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Paidy杉江陸氏が描く、グローバル市場で戦うためのメソッド

年々勢いを増すフィンテック。国内の市場規模(FinTech 系ベンチャー企業売上高ベース)は2018年度で2,145億円になり、前年度比42.7%増の急成長を見せている。フィンテックは送金や融資、仮想通貨など、様々な金融ビジネスを包括した言葉だが、そのなかで成長著しいのはスマートペイメントの分野だろう。

QRコード決済市場における〇〇Payのシェア争いは記憶に新しく、既に優勝劣敗が見え始め、合従連衡の動きも活発化してきている。また、オンライン決済市場においても、特にコロナ・エフェクトによる巣ごもり消費も手伝ってのeコマースの普及によって、オンライン決済の機会は爆発的に増えた。

本記事で取り上げるスタートアップ、株式会社Paidy(ペイディー)(以下、Paidy)は、オンライン決済分野を担う企業のひとつ。同社はオンライン決済の簡略化を進め、電話番号とメールアドレスだけで支払い可能なサービスを提供している。

同社の代表取締役を務める杉江陸氏は、新生フィナンシャル代表取締役や新生銀行常務を歴任した人物だ。Paidyでは創業から累計300億円以上の資金調達を実現している。

杉江氏は「Paidy」を通して何を成そうとしているのか。アジア圏の後払い決済サービスでシェアNo.1を狙う同社に、グローバルでビジネスを行う秘訣を伺った。

杉江陸(すぎえ・りく)
富士銀行(現みずほFG)、アクセンチュアを経て、新生フィナンシャル代表取締役社長、新生銀行常務などを歴任。東京大学卒、コロンビア大学MBA並びに金融工学修士。

より簡潔に安全に、カードがいらない決済システム

「Paidy」とはどのようなサービスなのか、まずはシステムの解説からはじめよう。

従来のオンライン決済は支払いのたびにクレジットカードの番号と暗証番号が必要だった。現在は簡略化を進めた結果、指紋情報や顔認証でも支払いが可能になっているが、依然クレジットカードが必要なことに変わりはない。

「Paidy」の場合クレジットカードは不要で、電話番号とメールアドレスを入力すれば支払いが完了する。代金は同社が立て替えてくれるので、ショッピングを楽しんだユーザーは翌月にまとめて支払いをすれば良い(コンビニ支払い、口座振替、銀行振込から選択可能)。

このような、極端に簡潔な決済サービスはどうやって生まれたのだろうか。その背景について杉江氏は、「手続きの煩雑さ」と「安全性への不安」を解消する意図があると話す。

杉江eコマースやフリマアプリ、シェアリングサービス、サブスクリプションサービスなどが普及し、オンライン決済を行う機会は増加の一途を辿っています。

しかしながら、クレジット決済を避ける人は一定数存在します。現状多くのシステムでは、オンライン決済にクレジットカードが必要です。しかし、カードの使いすぎへの懸念は特に日本人には大きい。また、まだ持っていない人にとっては発行に時間がかかり、審査がおりないこともある。

また、逐一カード番号を入力することについての安全性への不安もオンライン決済の障壁になっています。一度不正にクレジットカードを利用されてしまえば数十万円、多ければ数百万円の被害が出てしまう。カード会社はそれなりのセキュリティ体制を敷いていますが、それでも被害は後を絶ちません。ユーザーがカード番号の入力を躊躇してしまうのも頷けます」

煩雑さと不安から、電子決済時にコンビニ払いや銀行振込を選択する利用者は多い。そこでPaidyは従来型のクレジットカードを利用した決済をゼロから見直し、クレジットカードなしで誰もが簡単に支払いできる仕組みを作り出した。

もちろん安全面にもぬかりはない。決済毎に認証コードを送付し、本人確認を行って詐欺行為やなりすましを防止。決済情報を暗号化技術で守り、36524時間体制で全ての取引を監視している。

この簡便性と安全性を武器に、「Paidy」2020年に既に300万口座を突破した。

世界で勝負するために、最高峰のベストを追う

中期的に国内1,000万口座突破を目指す同社。その戦略は、はっきりとグローバル市場を意識している。2019年には台湾のEC市場に進出し、今後東南アジアへの進出も視野に入れている。後払い決済で類似のサービスを行うAfterpay(オーストラリアで創業、アメリカでシェアを伸ばす)や、Klarna(ヨーロッパを中心に14ヵ国以上で利用される)などのグローバル展開と同様に、東南アジア圏の市場を取りに行く形だ。

杉江Paidyのメンバーは30ヵ国籍以上を有する外国人が半数を占めています。この方針をとっているのは、より優秀な人材を確保し、より大きな市場のなかで勝負していきたいからです。

一般的な国内スタートアップの経営陣は9割が日本人で固められていますが、国外の人材プールに目を向ければ、より優秀な人材は必ずいる。スタッフレベルも同様。資金調達の面でも、国内投資家からのみ調達を受けるスタートアップは多いですが、私にはそれが不思議です」

現にPaidyは、PayPal VenturesVISA, Goldman Sachs, Soros Fund, Eight Roads Venturesなど海外資本のVC/CVCから資金の多くを調達してきた。創業者ラッセル・カマー氏(現会長)が海外出身であることも大きいが、それ以上に「自分たちとは違う視点と、スケール感のある期待値を持つアドバイザーを求めるのは当然のこと」という考えが元にある。

