コラム

SNSは信用の受け皿となりえるか。LinkedIn日本代表・村上臣

2019-09-18
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
SNSは信用の受け皿に? リンクトイン(LinkedIn)日本代表・村上臣が考える、2020年代のビジネスマッチング

2019年春、日本の労働環境において、エポックメイキングな出来事になりうる宣言がされた。終身雇用制は反古となり、大企業の「安定神話」は崩壊したのだ。働き方改革という名のもとに、多様な働き方が一斉に認められつつある。今後日本の労働力人口は大幅に減少する一方、IT人材は売り手市場となり、エンジニアなどの技術職における有効求人倍率は8倍にも跳ね上がるという。予測不可能な解なき時代で舵を取る企業は、どのような人材やビジネスパートナーと信頼関係を結び、仕事につなげていくべきなのか。ビジネス特化型SNSリンクトインの日本法人代表である村上氏は、「企業は人材が必要になる前からネットワークを構築し、人材のプールを作るべき」と話す。では、いざ必要となるその時のために、どのようにネットワークを構築するべきなのか。村上氏がリンクトインに可能性を感じた理由は、まさにそこにある。「リンクトインこそ激しく人材が流動化する2020年代に適したビジネスSNSである」と語る、その理由を聞いた。

リンクトイン(LinkedIn) カントリーマネジャー(日本担当) 大学在学中にITベンチャー有限会社電脳隊を設立。電脳隊が統合された株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。エンジニアとして「Yahoo!モバイル」「Yahoo!ケータイ」などの開発を担当し、同社のモバイルシフトに大きく貢献。2012年より4月より執行役員兼CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)としてヤフーのモバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にリンクトインの日本代表に就任。
■村上臣(むらかみ・しん)リンクトイン(LinkedIn) カントリーマネジャー(日本担当)大学在学中にITベンチャー有限会社電脳隊を設立。電脳隊が統合された株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。エンジニアとして「Yahoo!モバイル」「Yahoo!ケータイ」などの開発を担当し、同社のモバイルシフトに大きく貢献。2012年より4月より執行役員兼CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)としてヤフーのモバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にリンクトインの日本代表に就任。

新卒総正社員時代における、ベンチャー起業の求心力

村上 「世界広しと言えど、日本ほど新卒がフルタイムジョブにつきやすい国はそうありません。欧米では、大学を卒業したうちの約半分は正社員として職に就けないのが現実です。   幸せなことに、日本ではどこの会社に行ってもそこそこの水準で食べていけるからこそ、社会人経験が長くなるうちに「自分は何がしたいのか、仕事が楽しいかどうか」といった、根本的で精神的な満足感への疑問が湧いてくる。たとえ、現状にそこまで不満がなかったとしても、日々疑問を抱えながらうっすらと転職を考える層がかなり増えたように思います。  

村上 「世界広しと言えど、日本ほど新卒がフルタイムジョブにつきやすい国はそうありません。欧米では、大学を卒業したうちの約半分は正社員として職に就けないのが現実です。 幸せなことに、日本ではどこの会社に行ってもそこそこの水準で食べていけるからこそ、社会人経験が長くなるうちに『自分は何がしたいのか、仕事が楽しいかどうか』といった、根本的で精神的な満足感への疑問が湧いてくる。たとえ、現状にそこまで不満がなかったとしても、日々疑問を抱えながらうっすらと転職を考える層がかなり増えたように思います。 そうした方々が次のキャリアパスとしてスタートアップを目指すことも多くなってきました。その理由は圧倒的に楽しそうだし、ビジョン・ミッションが明確だからでしょう。一点突破で日本を変えられるとか、世界を変えられるとか、それだけでかなり強烈です。だから響く。 起業家であるファウンダーやCEOの存在も大きいと思います。事業をゼロからスタートさせ、圧倒的な勢いと自信を持っている彼ら彼女らと直接コミュニケーションできることはすごく魅力的なこと。それは感化される人も多くなります。僕が思うに、大企業からスタートアップに行く人って社長面接あたりでころっといっちゃうんです。それまでは、『大企業にいれば安定してるし、ローンもあるし』なんて言っていても、手のひらを返したかのように『給料が減っても頑張ります!』となる。社長と会うと、急に時空が歪むわけですね。僕もそうでしたから(笑)」

そう語る村上氏もまた、現CEOであるJeff Weiner(ジェフ・ウィナー)氏の魅力に惹かれ、リンクトインにジョインしている。きっかけは前職であるヤフーの執行役員時代のことだ。転職する気はなかったが、ひょんなことからリンクトインのジョブインタビューがとんとん拍子で進み、その過程でジェフ氏の想いと志に心打たれたという。

