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京都大学公認VC「みやこキャピタル」が語る、産学連携の展望

京都大学公認VC「みやこキャピタル」が語る、産学連携の展望

多くのスタートアップやVCが東京に拠点を構える中、2013年に設立されたみやこキャピタル株式会社(以下、みやこキャピタル)は京都を中心に活動している。京都大学のベンチャーファンド事業者公募に選定された同VCは、日本有数の学術機関が有する人材・知財を活用して、ライフサイエンス、化学・素材関連のものづくり、AI関連の大学発スタートアップへ投資している。2019年には投資先の株式会社ステムリム(大阪大学発創薬ベンチャー)とDrivemode,Inc.(シリコンバレーのコネクティッド・カー関連のベンチャー)の2社がイグジットするなど、投資実績にも注目が集まっているVCだ。

バイオやものづくりを始めとしたリアルテックは今まで投資家には敬遠されてきた領域だ。ファウンダーで代表の岡橋寛明氏はどのように投資先を定め、支援しているのか。この記事ではみやこキャピタル設立までの経緯と、投資企業の選定ポイントについて伺う。

■岡橋寛明(おかはし・ひろあき) 経済産業省にて、VCファンドなど未公開企業投資ファンドの根拠法となった投資事業有限責任組合法及び関連金融法制・税制・会社法制の改定を企画するなどベンチャー企業振興、産学連携施策などに従事。複数のベンチャー企業経営を経て、大手金融機関系VCにおいて国内外におけるベンチャー企業の投資開発および経営支援に従事した後、2013年にみやこキャピタル株式会社を設立。
岡橋寛明(おかはし・ひろあき)
経済産業省にて、VCファンドなど未公開企業投資ファンドの根拠法となった投資事業有限責任組合法及び関連金融法制・税制・会社法制の改定を企画するなどベンチャー企業振興、産学連携施策などに従事。複数のベンチャー企業経営を経て、大手金融機関系VCにおいて国内外におけるベンチャー企業の投資開発および経営支援に従事した後、2013年にみやこキャピタル株式会社を設立。

「起業家や先生方を支援し、両者をつなげて新たな事業や産業を創り出したい」。経産省を脱藩した岡橋氏の覚悟

「起業家や先生方を支援し、両者をつなげて新たな事業や産業を創り出したい」。経産省を脱藩した岡橋氏の覚悟

2001年に新卒で経済産業省発足後の「第一期生」として入省した岡橋氏。当時は第一次小泉内閣において「官から民へ」「構造改革」をスローガンに、民間主導のイノベーションを起こすための政策が次々と立案されていた。そんな時代に岡橋氏が担当したのがベンチャー支援、イノベーション促進だ。民間事業者によるイノベーションを誘発するため、国の制度を設計する仕事である。

岡橋「今もそうだと思いますが、駆け出し当時の経産省のベンチャー・イノベーション振興部署は多士済々で大変勉強になりました。当時を思い出すと、三重県知事の鈴木さん、UTEC代表の郷治さんほか、多数の先輩方が寝食を忘れ、小説『官僚たちの夏』のノリで仕事に没頭していました(笑)。

起業を促進しスタートアップ・VCへのリスクマネー供給を手厚く支援するために、最低資本金規制の撤廃や種類株、会社法制、ファンドやエンジェル投資をはじめとした諸々の規制緩和などが、スタートアップ支援のために各省庁横断でまとめられ、その後も経済環境に応じて繰り返し拡充されています。

官の動きに加え、民間側のVCファイナンスのベストプラクティスの積み重なり、多くの先達の尽力のおかげで今日のスタートアップ投資の活況があるのだと思います」

経済産業省で10年近く働いていた岡橋氏だが、日々多くのVCや起業家、研究者と話すうちに、自らの進むべき道について葛藤するようになる。

岡橋「政策にも当然『ユーザー』がいます。VC、スタートアップの活動を促進する政策づくりに際しても、ユーザーニーズを十分踏まえる必要がありました。そのために、ファンドのGP会社のパートナー、エンジェルや起業家の困っていることや要望・陳情を1〜2年かけて徹底的にヒアリングしました。その時に、キャピタリストも起業家も果敢にリスクをとり、究極の結果責任で日々汗をかいているのを目の当たりにしています。

官/民、規模の大/小、業種や職業に貴賤は無く、皆それぞれの役割分担で社会全体が成り立っていることを頭では理解していた。しかし、イノベーション政策を考える中で、命懸けで事業を創る起業家や、情熱をもって彼らを支えるVCの方々と接するうちに、彼らに少しずつ憧れるようになりました。私も草の根プレイヤーとして、将来の産業を創出する起業家と早い段階から伴走し、投資案件を通じて人と人、技術と事業、日本と海外を結びつけるような仕事をしたい。そう考え、一念発起するに至りました」

経済産業省を退職した岡橋氏は、キャピタリストを目指した。岡橋氏はいずれ独立することを念頭において、大手金融機関系のVCで経験を積んでいる。その後、様々な縁で京都大学の認定VCの公募に応募することを決意する。

