コラム

プレイドのIPOを分析。CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」

2020-11-24
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

デジタルマーケティング領域でCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を運営する株式会社プレイド(以下、プレイド)が東京証券取引所マザーズに上場承認を受けた。承認日は2020年11月12日で、同年12月17日に上場を果たす。

プレイドは、「データによって人の価値を最大化する」をミッションに掲げ、倉橋健太氏(以下、倉橋氏)によって創業。世の中に溢れるデータを価値のあるものとして還元し、豊かな体験を流通させることを目的にインターネットにおけるインフラを構築している。2011年10月の設立からおよそ9年での上場となる。

本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。

売上高は5年間で着実に成長

上図は過去5年間の売上高の推移である。2020年9月期の売上高は、2015年9月期の105倍にも成長しており、年々着実に成長していることがわかる。

SaaS単一セグメントを支えるふたつの事業分野

同社は、SaaS事業の単一セグメントとなっている。その中で、SaaS事業とその他周辺事業のふたつの事業分野を展開している。事業分野ごとの特徴は以下の通りだ。

(1)SaaS事業

①KARTE(for Web)
「KARTE(for Web)」は、Webサイト向けに提供している「KARTE」。顧客分析と施策制作・配信・自動化を一括して管理することができることが特徴。また、Webサイトなどに来訪する顧客一人ひとりの行動をリアルタイムで可視化することで、顧客の購入意向の高まりを見逃すことなく適切なコミュニケーションをとることを可能にしている。 

②KARTE for App
「KARTE(for Web)」とほぼ同じ機能をスマートフォンアプリ上で実現する、iOSとAndroidのスマートフォンアプリ向けのSDK(Software Development Kit)サービス。導入することでスマートフォンアプリを利用する顧客の行動をリアルタイムに解析し、プッシュ通知やアプリ内メッセージを配信することができる。

③その他のオプション
「KARTE(for Web)」と「KARTE for App」のオプションサービス、「KARTE Datahub」を提供している。「KARTE(for Web)」と「KARTE for App」で蓄積した顧客の体験データを自社の顧客データベースなどと統合・分析することや、外部のCRMツールと連携してマーケティング活動に活用することを可能にしている。

(2)その他の周辺事業

同社が重要視しているCX(顧客体験)をより広く伝え、世の中の共感を増やすという目的から 、”体験”にフォーカスしたビジネスメディアの「XD(クロスディー)」を提供している。

関連市場で注目されているCXの強化

同社の関連市場は、デジタル・マーケティング・サービスの3つである。インターネット上のCX(顧客体験)の強化に関しては、昨今、企業の競争優位性確保の手段として改めて注目されている。企業の提供する製品やサービスが成熟している日本などの市場において、製品やサービス自体の差別化だけではなく、CX(顧客体験)を高めることで競争優位性の向上を狙う企業も増加すると見込まれている。

Similar Web社によると、現在の日本の価格・サービス体系において、「KARTE」の導入可能性のあるWebサイトは19,100件(注1)あるとされている。

注1:2019年2月時点のSimilar Web社のデータに基づく、30,000UU以上の日本のウェブサイト数。ウェブサイトに限って算出されたもので、「KARTE for App」が位置するスマートフォンアプリ市場における拡大余地は含んでいない。

サブスクリプション売上高とその比率、導入企業数が経営拡大の要

同社は、「KARTE」をサブスクリプションモデルで提供している。そのため、毎月経常的に得られる「KARTE」の月額利用料の積み上がり状況の指標であるARR(注2)の拡大を経営上の目標としている。

