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シナジーを作れる企業への投資こそがCVCのあるべき姿

シナジーを作れる企業への投資こそがCVCのあるべき姿

自社サービスとのシナジーを目的に、スタートアップに投資するCVC(CorporateVentureCapital)。日本では2013年ごろから大企業を筆頭にCVCを設立する例が増えてきた。

そんな中、2018年に日本のスタートアップ向けに1億ドルものファンドを設立して注目を集めているCVCが「Salesforce Ventures(セールスフォースベンチャーズ)」。ご存知の通り世界を代表する、セールス支援のSaaSを開発するセールスフォース・ドットコムのCVCだ。今後どのような投資ポートフォリオを組んでいくのか期待が高まる。

今回はSalesforce VenturesのJapan Headを務める浅田慎二氏に、今後の投資戦略やCVCの意義について話を伺った。

カスタマーサクセスこそSaaSの要

■浅田慎二(あさだ・しんじ) 伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社にて、ユーザベース、メルカリ、WHILL、TokyoOtakuMode、Boxなどへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォースベンチャーズ 日本代表に就任。ビズリーチ、freee、Sansan、PhoneAppli、TeamSpirit 、トレタ、ヤプリ、Goodpatch、マネーツリー、TeachmeBiz、AndPad等B2Bクラウドベンチャーへ投資。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。
■浅田慎二(あさだ・しんじ)
伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社にて、ユーザベース、メルカリ、WHILL、TokyoOtakuMode、Boxなどへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォースベンチャーズ 日本代表に就任。ビズリーチ、freee、Sansan、PhoneAppli、TeamSpirit 、トレタ、ヤプリ、Goodpatch、マネーツリー、TeachmeBiz、AndPad等B2Bクラウドベンチャーへ投資。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。
2000年に伊藤忠に入社した浅田氏は、グループ内のさまざまな事業会社を経験したのち、2012年に伊藤忠テクノロジーベンチャースにてさまざまなスタートアップのハンズオン支援に従事する。メルカリやユーザベース、WHILLなど多くの優秀な起業家たちと出会ったのはこの頃だ。もともと新しいサービスに触れるのが好きな浅田氏にとって、キャピタリストという仕事は性が合っていたようだ。

浅田「さまざまな新しいサービスに触れていると、いつの間にか使うだけでなく、『もっとこうしたら面白いのでは?』という意見が出てきて、それについてディスカッションするのが好きでした。キャピタリストをしているとさまざまなスタートアップやサービスに触れるため、広く情報が入ってきます。一方で起業家の方は自分の領域においてはとても詳しいのですが、それと同時に視野が狭くなる傾向があります。
 
そのため、起業家に自分なりにアドバイスすることが多かったのです。もちろんアドバイスを実行するかどうかは起業家の選択ですが、できるだけ企業の役に立てるようなアドバイスができるようにさまざまな勉強をしました。たとえば他社の急成長してるサービスを分析してその具体的なプロセスや内容を紹介したり、VC向けにどんなピッチをすればいいかなどをアドバイスしていました。アメリカではVC向けのピッチの雛形のようなものがありますが、日本ではまだ広がっていません。そういったアドバイスは喜んでもらえましたね」

商社での経験もある浅田氏はtoB向けの営業にも明るく、その手法についてもアドバイスすることも多いという。特にセールスフォース・ドットコムでは、SaaSを使った最先端のインサイドセールスを教えるワークショップも開いているが、セールスについてはこれほど語れるCVCもないだろう。

セールスフォース・ドットコムが教えるセールスを見ていて、これまでとセールスの形が大きく変わったと浅田氏は感じている。

セールスフォース・ドットコムが教えるセールスを見ていて、これまでとセールスの形が大きく変わったと浅田氏は感じている。

浅田「伊藤忠グループにいた時はハードウェアを販売する仕事もしていました。1件500万円もするもので、大きいときは1億円もの案件を回すこともありました。しかし、オンプレミス利用するようなハードウェアだと、お客さんに納品した瞬間にビジネスが終了してしまってカスタマーサクセスという概念がありません。
 
