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「STARTUP DB ENTERPRISE」による共創支援。IoT/AI領域のオープンイノベーションで加速する社会課題の解決

2022-07-25
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

世界最大の半導体メーカー・インテル株式会社と、世界トップクラスの行動認識AIをコアとした映像解析事業を行うスタートアップ企業・株式会社アジラが共同でPoCを実施した。

インテルといえばPC向けプロセッサーのイメージが強いが、AIの領域においても大きな進捗を見せている。2018年には、ディープラーニング推論向けの開発ツールキット「OpenVINO™」の提供を開始した。現在はIoT/AI領域においてスタートアップとの連携も強化している。

一方のアジラは、施設向けAI警備システム「アジラ」の開発・販売を手掛け、ビジョンには「事件・事故を未然に防ぐ世界へ」と掲げている。大企業や大学との研究・開発実績が豊富で、数あるAIソフトウェア系のパートナー企業のなかでも高い技術力がある企業といえよう。そして今回、2社の協業を促したのが、フォースタートアップス株式会社が提供する、国内最大級の成長産業領域に特化した情報プラットフォーム『STARTUP DB』だ。

同サービスのENTERPRISEプランの利用で、約20,000社のスタートアップの検索機能だけでなく、協業ニーズにフィットするスタートアップ企業のリスト作成や面談設定のサポートが受けられる。本記事では、インテルとアジラによるPoC実施の背景とともに、『STARTUP DB ENTERPRISE』を活用した大企業とスタートアップの協業による相乗効果について具体的に触れていく。鼎談はインテル 今井康之氏、アジラ 若狭政啓氏、フォースタートアップス 川田一聖の3名で行われた。

大手とスタートアップによる協業(PoC)実現の背景

■今井康之(いまい・やすゆき)理学部物理学科卒業。株式会社日立製作所を経てインテル株式会社に入社。インテルではパートナー事業本部にて、AI系のパートナー企業向けにAI開発向けOpenVINO™ ツールキットとインテルプロセッサを活用したソリューション構築のサポート、及び構築後の共同マーケティングを行っている。Intel Edge AI Certification, JDLA Deep Learning for GENERAL

まず注目したいのが、IoT/AI領域へ力を注ぐインテルの姿勢だ。同社はこれまでPCに搭載するCPUの開発・提供・販売事業に注力する期間が長かった。しかし昨今のIoT/AI市場の伸びを受け、近年はAIソフトウェア系のパートナー企業向けの取り組みにも力を入れている。特筆すべきは、AI開発向けOpenVINO™ ツールキットとインテルプロセッサーを活用したソリューション構築のサポートだ。関連:多様かつ高性能なプロセッサーでAIソリューション協業に取り組む、インテルの雄心

▲学習済みモデルをインテルハードウェア上で最適化するOpenVINOツールキットのイメージ図インテルのパートナー事業本部でセールスマネージャーを務める今井氏は、アジラとの協業実現の背景を次のように語った。

【今井】「CPUでAI推論に取り組むソフトウェア系のパートナー企業が増えてきていて、それらのAIアプリケーション構築のサポートをしています。AI開発ツールキットのOpenVINOを利用して学習済のモデルを変換することで、インテルプロセッサ上でのパフォーマンスを最大限発揮するための最適化や、プロセッサーのAIアクセラレータ機能の有効化、さまざまなインテルハードウェアへの検証・実装などのサポートをしております。当社としては協業の前提として技術面の相性をまず考えますが、同じぐらいビジョンの合致も大切にしています。今回の協業でのPoC実施は、この2点が満たされた理想の形となりました」

これに対してアジラ側は、今回の協業をどう受け止めたのか。執行役員CTOの若狭氏は以下のように述べた。

【若狭】「当社は、行動認識AIという映像AIに特化したスタートアップです。転倒/ケンカなど不審な行動をカメラで検知し、自動でAIが分析・通知する機能を提供しています。今回の協業は当社が目指すビジョンの実現と直結しており、高い熱量でプロジェクトと向き合うことができました」