この達成状況を判断する上で、毎月経常的に得られる「KARTE」の月額利用料の合計額で、経営上の目標の達成状況を把握する3つの重要な指標をおいている。

①サブスクリプション売上高
プレイド全体の売上高のうち、毎月経常的に得られる売上高の比率で同社の売上高の安定性を表すサブスクリプション売上高比率
③導入企業数

2019年と2020年の四半期ごとの3つの指標は以下の通りだ。

2020年9月期第4四半期のサブスクリプション売上高比率は、96.3%となっている。2018年9月期第1四半期から売上高比率90%以上を維持しており、SaaS事業における「KARTE」など各サービスは継続的に成長していることがわかる。

同社は、今後ARRを高めていくためには導入企業数を増やすことが重要だと考えている。

注2:Annual Recurring Revenueの略語で、各期末の月次サブスクリプション売上高を12倍することで算出している。

サービス向上と顧客基盤の拡大が今後の成長の鍵

同社は、事業上の対処するべき課題として以下の4つをあげている。

①提供するサービスの向上
②顧客基盤の拡大
③経営基盤の強化
④安定的な事業資金の確保

今後、事業成長を継続していくためには既存サービスのさらなる付加価値向上が必要不可欠であると同社は考えている。2020年9月期には、Googleと戦略的パートナーシップを締結し、機械学習などの分野で協業をしていく予定。

また、同社が重要指標のひとつに掲げている”導入企業数”の増加については、2020年9月期より積極的な広告施策を実施している。「KARTE」の認知を拡大すると同時に、マーケティングに関するデータやナレッジのプラットフォーム構築に向けた新たな付加価値の提供に努める方針だ。

8回の資金調達により累計で50億を超える資金調達を実施

これまで5回の資金調達と1回の融資、新株予約権の行使によって累計51億7,240万円を資金調達を実施したことがわかる。

2019年11月7日には、国内外の事業拡大へ向け、米Googleから資金調達を実施している。この調達は、同社の手掛ける「KARTE」へのGoogle Cloudの機械学習やAI(人工知能)技術の統合においての協業を目的とするものだった。両社は、日本におけるクラウド市場の拡大に向けても協業するとしていた。

そのほか出資元には、フェムトパートナーズEight Roads Ventures Japanみずほ銀行三井住友銀行SMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三井住友海上キャピタル三井物産三菱UFJキャピタルなど複数の事業会社とベンチャーキャピタルからの出資を受けている。尚、みずほ銀行三井住友銀行からの調達は融資であるとしている。

想定時価総額と上場時主要株主

上場日は2020年12月17日を予定しており、上場する市場はマザーズとしている。

今回の想定価格は、1,400円である。調達金額(吸収金額)は、179.4億円(想定発行価格:1,400円×OA含む公募・売出し株式数:12,817,000株)、想定時価総額は517.0億円(想定発行価格:1,400円×上場時発行済株式総数:36,930,900株)となっている。

公開価格:1,600円
初値:3,190円(公募価格比+1,590円 +99.3%)
時価総額初値:1178.09億円

※追記:2020年12月18日

筆頭株主は、同社代表取締役である倉橋氏であり、29.65%を保有する。次いで、取締役CPOの柴山氏が19.78%、JAPAN VENTURES I L.P.を運営するEight Roads Ventures Japanが15.89%を保有する。

Eight Roads Ventures Japanは、世界有数の規模を誇るベンチャーキャピタルであるEight Roads Venturesの日本支社である。同社は、2020年10月30日にマザーズへ上場したRetty、クラウド型ネット印刷「ラクスル」を展開するラクスルへの投資実績を持つ。また、Kaizen Platformdivアペルザへの出資も行っている。

そのほか、フェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合とフェムトグロースファンド2.0投資事業有限責任組合を運営するフェムトパートナーズ、米Google International LLC三井物産、MSIVC2018V投資事業有限責任組合を運営する三井住友海上キャピタルなどの事業会社、ベンチャーキャピタルが大株主として参画している。

関連記事:「KARTE」運営のプレイド。創業時を倉橋/柴山氏が振り返る

関連記事:EightRoads村田氏が軸におく、執念と課題の解像度とは?

※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考

 

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