コラム

Sun AsteriskのIPOを分析。企業のDXをゼロから推進

2020-07-03
STARTUPS JOURNAL編集部
Editor
STARTUPS JOURNAL編集部

システム開発やスタートアップの課題を解決する「スタートアップスタジオ」を運営する株式会社Sun Asterisk(以下、Sun Asterisk)が東京証券取引所マザーズへの新規上場承認を受けた。承認日は2020年6月26日で、2020年7月31日に上場を果たした。同日には、日本情報クリエイトのマザーズ上場もしている。Sun Asteriskは、「本気で課題に挑む人たちと、事業を通して社会にポジティブなアップデートを仕掛けていくこと」というミッションのもと、小林泰平氏によって2012年7月に創業され、設立からおよそ8年での上場となる。本記事では新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報を元に、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。

売上高は順調に成長、当期純利益は安定

同社単体の売上高に関しては年々成長を続けており、2019年12月期には、2016年2月期の約4倍近くまで成長していることが分かる。一方、当期純利益は2018年2月期に飛躍的に増加しているが、近年は緩やかな減少傾向にある。

ふたつのサービスライン、「クリエイティブ&エンジニアリング」と「タレントプラットフォーム」

同社は、デジタル・テクノロジーとクリエイティブの活用、および才能の発掘・育成を柱に、社会にポジティブなアップデートを仕掛けていくことを目標としている。デジタル・テクノロジーとクリエイティブを活用できる最適なチームを編成し、本気で社会課題に挑む様々な「ヒト」「モノ」「コト」とのコラボレーションを通じて、新たな価値を創り出していく「デジタル・クリエイティブスタジオ事業」の単一セグメントで展開。同セグメントは、「クリエイティブ&エンジニアリング」と「タレントプラットフォーム」というふたつのサービスラインに分類され、クライアントのデジタルトランスフォーメーションや新規事業開発を支援している。

①「クリエイティブ&エンジニアリング」

クライアントの事業アイデア創出から、プロダクト開発とその継続的な成長に対して、クリエイティブとエンジニアリング面で支援するサービス。具体的な業務内容は、以下である。

・デザイン思考などを用いた事業アイデアの創出

・課題抽出のコンサルティング

・リーンスタートアップの手法によるMVPの開発

・サービスの価値検証支援

・サービス立ち上げ後のプロダクトの継続的な開発、運用支援

クライアントとの間で、3ヶ月以上継続する準委任契約はストック型、3ヶ月未満の準委任契約、および請負契約はフロー型と分類されている。

②「タレントプラットフォーム」

クライアントの事業アイデア創出からプロダクト開発・プロダクトの継続的な成長を、人材紹介面で支援するサービス。日本国内外でIT人材の発掘

・育成および、紹介・派遣に注力している。主にクライアントとの人材紹介・人材派遣契約、業務委託契約などにより収益が発生している。具体的な取り組みは、以下である。

・子会社のグルーヴ・ギア株式会社(以下、グルーヴ・ギア)が運営するプログラミングスクール「GEEK JOB」を通じて、現場で活躍できる若手エンジニアを育成。また、卒業生を紹介

・派遣・社員ネットワークや各人材会社の提供するデータベースを活用して、日本国内の即戦力人材を発掘する専門チームを設置し、クライアントに対して紹介

・ベトナムをはじめとする、アジア各国のトップ大学と産学連携し、日本でエンジニアとして就職を希望する学生たちを集めた選抜コースを運営。同コース生徒の日本企業への就職をサポート

「クリエイティブ&エンジニアリング」が売上高の7割以上を占める

サービスライン別の売上高に注目すると、「クリエイティブ&エンジニアリング」が売上高の7割以上を占めており、主力事業であることが伺える。・「クリエイティブ&エンジニアリング」の指標「クリエイティブ&エンジニアリング」では、安定で継続的な収益に繋がる、「ストック型顧客数」「ストック型売上比率」「月次平均顧客単価」が重要な指標である。以下、それぞれの指標の推移をグラフで示した。

2019年12月期の同サービスに占める割合は、ストック型約80.11%、フロー型約19.89%となっており、安定的かつ継続的な収益構造を構築しているといえる。

ストック型顧客数は拡大を続けており、2020年12月期第1四半期末時点では、75社になっている。

月次平均顧客単価も上昇を続け、2020年12月期第1四半期では、過去最高となる3,457,064円を達成している。この成長の理由として、同社の下記の取り組み・背景が挙げられる。

・ベトナム現地法人との連携の強さ

・データプラットフォームの開発に注力

・東京、ハノイ、ダナン、ホーチミンの各拠点を増床し、積極的に優秀な社員の確保に注力することで、開発体制の強化と拡大に取り組んでいる

以上の要素により、既存顧客からの継続

・安定した堅調な受注と、新規顧客の増加が継続しており、月次平均解約率も、3.52%と低い解約率を実現している。今後も、「クリエイティブ&エンジニアリング」事業のさらなる売上の増加が見込まれるだろう。

・「タレントプラットフォーム」の指標

グルーヴ・ギアによるプログラミングスクール「GEEKJOB Camp」の、2018年1月〜2019年12月の受講者数は1,095人にのぼる。さらに、「クリエイティブ&エンジニアリング」に対しても顧客や人材の情報をシェアすることで、両サービス間のシナジーを生み出している。また、ベトナムを中心としたアジア各国のトップ大学との産学連携による人材育成プログラムの参加者数は、下表のとおり増加を続けており、今後もさらなるサービス・取り組みの拡大が期待できる。

