
2019年5月9日にロサンゼルスで開催されたイベントで、AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏が「スペースコロニー計画」、「月植民計画」を発表し、以下の発言をした。
「近い将来、といっても数十年、もしかすると100年後かもしれないが、現在われわれが地表でやっている仕事の多くが宇宙でもっと簡単にできるようになると思っている。もっとエネルギーが得られるようになるだろう。われわれは地球を離れるべきだ。われわれは宇宙をもっと使える場所にすべきだ。」
今まで夢物語として語られてきたことが近い将来、実現しようとしているのだ。本記事では、実際に宇宙を舞台に活躍している国内外のスタートアップにスポットライトを当てていく。
宇宙ビジネスの市場規模、2040年120兆円超え
参考:Space: Investing in the Final Frontier
上記の図は宇宙ビジネスの市場規模を記したものだ。2016年から2040年にかけて、約3倍(1.05兆ドル)となっている。ここで注目して欲しいのは、2次影響だ。通信インフラが改善されれば、世界中でインターネットがさらに使えるようになり、ソーシャルメディア、オンライン広告などがさらに発達する。宇宙に有人で行けるようになれば、旅行業などが発達する。このように宇宙における開発が進めば進むほど、波紋のように別の産業に影響が広がっていく。
日本政府による宇宙スタートアップへの支援
宇宙ビジネスの動向と政府の取組(経済産業省)を引用
2018年3月20日に安倍総理が宇宙ビジネス向けに今後5年間で官民合わせて約1,000億円のリスクマネー供給を可能とすることなどを含んだ、新たな支援パッケージを発表した。
ここで注目すべきところは、S-Matching、S-Booster、S-NETといった、政府が自主的に宇宙ビジネスと人を繋げるためのコミュニティの場を設けているところだ。
宇宙機器産業の構造
ここで紹介したいのが宇宙機器に関する産業構造だ。人類の宇宙に関して「何かしたい!」という想いから始まり、番号の割り振られている各分野に事業が生まれる。各番号の内容について具体的な企業を例に出し、説明していく。
①ロケットの打ち上げ
ロケットの役割は、人工衛星などを宇宙に運ぶことにある。➂で紹介するが、人工衛星を用いた事業は需要が高く、その人工衛星を運ぶロケットの需要も必然的に高まる。
しかしこのロケットの難点は、価格が高いところだ。1機打ち上げるのにおよそ85億から120億円かかる。そのため、どのように価格を下げていくのかが企業にとっての競争ポイントとなってくる。
価格を下げる方法として、以下の2つが挙げられる。
1.再利用を可能にする
一度打ち上げたロケットを地球に着陸させる技術や、繰り返し燃焼させたロケットのエンジンの保守点検をいかに適切に行うかがポイントとなる。
PDエアロスペース(日本)
https://www.pdas.co.jp/index.html
SpaceX(アメリカ)
ZOZOの創業者、前澤友作氏の月旅行を計画したのもSpaceXだ。
Blue Origin(アメリカ)
2.小型衛星打ち上げ用の小型ロケットを作る
小型衛星は、大型衛星の打ち上げの余ったスペースに相乗りする形で打ち上げられているケースが多い。この場合、小型衛星は打ち上げの時期や軌道を自由に選ぶことができなくなり、ミッションに制約が生まれてしまう。小型衛星向けロケットは、この問題を解決することができる。
インターステラテクノロジズ(日本)
Vector Space Systems(アメリカ)
Rocket Lab(アメリカ)
②デブリの除去
再利用型ではないロケットや機能を停止した衛星は地球に戻ってくることはない。これらはスペースデブリとして、地球の周囲を周り続けるのだ。
地球の衛星軌道上を周回しているスペースデブリの数は5兆8000億個を超えていると言われており、それぞれ異なる軌道を周回しているため、回収、制御が難しくなっている。宇宙船が5〜10mmのデブリと衝突することは、弾丸を撃ち込まれるに等しい。10cmを超えてくると、宇宙船が壊されてしまう。
そんなスペースデブリを除去し、宇宙の環境を守ろうとしている企業を紹介する。
アストロスケールホールディングス(日本)
D-Orbit(イタリア)
③人工衛星
人工衛星を用いたサービスは大きく3つに分けることができる。情報通信サービス、画像サービス、位置情報サービスの3つだ。
情報通信サービスは通信衛星を用いて、テレビや携帯電話などで活用する。スカパーなどがわかりやすい例だ。
画像サービスは観測衛星から送られてくる画像データを用いて、情報を抽出し、提供するサービス。天気観測や地形を把握しておくことで災害予防などに活用される。
位置情報サービスはその名の通り、GPSなどによる位置情報を利用したサービスだ。カーナビやスマートフォンアプリ、航空監視などで用いられる。
このように人工衛星を用いたサービスは身近な生活に寄り添っており、その分需要も大きいが供給が足りていないのが現状だ。実際、ロケット打ち上げ全体のうち、人工衛星利用率は96%となっている。
ここではそんな人工衛星を製作しているスタートアップ を紹介していく。
アクセルスペース(日本)
さらに独自で衛星を持つことも示唆しており、開発から運用まで100%自社の衛星の開発を進めている。同社のビジネスモデルは、単に人工衛星を開発して売るといったものではなく、「AxelGlobe」という独自のデータ分析プラットフォームを介して企業は衛星からの情報を手に入れる事が出来るというものである。これによって企業は人工衛星を所有する事なく、必要な衛星からのデータだけを解析するといった事が可能になる。
2018年6月に経済産業省が推進するスタートアップ集中支援プログラム「J-Startup」に採択された。
OneWeb(アメリカ)
2019年2月27日にはその先駆けとして6基の衛星の打ち上げに成功している。
④宇宙探査機
「あと30年で石油がなくなる」というニュースを一度は耳にしたことがあるだろう。事実、地球にある資源は減少している。この問題の解決策のひとつとして、新しい資源を探す方法がある。新しい資源として注目されているものには、日本周辺の海に大量に埋蔵しているといわれているメタンハイドレートや、人の手で大量に培養することができるミドリムシなどがある。
このような新しい資源を宇宙で探す取り組みをしている企業がある。
ispace(日本)
Googleが提供している月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に唯一の日本チーム「HAKUTO」として参加した。
Planetary Resources(アメリカ)
https://www.planetaryresources.com/
2018年10月31日に、資金難が原因でブロックチェーンソフトウェアを手掛けるConsenSys社に買収された。
宇宙産業の今と未来
今回の記事では宇宙機器に焦点を当てて、紹介をさせてもらった。これからの宇宙産業では2次産業が伸びるとされている。だがその2次産業を支えるのは安全で、信頼のできる宇宙機器があってこそだ。今、宇宙産業はその地盤を一歩ずつ着実に固めている時だと思われる。
アポロ11号の船長で、人類史上初めて月面に降り立ったニール・オールデン・アームストロング氏のこの言葉を覚えているだろうか。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」
今踏みしめられている一歩一歩が未来の豊かな宇宙につながっている。