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「ベンチャーデット」活用して見えたメリットと課題。「安心感と時間的猶予を持てた」 コネクテッドロボティクス・村井CSO

2023-04-26
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

食産業向けのロボット開発を手がけるスタートアップのコネクテッドロボティクス(東京小金井市)。資金調達活動をリードしていた村井良翼・CSO(Chief Strategy Officer / 肩書きは現在)は不安を募らせていた。

「これは、思ったより上手くいかないぞ」

アメリカの中央銀行の利上げなどにより日本国内の資金調達環境も厳しさを増す。2021年12月に入社し、調達活動に加わった村井さんは「採用されたからにはバリューを出さないと」と意気込んだが、VC(ベンチャーキャピタル)との交渉は思うように進まない。

そんな時に株主から紹介されたのが「ベンチャーデット」だった。村井さんはこの手法を活用することで、最終的に事業会社との資本業務提携を含む17億円の調達を完了させた。

ベンチャーデットを使うことでキャッシュポジション(手元流動性。現金残高など)に余裕が生まれ、調達に向けた交渉にも「時間的に猶予が持てた」と村井さん。確かなメリットを感じた一方で、課題も見つかったという。

日本でも広がりつつあるベンチャーデット。活用した当事者に体験談を聞く。

様変わりしていた調達環境 「思ったより上手くいかない」

コネクテッドロボティクスは食産業向けのロボット開発を手がける。同社のロボットは、飲食店ではそば茹でやアイスクリーム作りを任され、食品工場では弁当容器の蓋しめや惣菜の盛り付けなどで活躍する。技術的なハードルから機械化が進みづらかった食産業に特化しているのが強みだ。

そのコネクテッドロボティクスに村井さんが入社したのは、前回、2019年のシリーズAからは2年あまりが経ったタイミング。ちょうど調達活動が本格化する時期だった。アメリカの大学でファイナンスの修士号を取得し戦略コンサルタントとして活動した経験などもあり、資金調達活動をリードすることになった。

調達活動を始めた当初、社内には自信が漂っていた。前回のシリーズよりも売上は伸び、技術開発も進んでいた。「前回は我々がパートナーとして組みたいVCに入って頂けた。今回もその調子で行けるだろう、と思っていました」と村井さんは振り返る。

だが、資金調達環境は様変わりしていた。アメリカの中央銀行をはじめとする利上げなどにより市況は冷え込み、調達のハードルは格段に上がっていた。村井さんたちが雲行きの怪しさを感じ取るまでに、そう時間はかからなかった。

「2022年の最初の数ヶ月が経った頃には、『思ったよりも上手くいかないな』という現実感が増していました」

投資家の目線もこれまでとは違っていた。「シリーズAと比べると、これまで売上重視でみられていたのが、利益の部分にフォーカスがあてられました」と村井さん。

コネクテッドロボティクスは、不定形な食品を正確に掴み取るロボットハンドやAI、それに機体を制御するソフトウェアなどの研究開発を進める『ディープテック』分野のスタートアップだ。この分野は一般的に多額の先行投資を必要とし、黒字化まで時間がかかるとされる。村井さんは、「そこ(利益)をベースにしたときに、我々の希望するバリュエーション(評価額)はちょっと厳しいと。お断りをされたVCさんからはそうコメントを頂きました」と明かす。

「なかなか進まない」。入社してすぐに調達活動に臨んだ村井さんはプレッシャーも感じていた。市況がすぐに好転するとも思えない。作戦を切り替える決断をした。事業会社から出資を受け、ビジネス面でも協業を深める資本業務提携へと舵を切った。

ただ、そちらも決して簡単ではない。特にネックになったのは時間だ。VCからの出資であれば、交渉から1ヶ月程度で入金に至るケースもある。だが資本業務提携を見据えた交渉は前提が異なる。「本当にシナジーが出るのか、ビジネスサイドを巻き込んで話し合いをするため、四半期から半期くらいまでかかる可能性は大いにあります」と村井さんは話す。

そんな時、既存の株主から紹介されたのがベンチャーデットだった。

ベンチャーデットとは? 「ベストな選択肢だった」

スタートアップの資金調達は一般的に2種類に分けられる。新株を発行して資金調達をするエクイティファイナンスと、金融機関などから返済義務のある資金を借り入れるデットファイナンスだ。

ベンチャーデットはその中間を埋める存在とされ、転換社債や新株予約権付融資などが含まれる。金融機関は通常の融資などのように利払いによるリターンを見込むほか、融資先企業の成長に応じて株式に転換するなどして、より大きな利益を狙うこともできる。

スタートアップにとっても利点は大きい。通常の融資が受けづらいスタートアップでも資金を確保でき、なおかつ放出する株式はエクイティファイナンスよりも少なくて済む。株式の放出は持株比率の希薄化(ダイリューション)を伴うが、これを一定程度抑え込むことができるのだ(手法によって割合は異なる)。