岡橋「意外に知られていないことですが、京都は1970年代に日本で初めてVCを専業とする会社(KED社)が創業した、いわばVC発祥の地です。オムロン、京セラ、堀場製作所、日本電産、任天堂、村田製作所、NISSHAなど過去のベンチャー企業が京都を拠点に飛躍的な成長を遂げ、財閥系とは一線を画しながらグローバル企業となった、ある意味ユニークな土地柄です。

米国の東海岸(首都圏)と西海岸(シリコンバレー)の対比のように、関西エリアは、辺境から東京に対し、大手企業をディスラプトしようという企業文化が根付いた、ベンチャーが発展する土壌であるはず。

また、京都は大学、学生数も非常に多く、差別化された有望な技術基盤が集まる土地。その中核的な存在である京都大学の、自然科学分野における基礎研究の世界的なプレゼンスや自由闊達な内部自治ルールを活かし、政府の様々な助成制度を呼び水として活用できれば、ビジネス機会があると確信しています。

VC発祥から約半世紀が経過し時代の変わり目にある今日において、大学の研究成果をベンチャーや大手の企業の新規事業へうまく実装することにこそ大義があるのではないでしょうか。地道な産学連携による『ベンチャー企業の成功案件の積み重ね』を京都から世界に広めていきたい、という思いを込め、京都大学から認定を頂き2013年にみやこキャピタルを設立しました。

おかげさまで、VC業界で優れた実績を持つ先輩キャピタリストの方々や産業界やアカデミアの有識者らの参画を得ながら着実にチーム、管理体制も強化し、現在は約30社の国内外のスタートアップに投資・支援しています」

勝ち組リアルテックの登場が、長い黎明期に終わりを告げる

勝ち組リアルテックの登場が、長い黎明期に終わりを告げる

次は「リアルテック」を中心に投資を行う岡橋氏に、技術系スタートアップが躍進するために重要なことを聞いていく。これまでリアルテックには資金がなかなか集まらず、ITサービス分野のスタートアップを中心にVCの投資資金が集中していた。実際、近年の主要なイグジットケースもSaaS、モバイルアプリ、Eコマースなどが中心だ。岡橋氏はこの理由について、成長スピードと人的リソースが関係すると言う。

岡橋「スタートアップでの代表的な成功事例である多くのITサービス系企業は、収益源となるサービスがあり、資金が潤沢に集まれば比較的短期で成長することができます。特に勝ち組の会社やセクターは、実際の実力にファンシーで華やかなイメージも加わり、多くの有為な人材を惹きつけ急成長しました。IPOだけに留まらず、大手各社の有望ベンチャーへのM&A意欲もあいまってイグジット機会に恵まれており、VCにとっては投資資金を回収しやすい環境にあります。ファンドGPはROI、IRR向上を優先するため当然のことで納得もできます。

一方のリアルテックは、いわば重厚長大な世界です。リアルな財である「製品」を開発、製造しサプライチェーンの中で立ち位置を築いていかなければなりません。開発を進めプロトタイプを作りPoCを繰り返し成長させるには多額の資金と長期の試行錯誤が必要で、行政の許認可が求められる場合は尚更です。

特に、大学関連の技術シーズが多いバイオやライフサイエンス、製薬などの世界は治験、安全性・有効性の確認、薬事申請のプロセスがありその分手間暇、コストがかかります。結果的にROIが低くなるため、ITサービス系と比較すると限られたリスクマネーが行き届きにくいのも理解できます」

リアルテック分野がこれから飛躍するために、岡橋氏はもっと人材のプールが必要だと答えた。日本には優れた技術シーズが数多くあるものの、それだけではサービスとして成立しない。解決のカギは既存製品との組み合わせ、経営チームを構成する人材だ。現在のリアルテックの課題は、その組み合わせを作る「ビジネスマインドと経験あるプロデューサー的経営者予備軍」の数が不足していることだという。

岡橋「『リアルテック』という言葉が会話の中ですぐ通じるようになったのは、この分野を牽引したユーグレナの出雲さんや永田さん、そしてリバネスの丸さんらの大きな功績です。

昨今では、自然科学分野のシーズが社会実装でき、それが立派なキャリアパスであると広く周知されている。これもまた彼らの功績だと思います。

リアルテック分野へ参入・就職する場合、『専門的で、高度な知識をきちんと習得していなければいけない』というイメージがありますよね。これが大きなハードルになっています。また、リアルテック従事者の伝え方にも難があるかもしれません。たとえば『一般的に理解されやすい言葉や動画を使う』『デザイン志向を取り入れる』『ビジネスや投資採算の可能性を社会的意義と共に伝える』などが必要です。でなければ、いつまでも魅力が伝わらず、他業界から経営人材が集まりません。しかし、ここ数年のリアルテック業界を見てみると、これからの成長が期待できると思います。

リアルテックの代表格とも言えるユーグレナは、いまや800億円近い企業価値がついていますし、我々の投資先であるステムリムも2019年に500億円弱の時価総額で上場しました。