村上 「前職の役職や待遇にこれと言って不満もなく『このままで良いか』と思っていたはずなんですが、ジェフと話をしたらすっかり心奪われてしまって。『この人、圧倒的に楽しいことしてる!』と。日本の労働環境はずっと『変わる変わる』と言われ続けながらも硬直状態でしたが、リンクトインならばこの状態を打破できるかもしれない。それに自分自身40歳手前でしたから、もう一踏ん張りできるだろうという想いも相まって腹を決めました」

人材市場は今後さらに流動化する見通し、求められる「適切な」ビジネスSNSの必要性

リクルートキャリアが2018年12月に発表した「2019年転職市場の展望」では、業界や規模、地域を越えてでも成長したい、という意向から「越境転職」を志向する層が増えたと報告している(2009年度を1とした場合、2018年度の転職決定者は2.98倍)。 それに加え、企業勤めでも副業やパラレルワークが推奨され始めていることから、今後ひとつの企業や従来のキャリアモデルに縛られない人材が増えることは確実だ。人材が流動的に動く状況において、ビジネスにおける相性のよいパートナーを見つけることは、これからの時代に求められる必須スキルとして注目されるだろう。

リクルートキャリアが2018年12月に発表した「2019年転職市場の展望」では、業界や規模、地域を越えてでも成長したい、という意向から「越境転職」を志向する層が増えたと報告している(2009年度を1とした場合、2018年度の転職決定者は2.98倍)。それに加え、企業勤めでも副業やパラレルワークが推奨され始めていることから、今後ひとつの企業や従来のキャリアモデルに縛られない人材が増えることは確実だ。人材が流動的に動く状況において、ビジネスにおける相性のよいパートナーを見つけることは、これからの時代に求められる必須スキルとして注目されるだろう。

村上 「霞が関経験のある官僚や大企業の経営層がスタートアップに籍を移すニュースを最近よく聞くようになりましたが、昔だったら絶対考えられないことです。一方で、こうした人材が従来の畑を離れ、他業界へ流れることはスタートアップにとっての大チャンスが到来したとも言えます。大企業が育成した優秀な人たちと一緒に働きやすくなるということですから。 そうした人の流れが世間一般に認識されるだいぶ前から、スタートアップ界隈ではTwitterを筆頭とするSNSを活用したミートアップが盛んでしたし、職種の垣根を越えてつながることは当たり前でした。その基盤となるSNSの層も厚くなってきましたが、ビジネスに特化した適切なプラットフォームはなかったように思います。 だからこそジェフと話した時に、リンクトインの可能性を確信しました。他メディアのインタビューで『人脈よりネットワーク』と言ったことがありますが、それはつまり『人脈(=気の合う社内外の飲み仲間)』ではなく『仕事文脈における、継続的で、適切なコミュニケーションを取り続けられるつながり(=ネットワーク)』が重要だということです。とあるトピックに対してどういった意見を持っているのか、それに対して同意するのか、否定するのか、もしくは議論でお互いの意見を交わし合うのか。そうした会話を積み重ねることで、その人の価値観や社会に対する捉え方がはっきりと見えます。 リンクトインという、実名を公表したソーシャルの公共空間であれば、発信のひとつひとつが信頼として蓄積され、ビジネスにおいても安心できる関係性を築くことができるはずだと信じています。パーソナリティの理解には時間がかかりますよね。企業風土にマッチした人と出会うなら、履歴書を読むより、限られた時間で面接するより、タイムラインを追いかけた方が効率的だと思います」

「Twitterも面白いけれど、カジュアルにいろんな話ができるからこそ、誤解が生まれてしまう。文脈や立ち位置、スタンスが明らかでないと受け手は発言の真意を正しく受け取れません。一方、Facebookで仕事の話をすると『いいね』がついても、あまりコメントされない。あくまでもプライベートの情報をシェアする場所なので、仕事の話を真面目にするプラットフォームではないのかなと思う」とSNSにおけるビジネスコミュニケーションの可能性を語る。

村上「Twitterも面白いけれど、カジュアルにいろんな話ができるからこそ、誤解が生まれてしまう。文脈や立ち位置、スタンスが明らかでないと受け手は発言の真意を正しく受け取れません。一方、Facebookで仕事の話をすると『いいね』がついても、あまりコメントされない。あくまでもプライベートの情報をシェアする場所なので、仕事の話を真面目にするプラットフォームではないのかなと思う」