※1:インテリジェント映像解析技術。AI、ビデオストリーミング、サーバ構築運⽤、画像処理系などを指す

■若狭政啓(わかさ・まさひろ)東京工業大学大学院 理工学研究科電気電子工学専攻修了 (平成30年度電気電子工学専攻 総代)。日揮株式会社にてクウェート国建設現場駐在を経てプラント設計IT業務に従事。その後、株式会社アジラにて、行動認識AIに関する概念実証、及び製品開発プロジェクトを担当。2022年、執行役員CTOに就任。

ここで、アジラの事業内容を改めて確認したい。同社は2015年設立のAIスタートアップ企業だ。「グローバルな国籍のSTEM⼈材が集積」「8つの国内特許と⽶国特許取得」「6つのコンテスト入賞/受賞」などの強みを持つ。法⼈顧客が抱える課題に対し、IVA技術によるソリューションの提案および施設向けAI警備システム「アジラ」の開発・販売が主な事業内容となっている。具体的には防犯カメラなどの映像情報をAIが分析し、転倒検知や不審行動の検知、侵入検知などをリアルタイムで通知する仕組みだ。「事件・事故を未然に防ぐ世界へ」のビジョンを達成すべく、AI技術を日々進化させている。

今回の協業事例は、社会課題をAIの力で解決するアジラの技術力と、それをインテルのOpenVINO™が下支えするというシナジーが生まれやすい構造だった。そして、この2社をつなげたのが『STARTUP DB』事業開発担当・フォースタートアップスの川田だ。ENTERPRISEプランを利用しているインテル・今井氏とは2022年8月で1年の付き合いとなり、さまざまなAIスタートアップ企業との引き合わせをこれまでに実現してきた。今回の協業提案も、インテル側からアジラにアプローチした形だ。

【川田】「私の介在価値は、データベース内の情報から判断できる事業的・技術的なマッチングとは別のところにあります。重要なのは、企業同士・担当者同士のビジョンや価値観、想いの部分で重なりが生まれるかどうかのプラスα部分。そのバランスを取りながらお声がけをすることが大切だと考えています」

■川田一聖(かわだ・いっせい)立教大学大学院 理学研究科物理学専攻 博士課程前期課程修了。修士論文優秀発表賞、日本物理学会学生優秀賞、物理学専攻総代。高校教員、Edtechスタートアップを経てフォースタートアップス株式会社へ入社。フォースタートアップス株式会社ではオープンイノベーショングループにて STARTUP DB の事業開発を担当。アカデミックを中心としたスタートアップエコシステムの拡大に向けて取り組む

改めてここで『STARTUP DB ENTERPRISE』の詳細に触れておきたい。

今回はインテル・今井氏が活用したサービス『商談オファー』の仕組みについて、3つのポイントから簡単に紹介する。

1, データベースの提供にとどまらない「会いにいくこと」のサポートを徹底。

ここを強化する理由としては、競争力のあるスタートアップであるほど引き合いの話が多く、つながることが困難な時代背景があげられる

2, 量をこなすのではなく、戦略的な立案によって質の高いマッチングを実現。

サービスを導入している大手企業側に対して「なぜそのスタートアップと出会いたいのか?」「どのような価値を提供できるのか?」をヒアリングし、スタートアップ側が関心を示す要素を組み立てていく

3, スタートアップ側がメリットを感じる提案方法で商談の場を設計。

一般的に多いと予想される情報交換の文脈ではなく、大手企業側の本気度や熱量が伝わるような解像度の高いアプローチを実行する果たして、こうした取り組みはどこまで有効に機能するのか。『商談オファー』の具体的な流れをインテルの利用事例をもとに解説してもらった。

【川田】「最初は訴求ポイントを、エンジニアリングとマーケティング半々の割合で設定しました。しかしオファーを重ねるうちに、スタートアップに対してはエンジニアリング文脈の提案が有効だとわかりました。そこで個社ごとにインテルのチップや技術、プロジェクトをお伝えする方法に変えたんです。そこから有効商談数も順調に増え、質的な変化も起こりました。はじめの商談から技術担当者同士が同席し、具体的な形で商談が進むようになったんです」

