によりユーザーを奪われる可能性もある。「海外は戦国時代。グローバルで勝ちきれていないのは明確な課題」と原田CEOは見る。これまでは広告宣伝に予算をかけずに利用者を伸ばしてきたが、国や地域にあったマーケティングも考えていく。

まずはグローバルで1億人が使うアプリを目指す。Zenlyの3倍近い規模だ。ユーザー獲得を最優先とし、直近のマネタイズ(収益化)は封印する考えだ。

「ユーザー数の限界がどこにあるのか。1億か10億かでマネタイズの手法は変わってきます。まずは(ユーザー数の)限界までチャレンジしたい」

「もう課題が何なのか分からないくらい課題がある」と原田CEOは苦笑する。足元のやるべきことを向き合いつつ、「ユーザー1億」の先を夢想する。

「多分、1億人に行っても満足しません。『インスタグラムは10億人だ』とか言い始めると思います。世界中で使われていることが目に見える状態になったら満足するとは思いますが、まだ分からないですね。現段階では」

リリース3ヶ月でたどり着いた1,000万ダウンロードの大台。しかしそれを成し遂げた張本人には喜びはなく、むしろ焦りの色が見え隠れしている。全ては、日本発のアプリで世界を取るという目標のため。1,000万は通過点に過ぎない。

「中途半端なことはしたくないので。うん...。この程度で終わっちゃったらちょっと嫌なんですよね。なので目標に向けてやり切ります」

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