コラム

ドローンをビジネスに転換した男、ALI代表・小松周平

2018-07-02
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

ドローンに空飛ぶホバーバイク、AI、そしてブロックチェーン……最先端の技術への興味があれば、思わずわくわくしてしまう言葉たち。

だが最新の技術だからこそ、既存の企業では開発に及び腰になってしまう。かといって自分でやろうとしてもリスクがある。最先端の技術に携わりたいと思いつつも、いつしか夢物語になっていることがあるのではないだろうか。

だが、そんな冒頭で述べた最先端技術をすべてビジネスとして行い、利益を上げ続けている会社がある。株式会社A.L.I.Technologies(以下、ALI)だ。

なぜ次世代の技術をすぐに事業化し、たった1~2年で利益を上げることができているのか。その理由や背景にある考えを、代表取締役CEO兼CTOである小松周平氏に伺った。

小松周平(こまつ・しゅうへい)― 株式会社A.L.I.Technologies 代表取締役CEO兼CTO東京大学大学院先端エネルギー工学専攻修了。外資系投資銀行、ヘッジファンドにてシンガポール・ロンドンにおいてトレーディング業務に従事。2017年2月にALI代表取締役就任。

夢を早く叶えるためには起業が一番だった

どうして起業しようと思ったのか----起業を考えている誰もが知りたいその理由を尋ねると、小松氏は開口一番、「小さいころから目標は一つだけ。社会貢献のための財団をつくること」と語った。

小松「小さいころ見た映画で忘れられない映画があります。裕福な家の子どもがお父さんのジェット機に乗るんですが、アフリカで不時着してしまう。そこでアフリカの現状を見たその子は、これまで自分がどれほど恵まれていたかを知るという話です。衝撃的でした。映画のなかの子どもと同じで、自分もどれほど恵まれていたかを痛感した瞬間でした。日本は恵まれた国で、努力した人にはチャンスを与えてくれます。こんな平等な国は先進国では日本くらいしかありません。自分が恵まれた環境にいるからこそ、そうではない人たちの役に立ちたい。それで、将来は財団をつくって社会貢献をしたいと思うようになりました」

しかし、実際に社会貢献に携わった小松氏は、社会貢献には資金が必要なことを痛感する。

小松「大学時代は国境なき医師団のメンバーとしてシドニーへ赴きました。実態は、現地では医療費が足りず、資金や物品の調達にはいちいち本部に申請しないといけなかった。それなら、自分で稼いでやった方が良いし早いと気づいたんです。財団をつくるのにも莫大なお金が必要ですし。そのため、就職するときは、単純な考えではありましたが給与の高い仕事をしようと思いました。それでお金持ちランキングを調べたら、ヘッジファンドの人がずらりと並んでいたんですよ(笑)。そのヘッジファンドに入るためには外資系証券会社でトレーダーとして技術を学ぶのが一番早い。そんなシンプルな理由で外資系証券会社のトレーダーになりました。就職後は稼いだお金を学校に寄付したり、片っ端からエンジェル投資をしたりしたんですが、やっぱり自分でやった方が事業を回すのも稼ぐのも早い。それに、尊敬する起業家に『なんで起業しないんだ』と言われたのもあって、起業の道を選びました」

起業後、あっという間に最先端技術を収益化へ

ホバーバイク機体※設計に関する特許申請中

小松氏は「自分でやった方が早い」という言葉通り、ALIはすぐにIPO準備にこぎつけた。

小松ALIはもともと、東大で航空宇宙を研究する学生たちがつくった会社だったんですが、話し合った結果、私がオーナー兼CEOという形になりました」

ALIでも小松氏の活躍は目覚しい。代表就任から1年で黒字化させ、2年目となる現在は念願の最先端技術の開発に取り組んでいる。代表的なのがホバーバイクとドローンだ。

小松「ホバーバイクの事業化は、私が大学でエネルギー工学を学んでいたこともあり、従来の常識を超えるモビリティを創りたいとの想いがベースにありました。ALIが航空宇宙工学を研究していたこともあり、空を自由に飛べるモビリティを創ろうと考えたのがきっかけです。当時、仲良かった女性に欲しいものを聞いたら『空を飛びたい』とも言うので(笑)、やはりヒトには空を飛びたいという強い欲求があるんだなと思いました。そこで、自分のお金でホバーバイクの試作版を作ってみると、本当に飛んで成功したのです。これは事業化できると思い、本格的に始めました。事業にするとなれば、安全管理やセキュリティ問題、材質や形状の改良など、いろんな問題が出てきて……。それでもう一度ドローンからやり直し、セキュリティ管理や管制システム、自動運転に直結するAIやブロックチェーンのノウハウも溜めることにしました

ドローンもただつくるだけでなく、事業化・実用化に結びつけている。

小松「ドローンって物流に使えるイメージがありますが、実際には今すぐには必要とされてはいないんですよね。そこで目をつけたのが、線路や道路といったインフラメンテナンスです。ドローンを使って点検すれば安全かつ効率も良く、インフラ会社にとってはコストパフォーマンスも良いですから。実際、すでに大手鉄道会社や電力会社とお取引させていただいています」