杉江「グローバルを意識することが当たり前の環境なので、メンバーは常に世界で一番良いものに目を向けています。

例えばマネジメント手法のコーチングが必要なら、悩んでいるテーマにおいて世界一有名なコーチを探し、声をかけます。現在当社は目標管理の仕組みとしてOKRを採用していますが、アンディ・グローブと一緒にOKRを導入したコンサルタントにCold Callで連絡して、シリコンバレーから招いて徹底的に学びました。日本で行われているものより費用はかさみますが、その分効果的な学びが得られるのです。

これは一例に過ぎません。経営判断を下す際に、世界で最も知識を備えている場所やケースを考えれば最適解が見えてきます。言語のことは一旦頭の外に置いておいて、ありものの手札ではなく、最高峰のベストを選ばなければグローバルでは戦えません」

潤沢なリソースがなければ杉江氏の手法は実現できないだろう。しかしながらその発想は参考にしたい。既存の枠組みばかり見ていてはイノベーションは生まれない。思考を飛躍させるからこそ生まれるアイデアもあるはずだ。

視野が狭くなってしまった時には「ありものではなく、最高峰のベスト」を思い出したい。

金融業にはこだわらない、目指すものは人々の行動変容

現在同社の対応サイトは70万以上に増え、eコマース最大手のAmazonも同社のサービスを導入している。

ここで、同社が今後何を目指していくかを聞いてみた。破竹の勢いでシェアを伸ばしている同社だが、意外にも決済事業にはこだわっていないという。杉江氏は「私たちは本質的にはリードジェネレーター。つまり、面倒なことや不安に感じることを根本的に解消するサービスを通して、人々が行動を起こすきっかけをつくりたい」と話す。

杉江「長期スパンで考えれば、個人の影響力は今後ますます強くなっていくでしょう。昔は皆が知っている有名ブランドを持つことがステータスでしたが、今では多種多様な自分らしさを大切にする価値観が生まれています。そして、デバイスなどのテクノロジーやデータが一人ひとりの趣味や嗜好をはっきりと浮き彫りにしています。

また、個人が売り手にも買い手にもなり、様々なWebサービスが登場したことで、多様な需要を満たすことも可能になりました。個人は小規模でオリジナルグッズを製作・販売することができ、スキルを活かせばミニマルなビジネスを行うこともできるようになった。ここに副業の流行が追い風となり、誰もが消費者で、同時に売り手あるいは起業家である時代が訪れています。

しかしながら、誰もが責任ある売り手として信頼できる商品やサービスを提供でき、同時に誰もが責任ある買い手として行動しているかと問えば、不十分だと言わざるを得ません。ここにPaidyがソリューションを提供し、個人が楽しくそして安心して行動しやすい状況を作りたいと考えています」

もちろん中期的な計画ではフィンテックに注力し、ユーザー数を増やす方針だ。その動きと並行して、ショッピングにまつわる様々な面倒くさいことを解消できる金融機能、個人の夢に自信と余裕を提供できる金融機能を展開していく予定だという。今は話すことができないが、他業界に進出していく可能性もあるそうだ。

グローバル展開は海外投資家を口説くことから始まる

競合サービスが世界で同時多発的に発生する昨今。海外を無視してビジネスを行うことは難しくなってきた。記事の締めくくりとして、スタートアップがグローバル市場を目指す場合、はじめにとるべき行動を伺った。

杉江「国内のスタートアップ経営者に同様の質問を投げかけられた場合、トップクラスの海外投資家から資金調達することをおすすめしています。なぜなら、彼らと話をしていると、インプットの質が全く異なるからです。

例えば、とあるVCからは多くのビジネスヒントを得ています。

Paidyのグロスマージンはグローバルの競合ベンチマークと比べてもかなり良い。だが自分たちのビジネスドメインの定義をこう変えてごらん、するとA社がやったように、もっと付加価値が高まる。それから、決済ソリューションとしてアクセプタンスを広げるやり方は伝統的な加盟店営業だけじゃないんだよ。こんな技術を使ってごらん。加盟店に手品が見せられるよ。』といった風に。

これはほんの一例です。そもそも英語で世界に流通する情報の量は日本語のそれの10倍を超えると言われます。そんな中で日本の中で日本語だけで経営するなんて、目をつぶって遊園地の中でゴーカートを運転するようなものです。そうではなく、世界の第一線で活躍している識者にコンタクトを取り、必死で情報を取りに行く。そうするうちに、日本だけでしか通用しない歪んだ常識が取り払われると同時に、視座が高まり、大きなマーケットが見えてきます」

加えて、コネクションが得られることも大きなメリットだという。革新的なサービス開発をする際には、圧倒的な力をもつ世界的プレイヤーとの協業関係が不可欠になる。その時に豊富な上位人脈を持ち、事情に詳しい協力者がいれば、スムーズにことが運ぶだろう。

コロナショックが起きたことで、VC/CVCの財布の紐は固くなった。一方で、不況時はビジネスチャンスでもある。先のリーマン・ショックの中で生まれたGAFAの合計時価総額は、いまや東証一部全社の時価総額を上回っている。

ルールが大きく入れ替わる環境下で次の一手を打つために、海外投資家を頼ってみても良いかもしれない。

執筆:鈴木雅矩
取材・編集:BrightLogg,inc.
撮影:戸谷信博

 

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