最終的にインテルはアジラと出会い、PoCの実案件が動き出した。2021年12月のスタートから半年。現在プロジェクトは商用化に向けて次のフェーズへと突入している。

協業(PoC)で大きく貢献。アジラの技術とインテルのOpenVINO™ツールキット

ここで、実際に行われたPoCの内容をご紹介したい。一言で表せば、特殊車両向けの危険行動検知ソリューションの開発だ。

まずはアジラ社の異常検知ソフトウェアをインテル社のハードウェアとOpenVINO™ ツールキットで構築し、その後FPGA搭載の3Dカメラと組み合わせたAIソリューション開発が進められた。その後インテルの販売代理店を通じてエンドユーザーに提案し、顧客環境でPoCを実施。厳密にはさらにもう1社を加えた3社での協業だった。期間は各社の技術を合わせたAIソリューションの開発に2ヶ月、現在(2022年6月時点)は顧客環境にあわせたチューニングを行っているところだ。興味深いのは、AIソリューションの開発がわずか2ヶ月で達成された点だ。その理由を若狭氏はインタビューで次のように答えた。

【若狭】「私たちが想像していた以上に、OpenVINO™の使い勝手が良かったんです。当初は扱いなれていないインテルさんのデバイスでどう実装するかを懸念しましたが、その心配は一切不要でした。AI精度の向上にリソースをかけることができたため、滞りなく開発を進めることができたのです」

これに付随して、OpenVINO™のアジアサポートチームがあるインドとのミーティングや日本のインテルAIスペシャリストとの連携を、今井氏が積極的にアレンジしてくれたとも補足があった。小さな課題であっても技術面のフォローが手厚く、迅速に解決される。こうした環境も、2ヶ月というわずかな期間で開発を完了できた要因のひとつのようだ。今後の流れを今井氏に尋ねると、『インテル® パートナー・アライアンス』を活用した販路の拡大に舵を切っていく方針だという。

【今井】「当社は完成品を持たない半導体メーカーの強みを活かした『インテル® パートナー・アライアンス』を構築しています。登録企業はAIソフトウェア系のパートナー企業や販売代理店、SIerなど世界6,000社以上。各パートナー同士をつなぐ、中立的なプラットフォームの機能を持つシステムです。これらを用いた共同マーケティングで、今回開発したソリューションを広く展開していきたいと考えています」

オープンイノベーションの醍醐味「共創による価値創出と、解消される社会の負」

STARTUP DB ENTERPRISE』を通じて生まれた、大手企業とスタートアップの協業。この出会いは1度のPoCで終わることなく、今後を見据えた新たな動きにつながる予感がある。実際に今井氏は、非常に高い精度の異常検知アプリケーション技術と出会えたことに大きな期待があるという。どれだけ高性能なチップを開発しても、半導体メーカーとして中立の立場を取る以上はパートナーの存在が重要になる。つまり、アジラのような技術力の高いスタートアップに貢献することは、そのまま自社の成長を意味する。

【今井】「技術力のあるAIソフトウェア系のパートナー企業にプロセッサを最大限活用頂き、AI市場の発展に貢献できればと考えてます。また、社会課題をAIのテクノロジーで解決するビジョンをもった企業と協業したいと考えてました。その点でアジラさんは、まさにこの両面を備えていたと思います」

一方の若狭氏は、今回のPoCでアジラの技術力が向上したことを成果に挙げた。新たな顧客ニーズに応えられるようになり、提案先の幅が広がるのではと期待があるという。また、世界に挑戦するための足がかりを探していたアジラにとって、インテルとの関係構築は大きな意味がある。グローバルアセットへのアクセスは、今後の成長戦略のうえでも重要なポイントになると若狭氏は説明した。