デジタライゼーション市場は拡大傾向に

矢野経済研究所によれば、国内民間企業のIT市場規模は、今後も成長が続き、2021年度は13兆3,200億円と予測されている。現状は、国内企業のIT予算の約80%は、現行ビジネスの維持・運用に割り当てられており、新たなデジタル事業の創出に向けた投資が十分にはなされていないため、デジタライゼーション市場(注1)の拡大余地は大きく残されていると考えられる。新規ビジネス向けのバリューアップ予算割合は2021年には22.5%から33.7%に増加が見込まれており、同社グループは、国内のデジタライゼーション市場規模について、2020年現在では約3兆円の規模であるが、今後数年で約4.5兆円規模に拡大していくと推計している

注1:業務プロセス全体の完全デジタル化を図る市場規模のこと。

革新的なサービスや、新しいイノベーションのインフラになるべく、事業展開を行う

同社は、売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、主要事業である「クリエイティブ&エンジニアリング」における、ストック型顧客数および、平均顧客単価を重要指標としている。また、同社の強みは、以下の3点である。

①成長性の高いデジタルトランスフォーメーション市場での、ユニークなポジションオープンイノベーションによる事業共創、デザイン思考・リーンスタートアップ・アジャイル開発などのフレームワークの活用や、DevOpsの環境の構築など、価値創造型のプロセスにおける豊富なナレッジを蓄積している。また、上記を1,500名超の規模で展開し、エンジニアなどのリソースが課題であるクライアントの事業拡張要請にスムーズに対応できる点から、市場内でユニークなポジションにいると考えられる。

②ふたつのサービスライン間のシナジー「タレントプラットフォーム」では、「クリエイティブ&エンジニアリング」で蓄積したノウハウを、教育カリキュラムに反映するサイクルが構築されており、常に時代のニーズにあった高度IT人材を育成できる。

③「Sun* CI」という独自のシステムユーザー中心設計でのサービス開発では、DevOps手法(注1)を取り入れる必要がある。この実現のために、同社では「Sun* CI」という独自のプラットフォームを構築している。作業の自動化を実現し、エンジニアが事業成長に集中できる環境を提供している。今後更に機能をブラッシュアップしていくことで、「デジタル・クリエイティブスタジオ」事業を更に迅速に拡大できると期待される。

注1:デベロップメントアンドオペレーションズの略称。開発と運用を連携しコードレビューやテスト、 Webセキュリティのチェック、リリース作業などを自動化することで、信頼性の高いコードをスピーディに、かつ安定して配信するための開発手法。

拡大するデジタライゼーション市場牽引していくための、更なる体制強化が課題

同社は事業上の対処するべき課題として、以下の6点を挙げている。

①デジタルトランスフォーメーション市場におけるデジタライゼーション市場の拡大②技術力の更なる強化③優秀な人材の採用と育成④内部管理体制の更なる強化⑤情報管理体制の更なる強化⑥新たな収益モデルによる収益機会の多様化及び新規事業の展開

同社は、日本において、今後もデジタライゼーションの実現のワンストップ・ソリューションを提供し、引き続き市場を牽引してくことが重要であると捉えている。

6回の資金調達により、累計調達額は20億円を突破

有価証券報告書と同社プレスリリースを元にしたSTARTUP DBのファイナンス情報によると、2013年の設立から上場に至るまでの約7年間で、6回の調達を実施しており、累計約20億8,900万円の資金を集めている。

表をみてみると、金融機関やVC、事業会社など様々な属性の投資家から資金を調達していることがわかる。特に銀行系を中心とした金融機関から2回、総額15億円規模の調達を行っている。

想定時価総額と上場時主要株主

上場日は2020年7月31日を予定していて、価格の仮条件決定日は2020年7月13日である。上場する市場はマザーズとしている。今回の想定価格は630円である。調達金額(吸収金額)は30.42億円(想定発行価格:630円×OA含む公募・売出し株式数:4,830,000株)、想定時価総額228.12億円(想定発行価格:630円×上場時発行済株式総数:36,210,000株)となっている。

公開価格:700円初値:1,209円(公開価格比 +509円 +72.7%)時価総額初値:437.77億円

※追記:2020年7月31日(上場日)

筆頭株主は取締役である平井誠人氏で34.37%を保有する。次いで、取締役の服部裕輔氏が19.91%、執行役員の藤本一成氏が13.05%を保有し、第2、3位株主に名を連ねる。そのほか外部の投資家には、国内最大規模の機関投資家である農林中央金庫が参加している。また、ソニー大和証券グループが共同で設立した投資ファンド、Innovation Growth Venturesが主要株主となっている。

※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考

無料メールマガジンのご案内

無料のメルマガ会員にご登録頂くと、記事の更新情報を受け取れます。プレスリリースなどの公開情報からは決して見えない、スタートアップの深掘り情報を見逃さずにキャッチできます。さらに「どんな投資家から・いつ・どれくらいの金額を調達したのか」が分かるファイナンス情報も閲覧可能に。「ファイナンス情報+アナリストによる取材」でスタートアップへの理解を圧倒的に深めます。