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LabBase運営POL、投資家が明かす10億円調達の裏側

2019-12-26
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
10億円の大型シリーズAの裏側。投資家が惚れたPOLの市場・意義・チームの3

企業の生み出すイノベーションに、研究開発は欠かせない存在だ。新技術と呼ばれるものの多くは、長年の研究開発によって生み出された産物だからだ。ところが、日本の研究開発の現状は恵まれているとは言い難い。研究者は不足し、研究資金も不足。その上、研究者のキャリアも描きにくい。そんな現状に一石を投じるため立ち上がったのが、LabTech(Laboratory×Technology)領域で事業を展開する株式会社POL(以下、POL)だ。理系学生の採用サービス「LabBase」や、研究者のデータベース「LabBase X」などを展開している。2019年秋、弱冠24歳の代表・加茂氏の率いるPOLは、シリーズAで10億円の資金調達に成功。現在注目を集めるスタートアップのひとつだ。そこで今回は、POL代表の加茂氏、POLに投資している投資家であるSpiral Ventures Japan千葉氏、BEENEXT Pte.Ltd前田氏(オンライン参加)を招いた鼎談を実施。資金調達を振り返りながら、POLのビジネスについて語ってもらった。

POLへの投資の決め手は「市場」「意義」「チーム」にあった

POLへの投資の決め手は「市場」「意義」「チーム」にあった

加茂倫明(かも・みちあき)─株式会社POL代表取締役CEO。 灘中学校、灘高等学校卒業。東京大学工学部3年休学中。 大学勤務者の両親を持つ。 高校時代から起業を志し、国内外3社での長期インターンを経て、2016年9月にPOLを創業。 LabTech(研究×Technology)領域で研究者や理系学生の課題を解決して科学と社会の発展を加速すべく、研究者版LinkedInの『LabBase』、産学連携を加速する研究者データベース『LabBase X』、研究の未来をデザインするメディア『Lab-On』などを運営している。

千葉貴史(ちば・たかし)─Spiral Ventures Japan パートナー。東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券の投資銀行部門及びカーライル・グループのバイアウトチームにおいて通算6年間に渡りM&A・資金調達のアドバイザリー業務やプライベートエクイティ投資業務に従事。その後、2013年より3年間、創業メンバー&取締役COO/CFOとして不動産テックスタートアップのイタンジの経営全般に従事。2016年、Spiral Ventures Japanの1号ファンド立ち上げに参画し、現在に至る。

加茂 「今日はよろしくお願いします。まずは、POLへの出資を決めてくださった理由から順番にお伺いできたらと思います。千葉さんはいかがでしょうか?」

千葉 「よろしくお願いします。僕と加茂さんとの出会いは、2年前のICCのピッチでした。夜の懇親会で話すタイミングがあったときに、加茂さんとも長々とお話させていただいて、そのときから加茂さんの経営者としての魅力や事業のポテンシャルがとても良いなと思っていたんですね。その後、ずっと投資したいと思っていて『シリーズAの調達はいつ?』とたびたび加茂さんに尋ねていたんです(笑)。そのような中で、ようやくタイミングが合致し、今回の投資が実現したと。POLにここまで惹かれた理由は、大きく2点あります。ひとつは、市場の大きさ。もうひとつは、社会的意義です。日本は今、科学技術立国でありながら、世界的に見ると研究開発にリソースを割けてはいない状況です。日本が年間の研究開発費として支出している金額は19兆円。中国が50兆円、アメリカが56兆円であることを鑑みると、2.5倍ほどの差を付けられているんですね。ノーベル賞受賞者数で見ても、日本人は2000年以降だけでもで20人弱選ばれていて世界2位の人数であり、そもそも日本は研究力の高い国です。ただ、その一方で、ポスドク問題を始めとする、博士過程以降のキャリアに関する課題があったり、研究よりも儲かるからとコンサルなどビジネス領域へキャリアを進めたりする人材も多い。高い研究力を活かしきれていないのです。アメリカであれば大学教授がスタートアップを2社経営していたりするケースもざらにあったり、中国も研究者を高額の報酬で引き抜きまくったりしているなど、研究者の待遇がまるで異なるんですね。このままでは日本は良くない。そういった危機感がずっとありました。そんな中でPOLは、研究者全般の課題を解決していく上で、まずはマネタイズのしやすい人材領域から参入しつつ、研究室にリーチするための学生インターン組織による独自のオフラインチャネル構築やコミュニティ作りといった泥臭い施策をやり切っていたので、これは素晴らしいなと思いました。解決すべきペインがしっかりしている上、隣接市場への新規事業の展開もできている。夢は大きいけれど、地に足を付けて事業を進めている姿が良いなと思い、投資させていただきました。あとは、POLの組織・チームに惹かれたのも、投資を実行した理由です。ほとんどのメンバーが経営者的なマインドセットを持っています。また、学生インターン組織によるオフラインチャネルなどは、スタートアップならではの大企業が模倣できないアプローチによる戦略ですし、上位理系学生の高いシェアを獲得できています。POLは、研究意識が高い一方で、就活意識の低い学生にもしっかりアプローチし、コミュニティ化するまでを実現できている。多様性があり、かつやり切る力のあるプロフェッショナル集団として、とても魅力的なチームだなと思うんです」

僕と加茂さんとの出会いは、2年前のICCのピッチでした。

加茂 「ありがとうございます。千葉さんには、シリーズAから投資いただいているのですが、デューデリジェンスがとても丁寧だったのが印象的でした。一番記憶に残っているのは、僕に対する質問リストが、スプレッドシートで送られてきたこと。開いてみたら、質問がだだだっと書いてあって『多いな〜』と思い、動画で返しちゃった(笑)」