とSNSにおけるビジネスコミュニケーションの可能性を語る。

村上 「ますますインターネット無くしては仕事が成立しなくなっていますが『どのような仕事をしてきたか』というポートフォリオサイトに該当するものを持っていない人は多い。本当に大丈夫なのだろうか? と疑問が残ることがあります。 企業に所属していようがいまいが、それは関係ありません。一緒に働く相手がどんな仕事をしているのかが見えていないと良い仕事はできないと思います。リンクトインで記入すべきは『所属してきた企業や肩書き』ではなく『今までやってきたこと』。その人が案件の中でどういった役割だったかなど、スキル面をアピールしてほしいんです。 今までのトラックレコードと『どのようなことができるのか』『これからどんなことをやっていきたいか』を開示することでビジネスマッチングが生まれる。このような仕組みが浸透すれば、効果的なマッチングが生まれ、とても良い社会になると思います」

90年代インターネット黎明期世代の考える、これからのこと

学生時代に起業し、ヤフー入社後は同社のモバイルシフトに大きく貢献した村上氏。IT 業界の第一線で活躍してきた彼は、スタートアップの現状をどう捉えているのだろうか。 村上 「僕らの世代って、大学生の時にインターネットが一気に盛り上がった『良い時代』を経験してるんです。だからインターネットの伸び代を一番信じている世代でもあるんですよ。今はインターネットがインフラになり、テクノロジーが人々の生活に浸透している。産業の発展において無視できない要素になっているし、まだまだ伸び代がある業界なので、みんなで一緒に大きくなる余地がごまんとある。

学生時代に起業し、ヤフー入社後は同社のモバイルシフトに大きく貢献した村上氏。IT業界の第一線で活躍してきた彼は、スタートアップの現状をどう捉えているのだろうか。

村上 「僕らの世代って、大学生の時にインターネットが一気に盛り上がった『良い時代』を経験してるんです。だからインターネットの伸び代を一番信じている世代でもあるんですよ。今はインターネットがインフラになり、テクノロジーが人々の生活に浸透している。産業の発展において無視できない要素になっているし、まだまだ伸び代がある業界なので、みんなで一緒に大きくなる余地がごまんとある。 いろんなアイデアがあるので、友人とも『そのアイデアもらった!』みたいな話はよくします。たとえ自分が思いついたものだろうと、それを形にできるかはまた別問題。誰がいつ実現させるかは、その人の力量次第です。大局的に言えば、インターネットの未来を信じているので、誰かがそのアイデアを活用して世界をよくしてくれたら良い。だから、『自分のアイデアが盗られた』みたいなことは思いません。国内でパイを奪い合っている場合じゃないと思います。 そうした可能性に満ちた業界の中で、日本のスタートアップはなんだかんだ『世界』を目指していないですよね。なぜそう断言するかと言うと、まずもって日本人しか採用していないからです。社員の数人しか英語が喋れずに『グローバルを目指します!』と言ってもおそらく無理です。今でも日本で働きたい人は世界中にたくさんいます。彼らが二の足を踏むのは、社内の公用語が英語じゃないというところ。そこにメスを入れるだけでダイバーシティーを持ったチーム作りが可能になると思います。 更に率直に言えば、日本のIT人材は一定以上のレベルに達しているけれど、単価が安い。欧米から見たら、オフショア拠点のひとつに見えるかもしれません。例えるなら、かつての日本から見た中国やベトナムのマーケットのような状態でしょうか。日本の内需はまだそれなりに豊かなので国内に閉じたビジネスが可能ですが、こうした豊かな環境があるうちにしっかりと外向きのチームを作って、事業をグローバルスタンダードに引き上げるべきです。 そうしたことを共に実現できる人材と出会うサポートも、リンクトインの果たす役割だと僕は信じています。気づいている人はすでに使いこなしていて、知り合いの会社役員が気になる人材にメッセージを送って関係性を構築してる、なんて話も小耳に挟みます。 リンクトイン上で有益な情報を発信すれば、優秀な人が集まってきますし、人が集まればそこに良いグループができる。そうしたネットワークの構築がインターネット上で可能になっている今、仕事の軸足をどこに置いて、どう進んでいくかを選択することができます。その人のチョイスで、その時々に楽しく働ける環境を築いていくことが重要なことではないでしょうか」

※STARTUP DBとLinkedIn(リンクトイン)の連携が始まりました。是非シェアボタンを押して、リンクトインで記事や意見を投稿し、流動化するこれからの時代に向けた、一個人、プロフェッショナルとしてのコミュニケーションを楽しんでみてください

編集デスク:BrightLogg,inc.執筆:小泉悠莉亜取材・編集:鈴木雅矩撮影:戸谷信博

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