コラム

大学の技術で起業。注目の大学発ベンチャーと各大学の戦略とは

2018-07-25
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

Googleを創業したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、創業時スタンフォード大学に在学していた。のちに世界を変える技術となるGoogleの検索エンジンの中心的技術「ページランク」の基となる技術は、ラリー・ペイジが在学中に発案し、大学がさまざまな形で支援を行ったことで生み出された。現在でもページランクの商標はスタンフォード大学が取得しており、Googleにライセンスされているという。知名度は決して高くないものの、時に世界を揺るがす企業を生み出してきた「大学発ベンチャー」。本記事では、今後ますます注目が集まるであろう大学発ベンチャーの、国内での現状と取り組みを紹介する。

大学発ベンチャーの5つの定義

大学発ベンチャーといっても、その形態は多様である。ここでは、経済産業省の定義する5つの定義に従って分類していく。

  1. 研究成果ベンチャー⼤学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術やビジネス⼿法を事業化する⽬的で新規に設⽴されたベンチャー
  2. 共同研究ベンチャー創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設⽴5 年以内に⼤学と協同研究などを⾏ったベンチャー
  3. 技術移転ベンチャー既存事業を維持・発展させるため、設⽴5年以内に⼤学から技術移転などを受けたベンチャー
  4. 学⽣ベンチャー⼤学と深い関連のある学⽣ベンチャー
  5. 関連ベンチャー⼤学からの出資があるなどその他、⼤学と深い関連のあるベンチャー

以上の定義をもとに、国内の大学発ベンチャーの現状を概観していく。

大学発ベンチャーの現状

分類別大学発ベンチャーの数は次のようになっている。

分類別大学発ベンチャーの数は次のようになっている。

(平成30年3⽉ 経済産業省産業技術環境局⼤学連携推進室 2017年度⼤学発ベンチャー調査 調査結果概要 p3をもとに、編集部作成)

このように概観すると、大学発ベンチャーの約6割を研究成果ベンチャーが占めていることがわかる。また、業界別の大学発ベンチャーの数は以下のようになっている。

このように概観すると、大学発ベンチャーの約6割を研究成果ベンチャーが占めていることがわかる。 また、業界別の大学発ベンチャーの数は以下のようになっている。

(平成30年3⽉ 経済産業省産業技術環境局⼤学連携推進室 2017年度⼤学発ベンチャー調査 調査結果概要p5 をもとに編集部作成 なお、複数回答)

業種別では、バイオ・ヘルスケア・医療機器が最も多く、ついでIT(アプリケーション、ソフトウェア)、その他サービスの順に多いことがわかる。こうした流れは昨年度も同様であり、科学と製品開発との関係が緊密で、学術的に優れた発明・発見の存在する領域に強みがあるのが大学発ベンチャーの特徴といえる。

大学発ベンチャー成功例

それでは、実際のところ大学発ベンチャーで成功している事例にはどのようなものがあるのだろうか。ここでは、ビジネスサイドが研究者と連携した例、海外展開を行った企業の例を紹介する。

株式会社ユーグレナ2005年、東京大学出身者を中心に設立された企業。2005年12月に世界ではじめて微細藻類ユーグレナの屋外大量培養に成功した。いまだ、世界で唯一ユーグレナの屋外商業大量培養を実施している。ユーグレナとは和名で「ミドリムシ」を指し、「バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする」を掲げ、ミドリムシを活用した食品や化粧品などのヘルスケア事業や国産バイオ燃料実用化に向けたエネルギー事業などを展開している。2014年に東証1部に上場。

サンバイオ株式会社2001年にバイオ医薬品開発のメッカである米国サンフランシスコ・ベイエリア(シリコンバレー)で創業。シリコンバレーのインフォマティクス(*1)関連企業の新製品開発責任者だった森敬太氏と、医療情報企業・株式会社ケアネットを創業した川西徹氏が設立し、科学顧問に慶應義塾大学医学部生理学教室教授で脳神経領域の再生医療、iPS研究における世界の第一人者である岡野栄之氏を迎えている。幹細胞などを用いて細胞・組織・器官の再生や機能の回復を目指す再生医療に取り組んでおり、2015年にマザーズに上場。

*1:情報科学

株式会社イーベック2003年、北海道大学遺伝子病制御研究所名誉教授である高田賢蔵氏が持つ「EBウイルスを利用したヒト抗体産生技術」の実用化を目的として設立。2008年にベーリンガーインゲルハイム社(本社:ドイツ/インゲルハイム)と完全ヒト抗体の開発・製品化についてライセンス契約を締結、海外大手製薬企業との大型契約として注目を集めた。

