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フランス発Mobilityユニコーン「BlaBlaCar」に見るM&Aを駆使した迅速な事業拡大戦略

1.はじめに

CB Insightsの調査によると、2019年4月15日時点で、フランスには4社のユニコーンスタートアップが存在する。ヨーロッパにおいては、イギリスの16社、ドイツの7社に次ぐ、3番手のポジションだ。4社の顔触れを見ると、最新の資金調達ラウンドでの時価総額が高い順に、BlaBlaCar(ライドシェアリング、16億ドル)、Deezer(音楽配信、11.6億ドル)、Doctolib(専門医検索、11.4億ドル)、OVH(クラウドコンピューティング、11億ドル)となる。

今回は、フランスのスタートアップシーンの代表的な存在であるBlaBlaCarの成長の軌跡を振り返ることで、日本のスタートアップの成長戦略に対する示唆を抽出してみたい。

2.BlaBlaCarの概要

BlaBlaCarは、2006年9月、ヨーロッパ最高のビジネススクールであるINSEADの学生、フレデリック・マッツェッラによって、パリにて創業された。マッツェッラは、研究者・大学教員の養成を目的とする、フランス屈指の名門グランゼコール・高等師範学校の物理学修士号、及びスタンフォード大学のコンピューター科学修士号を取得したエリートだ。在学中から卒業後1年間に掛けて、NASA(米国航空宇宙局)で研究助手も務めている。

マッツェッラによる学生起業として始まったBlaBlaCarが、組織としての本格的な形成を見せるのは、共同創業者であるニコラス・ブルッソンがCOO(2016年10月からCEO)、フランシス・ナペズがCTOとして参画した2008年5月以降だ。

INSEADでMBAを取得したブルッソンは、在学中に、ヨーロッパ中のビジネススクールの学生が起業プランを競い合うイベントEuropean Venture Capital Investment Contestで優勝しており、卒業後は、ロンドンの名門プライベートエクイティファームであるAmadeus Capital PartnersにてVC投資に携わっている。一方のナペズは、グルノーブル大学で通信工学を修めた後、フリーランスのエンジニアとして、複数のスタートアップでサービス開発を指揮した経験を持つ。

BlaBlaCarは、都市圏内の短距離移動が中心となる一般的なライドシェアリングサービス(Uber、Lyft、Grab等)と異なり、都市間を跨ぐ長距離移動を主たる対象としている点が最大の特徴だ。実際に、ユーザーの平均的な利用距離は200マイル(約320キロ。東京-仙台間の直線距離に等しい)と言われている。

サービスの流れは、概ね以下の通りだ。まず、BlaBlaCarに登録したドライバーが、行先地をサイトにポストする。ポストを見て、同じ行先地に向かいたいユーザーがドライバーに電話かアプリでコンタクトし、マッチングが成立する。逆に、ユーザーが希望の行先地をポストし、それを見たドライバーとのマッチングが成立する流れもある。ユーザーは、行先地までの燃料代等、運賃ではない対価をドライバーに支払う仕組みとなっており、白タク等の法規制には抵触しない。1トリップ当たりの平均支払額は25ユーロ程度であり、BlaBlaCarはその内15~20%を手数料として徴収している。

2019年2月19日時点で、サービスは世界22ヶ国(ロシア・ウクライナ・トルコを含むヨーロッパのほぼ全域から、インド、メキシコ、ブラジルまで)で展開されており、登録ユーザー数は7,000万人、アクティブドライバー数は800万人を超える。中でも、ロシアが最大の市場で、登録ユーザー数は1,500万人と、2割強を占める状態だ。ロシアを含む中央・東ヨーロッパやバルカン半島諸国、トルコ・インド・メキシコ・ブラジル等の新興国では、都市間を繋ぐ長距離移動用の公共交通機関が未発達か、或いは利便性が低いことが多い上、マイカーの保有・維持のハードルも高いことが、BlaBlaCar普及の背景として考えられている。

3.BlaBlaCarのM&A・成長戦略

BlaBlaCarの成長戦略の特徴は、同業スタートアップの積極的な買収を通じて、海外進出とサービスラインナップの拡充を、迅速に実現して来た点だ。

創業後、フランス・イギリス・スペインへは、自社アプリの横展開によりオーガニックに進出したものの、2012年にPostoinAuto.itの買収によりイタリア市場に参入して以降は、COO(現CEO)であるブルッソン指揮の下、現地の同業スタートアップを買収し、そのまま現地法人化する「Acqu-Hire」戦略を加速させている。

具体的には、Superdojazd(2012年10月。ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)、Podorozhniki(2014年1月。ロシア・ウクライナ)、Autohop(2015年3月。ハンガリー、クロアチア、セルビア、ルーマニア)、Carpooling.com(2015年4月。ドイツ)、Aventones(2015年4月。メキシコ)、Jizdomat(2016年1月。チェコ・スロバキア)、BeepCar(2018年8月。ロシア)と、僅か6年余りの間に8社を買収し、サービス展開地域を迅速に拡大させた。