それに比べて『Salesforce』のようなクラウド型のシステムでは、お客さんに価値が提供しつづけられないと解約されてしまいます。だからこそ、売って終わりではなく、売ったあとにいかにお客さんに価値を提供しつづけられるかカスタマーサクセスが必要になってくるのです。セールスフォース・ドットコムがお客さん向けにワークショップなどを開催するのも、そのような背景があるからです」

まだまだ小さい日本のSaaS業界。日本でのSaaSサービスのモデルになるためにも、セールス手法の啓蒙などには特に力を入れているという浅田氏。自身でオンプレミスのサービスを販売していたからこそ、クラウドのサービスに強く魅力を感じるのだという。

シナジーがなければCVCの意味がない

伊藤忠でもキャピタリストをしていた浅田氏だが、Salesforce Venturesに来て変わったと感じる部分もあるという。

伊藤忠でもキャピタリストをしていた浅田氏だが、Salesforce Venturesに来て変わったと感じる部分もあるという。

浅田「Salesforce Venturesでは投資までのプロセスが速いように感じますね。前職は2年半ほどで7件投資しましたが、今は年間で7.5件ほど投資しています。4倍くらいのペースで投資していることになりますね。
 
社内にはさまざまな企業のデータが豊富にあるので、稟議を通すのも早く、僕自信の裁量も大きくもらえているのが要因だと思います」

Salesforce Venturesに来てからも既に多くの投資実績を挙げている浅田氏だが、投資をする際はスタートアップのどのようなポイントを見ているのだろうか。

浅田「僕らはシリーズAで投資することが多いのですが、そのため一番見ているのはプロダクトですね。細かく言えば6つのポイントを注視しているのですが、その中でも大きなポイントは『Salesforce VenturesとしてValueAddedできるか(付加価値をつけられる))』という点です。
 
セールスフォース・ドットコムではそのサービスの中で、Salesforce Venturesが投資しているサービスを紹介しています。Salesforceのサービスにログインして貰えれば、投資先のサービスも一緒に利用できるようにしているのです。まるでGoogleを開くと、アプリを追加して利用できるようなイメージですね。そのため、Salesforceとの連携が投資の条件となります」

自社とシナジーが生み出せるサービスに投資する、それこそがあるべきCVCの姿だと浅田氏は言う。キャピタルゲインなどを狙う金融機関系のVCと一線を画すポイントだろう。事業シナジーの定義も明快で「僕らだけじゃ届けられない価値を届けられること」と浅田氏は語る。

浅田「中には自社のドメイン以外のところに投資しているCVCもありますが、僕らは自社のドメイン以外の企業を判断する知見がないので投資しません。儲かるかわからないからリスクも大きいですし、僕らが価値提供できるかもわからないのですからね。自社のコアの顧客基盤があるので、自社の領域の周りに投資先を絞っています」

きっぱり投資先の線引きを断言する浅田氏は、同じ市場では1社にしか投資しないという。もちろん同じサービスでも、ターゲットが違えば投資することもあるが、同じターゲットを狙っている競合同士には投資しないのだ。

もうひとつユニークなのが、Salesforceとシステム連携をするからといって、Salesforce以外とのシステム連携を制限していないこと。通常であれば、投資先が他の企業とシステム連携しないように制限をかけるのが一般的だが、その理由についてはこう語る。

浅田「一番の理由は、業界で足を引っ張りあうよりも、投資先が成長することを第一の目標にしているからです。他の企業とシステム連携してでも投資先が成長してくれるのであれば、それに越したことはありませんからね。」

徹底して合理的に投資先の成長を考えるSalesforce Ventures。ほかにも外資のCVCならではのメリットも存在する。

浅田「もし海外にサービスを展開したいという投資先があれば、連携アプリのUS版があるのでそこに掲載します。海外のセールスフォース・ドットコムの顧客基盤にもアプローチすることが可能です。日本で100億円ぐらいの売上を作っていれば海外にVP(ヴァイスプレジデント)をおいて、物理的にアシストすることも可能です。グローバルで戦えるスタートアップをどんどん作っていきたいですね」

日本にはもっとセールステックが必要

これからグローバルで戦えるスタートアップを日本から多く輩出することが目標だと語る浅田氏。そのために必要なものを尋ねると「もっとセールテックが出てきて欲しい」と応える。