資本業務提携に向けた交渉を続けながら、ベンチャーデットを活用する方針に決めた。融資に手を挙げたのはあおぞら企業投資のほか静岡銀行山梨中央銀行などだ。村井さんは、当時のコネクテッドロボティクスにはベストな選択肢だったと話す。

「我々のようなディープテック分野は先行投資が大きく、通常の融資は非常におりにくい。さらに、マクロ経済の状況からエクイティ調達も厳しい。その点、ベンチャーデットはアクセスのしやすさが1番のメリット。ダイリューションも、フルエクイティ(エクイティのみの調達)と比べると割合としては少ない。資本政策を鑑みて、妥当性があると考えて決断しました」

融資までの審査もスムーズだった。「スタートアップに向いていると思いました。融資は過去を見て、エクイティは未来を見る側面が強いと思いますが、これまでしっかり実績を積んできたことと、将来性もある点の両方を提示しました」と村井さんは振り返る。

足元の資金確保 時間と心に余裕生まれる

コネクテッドロボティクスに最初の吉報が舞い込んだのは2022年4月。ロボットの設計・製作などを手がける菊池製作所との資本業務提携が決まった。「最初の1社が決まるまではすごく不安でした」と村井さんは笑う。

その後、6月にあおぞら企業投資のベンチャーデットによる入金が確認できた。足元の運転資金を確保できたことで、調達活動に良い循環が生まれ始めた。

「キャッシュポジションを安定させることで時間的な猶予が生まれました。(事業会社との)交渉が仮に長引くとしてもしっかり腰を据えて交渉することができる、という心理的安心感もありました」

総額17億円の調達を公表し、活動をクローズさせたのは2023年2月末のこと。1年以上に及ぶ調達活動で、ベンチャーデットが果たした役割は小さくない。

こうした、エクイティのみに頼らない調達は増加傾向にある。STARTUP DBの調査では、通常の融資・社債やベンチャーデットなどが含まれる調達金額は、2022年の1年間で2,538億9,000万円にのぼった。これは21年の1,137億6,400万円の倍以上の数字だ。

資金調達環境の変化や金融機関側の取り組みの強化などを背景に、ベンチャーデットなどは今後も広がっていく可能性がある。一方で、実際に使ってみたからこそ感じた課題もある。村井さんは融資決定後の手続きについて「契約書は、お互いが弁護士を通じて文言を修正していました。まだベンチャーデットでは型が決まっていない部分が多いと感じました」と話す。

村井さんが比較に挙げたのはJ-KISSと呼ばれるスキームだ。これは現在のCoral Capitalが公開している、シード期のスタートアップ向けの投資契約書で、細かい条件を先送りにすることで迅速な調達が可能になるという利点がある。

村井さんによると、融資決定から契約書の内容が確定するまでにかかった時間はおよそ1か月ほど。「型ができていないがゆえの負担はありました」と、今後フローが洗練されていくことに期待を寄せている。

「可能性を狭めないで」 村井CSOが得た教訓

調達活動を終えたコネクテッドロボティクス。今後は、弁当容器の蓋しめや惣菜の盛り付けを担う食品工場向けのロボットなどを量産していくフェーズに入る。

「中食(なかしょく)と呼ばれる惣菜などの持ち帰りマーケットはコロナ禍で伸びています。一方で、工場で蓋しめなどを担っていた外国人材が日本に入って来られなくなり、人手不足は深刻化しています。量産化や、人材への投資をしていくのが大きな軸になると思っています」と村井さん。目標とする2025年末のIPO(新規株式公開)への道のりを踏み出している。

調達環境の変化に直面し、今まで経験のないベンチャーデットを使い、事業会社との交渉を進めた1年。村井さんはどんな教訓を得たのか。これから調達活動に臨むスタートアップに伝えたいことはあるかと聞かれると、村井さんは自分のパソコンに貼られたシールを指差した。そこには、双眼鏡を覗く人間の絵。コネクテッドロボティクスのコアバリュー(価値観)の一つ、「Open Quest」を表している。

「可能性を制限せずに試してみましょう、というメッセージです。資金調達を始めたときは、VCと話して出資してもらうのが主流だと思っていました。ただ活動に入って色々話を聞いてみると、そうではないと分かった。ベンチャーデットも、最初は『慎重にやりましょう』と懐疑的な意見もありましたが最終的には大きなポーション(一部)になりました」

「絶対断られる」と思っていた事業会社との交渉も、連絡してみると、良い感触が得られたこともあったという。村井さんは、既存の「型」がないことを恐れないことが重要だと話す。

「スタートアップにとっては、ミッションの実現が一番重要。そのためにはお金が必要です。経営権をできるだけ残したいとか、デットフリーな経営がしたいとか、ポリシーがあれば守ったうえでですが、可能性やオプションを狭めずに探索し続けると、良いことがあるかもしれません」

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