【若狭】「現在、弊社では各国の優秀なエンジニアが、日々行動認識AIの研究開発を行っております。また、世界最高峰のITエンジニア輩出校と呼ばれるインド工科大学やプリンストン大学の学生をインターンとして受け入れており、優秀なエンジニアの積極採用を行っております。今後の海外展開を見込み、世界中の大学とのネットワークを構築していく計画です。同様にインテルさんのネットワーク、エコシステムの支援をいただき、海外展開を図りたい考えもあります。ぜひ今後も協力関係をつづけていければと思っています」

ここまでのやりとりに耳を傾けていた川田は、改めてこの2社の出会いは貴重であり、非常に珍しい協業の事例だったと振り返った。

【川田】「インテルさんとアジラさんが出会い、PoCを経て商用化に向かっている。つまり社会課題が新たに、そして確実にひとつ解決されるわけです。どちらか1社では実現しなかったことを思うと、まさしくこれがオープンイノベーションの本質なんだと込み上げてくるものがあります。両社がタッグを組んだことで、社会の「負」がまたひとつ解消された。その意味でこれはベストな共創の結果といえます。私個人としても非常に感動しました」

実際に今井氏と若狭氏は、PoCを何としても成功させるべく、ひざを突き合わせての議論を何度も繰り返してきたという。両社の間には発注側・受注側という力関係がなく、フラットな姿勢でお互いをサポートし合う場面が度々見られた。まさしく今回のPoC成功を表す、象徴的なエピソードと言えるのではないだろうか。

「STARTUP DB ENTERPRISE」の魅力は、スタートアップの文化を理解した商談オファーの質

鼎談の最後に、今後の『STARTUP DB』への期待が今井氏より語られた。ここにはENTERPRISEプランを1年以上使いつづけた感想も含まれている。

【今井】「データベースの充実や企業検索機能、ニュースリリースなどの情報整理は大きな魅力です。しかしそれ以上に満足しているのが『商談オファー』のサービスです。私たちはどうしてもOpenVINO™を使った技術的・ビジネス的なWin-Winの関係性に偏った判断をしてしまいがちです。しかし間に川田さんが入ってくれることで、個社ごとの組織風土や文化、世界観を踏まえた助言をいただけます。このプロセスがあるからこそ、提案内容の質も向上するのだと考えています」

具体的な数字では、30社にアプローチをすると、うち3〜4割のスタートアップと有意義な会話ができるという。もちろんスタートアップ側にもインテルの想いやビジョンを伝えるため、両社の思惑のズレは防げる仕組みだ。またアジラ側は、今後の成長・事業拡大に向け、さまざまなパートナーとのつながりを増やしていく意向を示した。ビジョンに共感できるメンバーを全職種・ポジションから広く募集していきたいとのこと。これらの評価やリクエストに対し『STARTUP DB』としての見解が最後に語られた。

【川田】「この1年で感じたのは、インテルの提案に対してスタートアップ側が遠慮をして保留にするケースがあること。でもそれってもったいないと思うんです。今井さんが技術力のあるスタートアップとの協業を真剣に望んでいると知っているからこそ、私も何度もオファーを粘れます。今井さんと話すことで必ず何かが生まれるという確信もある。今回のPoCのような価値創造の事例を、もっともっと作っていけるよう支援していきたいと思っています」

STARTUP DB』は、AI/IoT/DeepTech/研究開発を問わず、技術力のあるスタートアップを明確に判断できるような機能開発を進める予定だという。スタートアップやAIの文脈では、欧米に比べ日本のマーケットは遅れがあるのは周知の事実だ。そこを乗り越え、世界に羽ばたく競争力のあるスタートアップを日本から輩出する。これこそがフォースタートアップスの目標でもある。今回の協業事例が多くの人たちに届き、新たな協業と価値創出の未来につながることを期待せずにはいられない。そんな3社による鼎談であった。

インタビュー:株式会社ソレナ 撮影:宮本愛

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スタートアップエコシステムにおける事業会社や投資家などのエコシステムビルダーの皆様と、国内スタートアップに対して、それぞれが信頼できるパートナーとのアライアンス機会の創造をサポートする法人向けプラン。また、成長産業に特化した情報プラットフォーム「STARTUP DB」内のさまざまな機能をアップグレードしてご利用頂けます。

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