これまでリアルテックの成功事例がなかったために、長い黎明期が続いてきましたが、ここ数年で成功事例が出てきおり、魅力を感じる方が増えているはず。今後はIPOに加えてオープンイノベーションの広がりにともなって大手事業会社によるM&Aが増える中で、リアルテック分野で高いマルチプル(投資倍率)の投資案件も多く出てくると期待してます。スタートアップを裏方としてプロデュースし、起業家とそのチームを支えるのがVCの仕事です。今後もリアルテック分野の研究活動やスタートアップ、そしてそこで働く方々の活躍にフォーカスを当て続けていきたいと思います」

経営者に必要なのは「運気」。優秀なキャピタリストほど人を見抜く力に長ける

経営者に必要なのは「運気」。優秀なキャピタリストほど人を見抜く力に長ける

2019年末には100億円規模の第2号ファンドを設立したみやこキャピタル。投資の方針について伺うと、シード/アーリーステージを中心に投資すると語る。

岡橋「近年の日本のスタートアップエコシステムの背景から説明すると、ミドル・レイター以降への投資資金は潤沢にあります。特に最近では、政策面の後押しや自前主義脱却を背景に、大手事業会社のCVCが続々とベンチャー投資に参入しました。

グローバル市場で戦える組織を目指すにはユニコーン級のバリュエーションで多額の資金調達を行うべきです。しかし、今後想定される局面では、ミドル・レイターステージの案件の多くが割高なバリュエーションであり、『投資採算の視点で要注意』など評価が分かれています。また、VC間で原石を探索する競争が熾烈になっているのは確かです。

さほどファンド規模が大きくない当社としては、投資リターンを最大化するために、まだ他のVCが注目していない優良スタートアップを主体的にプロデュースしていかなければなりません。技術リスクを取りながら率先してシード・アーリーステージへの投資を行い、次のステージのVCやCVC、事業会社にバトンを渡していくことが必要です」

他のVCとの差別化については、京都大学公認のVCであることが、何よりの強みであると答えた。みやこキャピタルのオフィスは京都大学内にあり、それは京都大学が有する知的財産・人的資源にアクセスできることを意味する。日本を代表する京都大学の先生たちも、みやこキャピタルの活動に協力的だと言う。

岡橋みやこキャピタルが投資するスタートアップの多くは、最先端の技術シーズに関するもので、投資対象を絞り込むために正確な目利きが求められます。その際、京都大学に在籍する各分野の先生方と連携し、技術調査の協力やアドバイスを頂いています。先生方は投資候補先に関する技術について一流の目で様々な助言をくださいますし、仮に専門外であっても、国内外の同僚アカデミアを紹介してくださる。我々は技術に対する強力な後見人を有しているのです。

協力を仰ぐ一方で、私たちも各分野の先生から頻繁に『研究を用いて社会還元をしたい』と相談を受けます。ビジネス(産)とアカデミア(学)の垣根を取っ払い、お互いのセクターが自由に行き来できるよう、敷居を下げながら両者の橋渡しを行うことも、日々の活動の中で意識していることです」

ここで最終的な投資の判断ポイントを尋ねると、意外な答えが返ってきた。市場やチームといった教科書的なことはもちろんのこと、最も注視しているのが「運気」だと言うのだ。スタートアップを成長させる過程では、苦しいことや辛いことが間髪なく起こる。そのような中でストレス耐性や運気のない経営者は潰れていくと言う。そして運気は、その人の人格や雰囲気に宿るようだ。

岡橋「個人的に、最後に勝負を分けるのは『運気』を持っていることだと考えています。『運気』とは目には見えづらい、『事業へのコミット』や『情熱』、成功するためにあの手この手で周りを味方につける『巻き込み力』に『不退転の覚悟』、そして『胆力』だと思うのです。

理屈や筋道も重要ですが、特にシードやアーリー段階の投資では情報は極めて限られていますし、事業計画はあって無いようなケースもあります。それを成功に導くためには、長年にわたり信頼関係を構築できる、腹を割った深い付き合いが必要です。

優秀なキャピタリストと言われる方々は本質をとらえ、的確に起業家の性格や気質、行動特性を見抜くことに長けているような気がします。そして、キャピタリスト自身が運気を持っているので、運気のある経営者が寄ってくるのです。

『類は友を呼ぶ』といいますが、良いご縁は、真っすぐな情熱や誠意、魅力ある人間力を持った者同士がシナプスのように繋がり合ってできるものです。自分自身はまだ半人前ですが、アカデミアや他のVC、産業界、行政など幅広いセクターの方々と密に連携しながら、質の高いコミュニティの中に身を置いて切磋琢磨したいと思います。そして、投資リターンを出資者や京大にお返ししながら、結果として1社でも多くの産学連携ベンチャーの成功事例を輩出したい。それが僕にとっての世の中への貢献です」

編集:BrightLogg,inc.
撮影:戸谷信博

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