千葉 「質問の回答が動画で返ってきたのなんて初めてで驚きました……。起業家って、話し上手の人が多いので、口頭で質問するとそれらしい答えを返してくれて何となく納得してしまうケースは多い。だから、あえてテキストベースでも質問を送っているんですよね。回答のレスのスピードや論理構成に経営者の思考の質や量を垣間見ることができます。ところが、加茂さんはそんな僕の想像を斜め上に超えてくる形で、回答を動画形式で送り返してきたので、斬新だなと驚きました(笑)。しかも、30分の自撮り動画が3本くらいで、熱量が高すぎるなと……」

加茂 「想いが伝わるから良いかなと思ったんです(笑)」

BtoB SaaS専門・前田ヒロを落としたPOLの魅力

BtoB SaaS専門・前田ヒロを落としたPOLの魅力

前田ヒロ(まえだ・ひろ)─日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージカカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。過去の投資実績は、SmartHRdelyオクトHRBrainPOLKarakuriFablicIncrementsFondWHILLGifteeViibarWondershakeVoyagin、Instacart、Slack、Everlane、Thredup、Lobなど。

加茂ヒロさん、お待たせしました。ヒロさんにはシードのときから投資いただいていますが、POLに出資してくださった理由を改めて伺っても良いですか?」

前田 「僕も、加茂さんと出会ったのは2017年くらいのことでした。最初は共通の知り合いを介して紹介してもらったのですが、最初の印象は『またマッチング事業か……』というもので、実は投資にポジティブではなくて。ところが、具体的に話を聞いてみたら、研究室の中にいる理系人材と、非常に特化したターゲットにフォーカスを絞って事業を展開しており、価値提供の方向性がとても良いなと。どんどん事業内容に惹かれている自分がいました。また、スタートアップに必要なパッションや実行力なども揃っていたので、日頃BtoB SaaSのみに投資を絞っている僕としては、やや異例ですが投資させていただきました」

加茂 「ありがとうございます。ヒロさんには、シード、プレシリーズA、シリーズAと、ずっと投資いただいていますよね」

前田 「そうですね。加茂さんと仕事していると、頭もきれるタイプなので楽しいんです。あと、とにかく実行力があるので、アイデアがきちんと形になっていて嬉しいですね。起業家の方にアドバイスしても、全然実行しないことがよくあるのですがそれって寂しいので……(笑)」

加茂POLと投資家は、どちらが上と考えることがなく相思相愛の関係でいられるのでありがたいですね。投資いただけることはもちろんありがたいと考えていますが、反対に、POLを勝たせるための強みを持った投資家の方であるかどうかをすごく考えてお声がけしていますし。投資家でなかったとしたら、採用して一緒に事業をやりたいかどうか、みたいな」

千葉 「投資家集会も、しっかりアジェンダを整理して進めてくださいますし、特定の課題にフォーカスしてディスカッションしたり意見を求めることが非常にうまい。加茂さんの人の巻き込み方のうまさは、POLの強みだと思います」

自責の思考で事業に取り組める人材を求めている

自責の思考で事業に取り組める人材を求めている

加茂 「現状のPOLにこれから必要なのってどんな人材だと思いますか?」

前田 「正直、今のPOLの状態は、馬力と努力、メンバーのIQに依存するところがあるので、“〇〇な人材”と一言で答えるのが難しいですよね。これから先で、どんどん採用を進めたときに仕組み化されて、必要な人材も増えていくのだろなと。そう考えると、今のPOLに合うのは、そんな雑多な環境でも問題なくコツコツと課題を把握して解決に向けて動ける人なのかなと思います。スタートアップなので、もちろん課題は山積みですし、それらを解決に導いていかないといけない。人を巻き込みながら課題と真摯に向き合えることが重要なのかなと」

加茂 「今後のPOLをスケールさせられる人材、ということですね。千葉さんはいかがでしょう?」

千葉 「あらゆる課題を自分ごととして捉えられる人じゃないですかね。僕自身、POLのメンバーと話す機会がよくあるのですが、みんな成長意欲とコミットメントが高くて行動力もある。そして、何より自責の思考があるんですよ。組織のせい、仲間のせいにすることなく、真面目に課題と向き合うし、自分の成長が会社の成長につながると信じているから。本当にピュアな心を持って、没入しながら事業に取り組める人はPOLには合っているのかなと思います。あとは、現状でいうと、マネジメントや組織設計を行えるCXOレイヤーのメンバーがまだまだ少ないのは課題感としてありますね。経営者の自覚を持ちながら、POLが展開する複数の事業において、各事業の責任者を担えるスキル・経験値を持った方がジョインできると良いかもしれないです」

加茂 「たしかに。きめ細かなマネジメントは僕自身がまだまだ苦手としている領域なので、補完しながら一緒に事業を作ってくれる仲間は欲しいですね。では最後に、お二人が考える、POLの現在の課題を教えてください」

千葉 「課題、というほどではないと思いますが、今後やっていきたい事業が多く、解決したい課題がすごく壮大なので、まだまだリソースが足りないなと感じますかね。新規事業を立ち上げるためのリソースがなかなか足りなかったり、スピードが上がらなかったりがあるので、人材の補強が必要になるかなと思います」

加茂 「それはそうですね。メンバーというよりも、起業経験のある人材だったり、事業責任者を任せられる方が増えるとより良い気がします。まあ、とはいえ、セールス・CS・人事・広報・マーケなど、足りないポジションは多いんですけれどね。ヒロさんはいかがですか?」

前田 「まったく同意見です(笑)」

加茂 「なるほど(笑)。それでは、お二人ともありがとうございました!」

執筆:鈴木詩乃編集:BrightLogg,inc.撮影:戸谷信博

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