
膨大なデータを処理するアルゴリズムを追求した自社プロダクトを開発・運営している株式会社Speee(以下、Speee)が東京証券取引所JASDAQへの上場承認を受けた。承認日は2020年6月10日で、7月10日に上場を果たした。
Speeeは、「解き尽くす。未来を引きよせる。」というミッションのもと、2007年11月に創業され、設立からおよそ13年目での上場となる。また今年の3月に東京証券取引所マザーズへの上場承認を受けたが、同年3月31日に上場中止が発表されていた。
同社が展開するインターネット広告と関連市場は、順調に成長を続けており、日本の総広告費は、2019年に8年連続前年実績を101.9%上回り、6兆9,381億円となった。またこのうち、インターネット広告市場に関しては2019年において前年比119.7%の2兆1,048億円となり、広告市場全体の伸びを上回る成長を続けている。
本記事では新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報を元に、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
売上高は順調に成長を続け、近年は営業利益も黒字化
過去5年間の売上高と営業利益を示している。売上高に関しては年々成長を続けており、2015年9月期と比較すると2019年9月期には、約2倍に成長していることが分かる。2018年9月期から公表されている営業利益に関しては、2018年度から黒字が継続しており、2020年通期では前年度の実績を超えることが想定できる。
4つの事業とサービスの特徴とは?
Speeeの展開する事業は大きく4つのセグメントから構成されている。
①MarTech事業
データ分析を元にしたマーケティングソリューションサービスを提供する他、データを活用したマーケティング施策のオペレーション代行などを行っている。具体的なサービスは以下となっている。
「Webアナリティクス」:Googleなどの検索エンジンを通じて、ユーザーの来訪数や購入数などを向上させることを目的に、顧客のWEBサイトの掲載内容の改良やWEBサイト構造の改善を図るコンサルティングを行う。
「トレーディングデスク」:顧客のマーケティング戦略に応じて複数種類の広告手法・プラットフォームを柔軟に組み合わせ、プロモーションの設計・運用を行う。
「PAAM」:散在している社内外のデータを収集・統合・可視化するとともに、広告の費用対効果の最適化を始めとするマーケティングへの利活用の方法の提案を行う。
・プロダクト
「UZOU」:ネイティブアド配信プラットフォーム。人工知能を活用したユーザー・媒体・広告のマッチングと媒体のデザインを損ねない広告フォーマットを主要な特徴としている。
②X-Tech事業
この事業では、バリューチェーンの生産性に影響を及ぼしている問題を特定した上で、テクノロジーを活用した新たなソリューションの提供を行っている。
「ヌリカエ」:外壁リフォームにおけるマッチングサービス。住宅の外壁塗装工事を検討するユーザーを複数の外壁塗装業者に紹介する形となっている。
「ナコウド」:解体、太陽光及びエクステリアに関するサービスを提供するリフォーム業者とユーザーをマッチングするサービス。
③Data Platform事業
重要なデータに関して、すべての取引履歴について第三者による検証が可能であり、意図しない相手へのデータ流出を防ぎつつ、中央管理者を介さずに当事者間でデータ流通が完結する取引形態を実現することで、ブロックチェーン技術とトークンエコノミーによってデータ流通を革新することを目指している。
④その他
グループとして、将来の企業成長の柱となる事業の立ち上げを目指して、様々な事業への参入を行っている。具体的には、インドネシア共和国におけるHR関連サービス「Job-Like」など。
MarTech事業が65%以上の売上高を誇る
4つの事業別での売上高を示しているのが上図である。近年では、MarTech事業が売上の中心となっていることが分かる。全体の売上高のうち、MarTech事業が約65%の売上高を占めている。また、X-Tech事業に関しては、第12期の売上高は前年同期比と比較すると9.1%増となっていて、成長を続けている。Data Platform事業とその他海外事業などに関しては、投資段階にあるため、利益は他事業と比較すると少ないが、上場後の展開に期待をしたい。
「提供価値の最大化×新規事業育成」を経営戦略に掲げる
同社は、売上高成長率と営業利益率を経営上の重要指標として捉えている。
上記指標の向上を図るため、以下の2つを経営上の基本戦略として掲げている。
顧客企業のデータを収集・分析し、同データを活用したサービスを複数提供することで、顧客企業の成果を最大化するとともに、単価の上昇を目指す。また、データの利活用に関する専門的なノウハウを自社内に獲得・蓄積する。
②事業開発による顧客数増加
X-Tech事業に表れているように、前項を通じて培ったノウハウをもとに、非効率が残る特定の産業における業務のデジタル置換を推進し、業界全体の生産性向上への貢献を目指す。その上、Data Platform事業などの新規事業領域の開拓・投資を推し進め、新たな収益の柱となる事業を育成していく。
また、同社の強みとして、以下の3点が挙げられる。
②データ分析の専門職・プロダクト企画開発の専門職・ビジネス職の比率が同一で、事業活動の一連フローを一貫してバランスよく行える。
③領域ごとの用途に特化した独自システムを構築しており、顧客満足度の向上および、事業開発フローにおける工数負担の軽減を実現している。
競争力の保持と、組織拡大に伴う課題への対処がキーとなる
同社は事業上の課題として大きく6つの要素を挙げている。
②高い専門性を有する人材の確保
③技術革新への対応
④海外展開への対応
⑤内部管理体制の強化
⑥情報セキュリティのリスク対応の強化
人材の採用・育成へのさらなる注力と積極的な投資、最新技術への対応と競争力の保持、海外への展開、組織の巨大化に伴うリスクへの対応や管理体制の強化を通じて、今後のさらなる経営安定と成長を実現していく方針だ。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2020年7月10日を予定しており、仮条件の決定日は2020年6月23日だ。上場する市場は東京証券取引所JASDAQスタンダードとしている。
今回の想定価格は2,270円である。調達金額(吸収金額)は25.4億円(想定発行価格:2,270円 × OA含む公募・売出し株式数:1,121,900株)、想定時価総額は221.4億円(想定発行価格:2,270円 × 上場時発行済み株式総数:9,755,600株)となっている。
初値:5,150円(公開価格比 +2,270円 +78.8%)
時価総額初値:502.41億円
※追記:2020年7月10日(上場日)
筆頭株主は代表取締役である大塚英樹氏で29.91%を保有する。また、共同創業者で取締役を務める久田哲史氏が資産管理会社である株式会社Printと合わせて52.89%を保有する。そのほか、取締役の渡邉昌司氏が8.32%となっており、ベンチャーキャピタルなどの外部投資家は参加していない。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考