目標に向けてやるべきことをひたすら“ストーリー化”する

最先端の技術はときに受け入れてもらうのが難しい。どうやって実用化の道を切り開いたのだろうか。

小松「ドローンを活用していただけるにはどうすればいいか。ホバーバイクを実用化するにはどうすればいいか。明確な目標を達成するためには何をすればいいのかをひたすら緻密に考えるんです。例えば、どの組織のどのポジションの人に話をしに行けばいいのか。その人に話を聞いてもらい、こちらの提案を受け入れてもらうにはどんなアプローチを取ればいいのか。そうしたことを、自分のなかで事前に“ストーリー化”するんです」

そう聞くと当たり前のことのように感じるが、小松氏の“ストーリー化”はその綿密さ・完璧さによって圧倒的に異なる。

小松「僕、一人でいることが好きなんです。その一人の時間に、『もし自分が王様になったら、RPGゲームの主人公だったら』って考えるのが好きだったんですよ。強くなって、世界を救うためにはどうすればいいかなど、目的のために逆算してすべきことを考える癖がついていました。ですので、『今度会う方は怖そうな方だから、まずは直筆で手紙を書こう、このお土産を持って行こう(笑)』そんな細部までかなりリアルに想像しています。実際に行動に移すときには、『ああ、もうこれ一度体験したことだな』っていうデジャブの感覚があるくらい」

目標までの行動を“ストーリー化”するときは常に最悪なパターンで描いているため、不安はつきものだという。だが、それすら行動を躊躇させることはない。

小松「目標があり、これっていうストーリーが決まっていたら迷うことはありません。もしそのストーリーが間違っていても直せばいい。未来のストーリーがちょっと変わるくらいですから。僕のなかでは45歳までのストーリーができ上がっています。ホバーバイクは紛争地域の地雷撤去に活かしたいし、収益が上がってくれば海外の貧困地域に学校をつくりたい。子どものころから抱いている社会貢献を着々と実現していくつもりです」

目の前の「つまらない仕事」に飛び込め

実際に自分が目標を定め、それに向かってすべきことを“ストーリー化”するにはどうすればいいのだろうか。小松氏は、目の前の小さな目標であれ何であれ、まずはその本質を見つけ、ストーリーをつくればいいという。

小松「僕自身、こうした目標までの“ストーリー化”が得意だと気づいたのは26歳のときです。当時外資系証券で働いていていて、上司に『お昼に弁当買ってこい』って言われました。『なんでこんなつまらない仕事をしなきゃいけないんだろう』って思いましたが、『弁当も買いに行けないやつに、こんな仕事任せられるか』と言われて。ふつう、『弁当買ってこい』って言われたら、いかに早くおいしいものを買ってくるかを考えるじゃないですか。でも僕は、『弁当買いのプロ』を目指しているわけじゃない。なるべく労力をかけずに、でも美味しい弁当を手にいれたい。だからお弁当屋の店員さんと仲良くなって、弁当を届けてもらおうと思ったんです。それで、仲良くなるためにはどうしたらいいかを考えて、まずは『おはようございます』と挨拶するところから始めたんです。そしてこれをヘッジファンドで実践したら、すぐにやりたい仕事を任せてもらえるようになりました。“ストーリー化”するためにはまず、達成したいことの本質を考え続ける必要がある。物事を解決するための、本当のパラメーターを探すんです」

その本質を見つけるためには、今、自分ができることから始める必要がある。

小松今目の前にある、つまらない仕事をとにかくやり続ける。すると、どうやって早く終わらせたらいいんだろうって疑問が生じるはず。『これは自分のやりたいことじゃない』と思っていても、今目の前のことを完璧にやらないと何も始まりません。目の前のことをやり続けると、本当にこれでいいのかだめなのかがわかる。そうすることで、自ずと本質的な答えが見つかります。僕もそうだったんですが、プライドが高い人ほど、目の前にあるつまらない作業に飛び込むことに不安を感じます。でも、まずはちょっとやってみたらいい。僕自身もそういう作業をずっとやってきた結果、今がありますから」

まずは目の前の「つまらないこと」にも飛び込んでみる。それは今、起業や転職といった新しいチャレンジをしようとしている人にも当てはまることだ。

小松「自分のやりたいことをすると、必ずやりたくないことが出てきます。ですがそれでもやり続けないといけない。だから、『給料が下がる』とか『自分の苦手なタイプの人たちとも付き合わなきゃいけない』とか、そういったやりたくないことまで発生するだろうなと、あらかじめ想像してからチャレンジした方がいい。やりたくない作業をあらかじめピックアップしておき、それでもやりたいことである目標のために“ストーリー化”すれば、チャレンジの先が見えてくるはずですから」

執筆:菅原 沙妃取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:Nobuhiro Toya

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