上記以外にも数々の成功例が存在している。また、大学発ベンチャーの事業ステージについても、平成28年度調査では単年黒字化した大学発ベンチャーの割合は55.7%に達している。(下図参照)

大学発ベンチャーの設立状況等

経済産業省 2017年度「大学発ベンチャーの設立状況等」に関する調査をとりまとめました 2,調査の結果概要 より抜粋)

大学発ベンチャーのメリット・デメリット

それでは、実際のところ大学発ベンチャーにはどういった利点があるのだろうか。ここでは、2つの視点からそのメリットを考察する。

メリット

①技術的な優位性まず、大学教授や研究室という、特定の研究に特化した技術力を活用できるのは、創業段階において大きな強みになる。先に挙げた成功例でも、世界トップクラスの技術力を誇る国内の研究者が関わっている事例が多い。また、グローバルな展開を視野に入れやすいというメリットもある。高い技術力は文化を越えてグローバル展開がしやすく、たとえばイーベックがドイツのベーリンガーインゲルハイム社と提携したように、海外の最先端技術とも連携することで、さらなる躍進が見込めるのである。

②大学教授というバリュー大学発ベンチャーの多くは大学教授と連携している。大学教授は共同研究の実績を持っていることが多く、企業や関係者とのコネクションも強い。また、国内外含めさまざまな学会や大会に参加しているため、最新の研究の動向や流れに明るく、他企業や他の国の研究と比べどこが優れているのかを把握することができる。加えて、大学の教授としてのネームバリューもあり、特に技術力で勝負する場合には欠かせない存在といえるだろう。

デメリット

いままでメリットを紹介してきたが、必ずしも良いことばかりではない。大学発ベンチャーの評価が分かれる点はここにあるといえる。大学発ベンチャーのデメリットとしては、ビジネス面での経験不足が挙げられる。高い技術力を持っていても、マーケティングやマネジメントなど企業としての役割は必要不可欠。たとえば、前述のユーグレナは2008年に独立系プライベートエクイティファンド出身の永田暁彦氏を取締役に迎えるなど、ビジネス面での人材強化に努めている。今後大学発ベンチャーがさらに躍進していくためには、ビジネス面に明るい人材の確保が急務となるだろう。

各大学の試み

ここまでで「大学発ベンチャー」の現状と今後を示すことができたように思う。最後に、各大学の産学連携の取り組みを紹介したい。

東京大学:産学協創推進本部

東京大学では、大学と企業の多様かつ本格的な大型の組織間連携を「産学協創」と呼び、積極的に推進している。

①「産学協創」を行いたい

②共同研究先を探索したい

③東京大学関連のベンチャー企業と連携したい

④東京大学の技術の移転を受けたい

⑤東京大学からベンチャー創業の支援をうけたいなどの多様な選択肢に対応し、さまざまな形で大学から支援を行っている。

また、2016年にはベンチャーエコシステムの整備を目指す投資事業会社「東京大学協創プラットフォーム開発株式会社」を設立するなど、多面的な支援も展開している。東京大学は、経済産業省の2017年度調査において大学発ベンチャー創出数日本第1位の実力を誇っており、今後のさらなる躍進が期待される。

京都大学:産官学連携本部

京都大学は同調査においてベンチャー創出数日本第2位であり、さまざまな支援を行っている。京都大学の特筆すべき活動は、京都大学から共同研究などの産学連携を提案する共同研究パートナー募集サイト「このゆびとまれ!」を開設している点である。「このゆびとまれ!」では京都大学の研究者が産学連携をとおして研究したい研究テーマを掲載しており、具体的な研究テーマで共同研究を考えている人にとどまらず、産学連携に関心がある人も関わることができる仕組みになっており、最先端を走る京都大学の研究を活かす事業を支援する取り組みが活性化している。

筑波大学:国際産学連携本部

筑波大学は同調査で創出数第3位。筑波研究学園都市の研究風土を活かし、さまざまな支援を行っている。筑波大学では「つくば産学連携強化プロジェクト」を設けている。このプロジェクトは、筑波大学とつくば地区の研究開発法人との連携によって産業界のニーズに応えるために、筑波大学を核としてつくば地域から産業界への技術移転や新規起業を目指した研究活動を促進することを目的としている。これ以外にもさまざまな支援を行っており、魅力的な風土を活かしたさらなる拡大が期待される。

起業への新たな選択肢

大学発ベンチャーは、最先端技術が必要な企業や起業家と、資金やビジネス面での知識が必要な研究機関をつなぐ取り組みであり、今後ますます最先端ベンチャーが生まれていくなかで、その需要はより高まっていくはずだ。もし本記事を読んで大学発ベンチャーに興味を持っていただけたなら、起業の新たな選択肢として、ぜひ各大学の取り組みをご覧いただきたい。

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