ヨーロッパは、EUという単一経済圏を形成しつつも、言語・文化・商慣習・経済環境等が国によって未だ異なるため、自国市場のサービスの横展開では上手く普及させられず、各国の実情・ユーザー嗜好に合わせたローカライズが不可欠となる。その際、ゼロベースで拠点開設・サービス開発をするのではなく、現地の同業スタートアップを買収することで、人材(特に、優秀な起業家・エンジニア)を獲得する手法は、理に適っている。

買収後は、スタートアップ経営者を現地拠点の責任者に就かせ、チームをそのまま残してオペレーションを一任している点も、大きな特徴だ。各国拠点の独立性を維持・活かしたマネジメントスタイルは、植民地支配の名残りで、ヨーロッパ企業が伝統的に得意とする手法であるが、スタートアップであるBlaBlaCarもまた、例外ではない。

積極的な買収には、迅速な海外進出に加えて、更に戦略的な意味がある。それは、競合の取込みを通じた、マーケットリーダーポジションの確立だ。上記の買収先の中で、ドイツのCarpooling.comとロシアのBeepCarは、長年BlaBlaCarの競合として明確に位置付けられて来た企業だ(UberとLyftの関係に近い)。Carpooling.comはダイムラーから出資を受け、BeepCarはロシア最大のインターネット企業であるMail.ruのサービスである等、競合としては手強い。BlaBlaCarは、ドイツ以外のヨーロッパ主要国でのインフラ(登録ユーザー・ドライバー数、知名度、ロイヤリティ等)を交渉材料に、ネットワーク効果をメリットとして訴求することで、Carpooling.comを軍門に下らせたと考えられる。一方、BeepCarに対しては、Mail.ruのプラットフォームサービス上で広告を継続出稿することを条件に、買収へと繋げている。結果として、ヨーロッパ最大の潜在市場であるドイツと、登録ユーザー数ベースで既に最重要市場であるロシアの双方で、支配的な地位を確立することに成功した。

海外進出を一段落させたBlaBlaCarは、近年、買収によるサービス拡充を推進している。2018年4月に、都市圏内のライドシェアリングサービスを提供するフランスのスタートアップLess、同年11月に、フランス国鉄のバス部門であるOuibusを相次いで買収している。Lessの買収には、これまで構築して来た都市間の長距離移動ネットワークに、都市圏内の短距離移動ネットワークを接続することで、ユーザーにより精緻なDoor-to-Doorサービスを提供する意図が存在する。また、Ouibusの買収には、バスネットワークを組み合わせることで、サービスのカバー範囲拡大・ユーザーにとっての選択肢増大を実現する意図が存在する。共に、BlaBlaCarが、これまでのライドシェアリングサービス提供会社から、より包括的な総合モビリティサービス提供会社へと進化しようとしている兆しだと考えられている。

4.BlaBlaCarの投資家

これまで述べて来たように、BlaBlaCarは、積極的な海外進出・サービス拡充によって、大きな成長を実現して来た。この成長の背景に、大手VC投資会社が存在していたことにも言及したい。

BlaBlaCarは、これまで6回のラウンドで、合計約4.5億ドルを調達している。投資家団には、フランス国鉄を始めとする自国の企業に加え、Accel Partners、Index Ventures、Insight Venture Partners 等、米系の有力VC投資会社が名を連ねる。Accel Partnersは、シリーズBからDに掛けて3回のラウンドに継続的に参加、Index Venturesは1億ドルのシリーズCをリード、Insight Venture Partnersは2億ドルのシリーズDをリードする等、コミットメントも深い。

イギリスを除き、ドイツやフランス等のヨーロッパ諸国には、巨額の成長資金を提供可能な内資系VC投資会社が存在しない。一方で、ドイツのスタートアップビルダーであるRocket Internetの成功を皮切りに、大陸ヨーロッパのスタートアップも、米中を除く世界市場でナンバーワンのポジションを確立しようと目論むケースが増えている。この資金の需給ギャップを埋めるべく、大陸ヨーロッパのスタートアップは米系の有力VC投資会社にアプローチする、という構図となっているのだ。

そして無論、米系の有力VC投資会社は、ヨーロッパのスタートアップに対して、小規模な自国マーケットに留まることなく、ヨーロッパ市場全域、更には米中を除く世界市場において支配的なプレイヤーになることを望む。このようなスタートアップ・VC投資会社双方の野心が上手くWin-Winの関係となり、米中とも異なる、ヨーロッパ独自のスタートアップ成長シナリオが形成されているのだ。

翻って、日本のスタートアップは、自国市場に軸足を置き過ぎるか、或いは競争が熾烈な米国市場への進出を優先し過ぎる等の傾向が強いように見受けられる。前者に関しては、よりグローバル市場を見据えること、後者に関しては、どの海外市場で勝てそうか、その実現手段としてオーガニックとインオーガニックをどうバランスさせるか、海外市場への進出による成長シナリオを投資家に対してどう説明し、資金を調達するか等、より高次の戦略が今後重要になって来るものと考えている。

寄稿:伊澤範彦(ローランド・ベルガー)

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