これからグローバルで戦えるスタートアップを日本から多く輩出することが目標だと語る浅田氏。そのために必要なものを尋ねると「もっとセールステックが出てきて欲しい」と応える。

営業活動を支援する「セールステック」。実は世界では数多くのセールステック企業が存在しており、カスタマーサポートや解析ツールなど7つカテゴリーに分かれてカオスマップが作られている。世界のセールステックサービスをカオスマップに当てはめると、マップが埋め尽くされるが、日本国内のサービスに絞ると実に寂しいマップになってしまう。

参考:https://data.wingarc.com/what-is-salestech-12262

日本のセールステックが世界に比べて遅れている理由について浅田氏はこう語る。

浅田「日本はこれまで長いあいだ、生産性の低いセールスを続けてきました。『頑張ることが美徳』といった言葉が表すように、成果よりも頑張ったことが尊重される時代が長く続いたのです。これは私自身が長く営業の現場にいて痛感した課題でもあります。
 
これまでであれば非効率な営業手法でもなんとかやってこれました。昔ながらのビル一棟を上から下までドアノックする手法はその典型でしたが、日本は山の手線の中だけでも市場があったのです。しかし、アメリカでは国土が広いため、セールステックを使って効率的に営業しなければいけなかったという違いがあります。
 
それは営業する側の課題だけでなく、営業される側にとっても迷惑な話です。日本のこれまでの営業は、商品を欲しくない人をいかに欲しくさせる営業です。しかし、セールステックでは効率的に自分たちのサービスを探してお届けするのが営業の仕事になります。
 
未だに日本の営業の現場では、エクセルを使って頑張っている会社もありますが、アメリカでは1社あたり16ものSaaSを使っているというデータもあります。日本でもこういったSaaSを使った効率的な働き方を広めていきたいですし、スタートアップから実現していきたいと思っています」

セールステックのリーディングカンパニーであるセールスフォース・ドットコムが言うのだから言葉が重い。営業の現場に立っている人であれば、現場に残されている課題を肌で感じる方も多いだろう。今後、日本でも営業の効率化がされるかどうかは、セールステックが発展するかどうかにかかっているだろう。

最後に浅田氏はこれからのSaaS業界とエンジニアのキャリアについて語ってくれた。

最後に浅田氏はこれからのSaaS業界とエンジニアのキャリアについて語ってくれた。

浅田「今日本のエンジニアの75%はSIerにいると言われています。アメリカはその逆で75%が事業会社です。このSIerにいるエンジニアの人たちは、SaaSを開発している企業に飛び込めばいいと思っています。
 
なぜなら今後SaaSの必要性が増していくからです。企業には自社サービスの根幹を担う『攻めのIT』と、管理や効率化を図る『守りのIT』があります。攻めのITに関しては優位性を高めるために開発を内製していかなければなりません。サービスに関する開発を内製できるかどうかというのは、僕らが投資先を判断するポイントのひとつでもあります。
 
しかし、守りのITに関してはどんどんSaaSを利用していけばいいのです。価値の高いSaaSであれば大企業が買収する可能性も大いにあるため、チャンスが大きいのです。
 
ちなみに海外ではレガシーな企業がソフトウェアの企業を買収するという事例が増えています。たとえば世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、EC企業を買収して、60%もの売上成長を実現しています。この施策により、ウォルマートはAmazonに対して戦える状況を作り出しています。
 
このように今後は大企業がSaaSやソフトウェアの企業を買収するといった動きは日本でも増えていくと思います。ですから、これからのキャリアを考えているエンジニアはどんどんSaaS分野に飛び込んでほしいですね。個人的にはセールステックを開発するスタートアップが増えてもらえれば嬉しいです」

SaaSの会社で働くもうひとつのメリットとして「SaaSでは常にお客さんの満足度を考えている」と語る。確かにその姿勢は起業するにしても、キャリアアップを狙うにしても必要なことは間違いない。そして受託のSEをしているだけでは、なかなか身につかない姿勢でもある。

2018年には1億ドルものファンドを組んで、日本での投資を加速させていく姿勢をみせたSalesforce Ventures。今後どんなスタートアップに投資していくのか楽しみだ。

執筆:鈴木光平
取材・編集:BrightLogg,inc.
撮影:三浦一喜

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