コラム

まるで透明人間...「経営者の苦悩」乗り越えるコツは。ランサーズ・秋好陽介

2018-12-17
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
「個」の力になる存在へ。ランサーズのサービス誕生からスケールするまでの軌跡

個人の働き方やその成果をこれほどまでに頻繁に目にする機会があっただろうか。TwitterやFacebookを始めとしたSNSの台頭で、一人ひとりの活動や意見は過去に比べると飛躍的に発信しやすくなった。さらに、2018年は「副業元年」として話題にのぼることがある。副業を解禁する企業が増え、フリーランス(個人事業主)を主とした副業による経済規模がここ数年、国内でも一気に上昇したのだ。副業の後押しをする仕組みは、何もSNSだけではない。そのひとつが2008年に日本初のクラウドソーシングプラットフォームとして誕生したランサーズだ。仕事を発注したい企業と、仕事を受注したい個人とを繋ぐ役目を果たし、中でも個人のスキルにフォーカスした社会を創り上げようと目論む。創業以来、サービスを順調に成長させ、今では2,170億円を超える取引がこのプラットフォームを介して行われる。そして、ランサーズの代表の秋好陽介氏(以下、秋好氏)こそが、学生時代は個人でも仕事を受け、個人の力で社会を切り拓いてきた張本人。そんな秋好氏にランサーズのローンチから現在に至るまでの、サービスと会社の変革の歴史を語ってもらう。

思いついたビジネスモデルが日本になかったから、起業した

■秋好陽介(あきよし・ようすけ) ー大学時代、インターネット関連のビジネスを興す。 2005年にニフティ株式会社に入社。複数のインターネットサービスの企画/開発を担当。仕事の受託者・発注者、両方の立場を経験したことから、個人と法人のマッチングサービスを思い立ち、2008年4月に株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)を創業。 同年12月、インターネットを通した個人と法人の自由な仕事のやりとりを目指すクラウドソーシングサービス「Lancers(ランサーズ)」の提供を開始する。 2018年、創業10年目を迎え、ランサーズ株式会社の代表取締役社長 CEOとして、フリーランス総合支援プラットフォームを運営し、既存サービスの品質向上、新規事業の創造に取り組む。

秋好陽介(あきよし・ようすけ)ー大学時代、インターネット関連のビジネスを興す。2005年にニフティ株式会社に入社。複数のインターネットサービスの企画/開発を担当。仕事の受託者・発注者、両方の立場を経験したことから、個人と法人のマッチングサービスを思い立ち、2008年4月に株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)を創業。同年12月、インターネットを通した個人と法人の自由な仕事のやりとりを目指すクラウドソーシングサービス「Lancers(ランサーズ)」の提供を開始する。2018年、創業10年目を迎え、ランサーズ株式会社の代表取締役社長 CEOとして、フリーランス総合支援プラットフォームを運営し、既存サービスの品質向上、新規事業の創造に取り組む。

ランサーズ」が産声をあげたのは、2008年。新卒でニフティに勤めていた秋好氏が体験した、とあるエピソードがこのビジネスモデルを思いついたきっかけだ。

秋好ニフティにいた頃、仕事をフリーランスの方に外注しようと思っても大企業ならではの試練があったんです。たとえば『あいみつ(相見積もり)は取ったの?』とか『発注先は信用できるの??』とか。当時は手続きが煩雑で、時間も工数もかかるため、発注していた方に一旦発注を止めるご相談をしたんです。自分では大きな金額ではないから、そう迷惑にはならないだろうと思い、話をしました。ところが、その返答は僕にとって意外なものでした」

「私にとっては、あなた達からの発注は生活のためだけではなく、自身の仕事への誇りなんです。発注を止めないでください」その言葉を聞いたとき、秋好氏はハッとした。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ) ー大学時代、インターネット関連のビジネスを興す。 2005年にニフティ株式会社に入社。複数のインターネットサービスの企画/開発を担当。仕事の受託者・発注者、両方の立場を経験したことから、個人と法人のマッチングサービスを思い立ち、2008年4月に株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)を創業。 同年12月、インターネットを通した個人と法人の自由な仕事のやりとりを目指すクラウドソーシングサービス「Lancers(ランサーズ)」の提供を開始する。 2018年、創業10年目を迎え、ランサーズ株式会社の代表取締役社長 CEOとして、フリーランス総合支援プラットフォームを運営し、既存サービスの品質向上、新規事業の創造に取り組む。

秋好 「僕自身、学生時代に個人事業主として働いていた経験があるので、受注側の気持ちも痛いほどわかるんです。だから、企業の外部発注の仕組みが複雑で、整備されず、結果として個人に不幸せをもたらすことがとても悲しくて。そこで考えたのがランサーズのビジネスモデルでした」

フリーランスのための、オンラインで完結するマッチングサービス。当時の日本には同様のサービスが存在しなかった。そこで、ニフティ社内で新規事業としての立ち上げを提案。ところが、リスク管理の観点からか、採用には至らず、事業立ち上げは進まなかった。

秋好 「日本で未だ誰もやっていないのなら、このアイデアを自分で実現したいと思ったんです。そこで、2008年の正月に、ビジネスモデルや事業内容を詰めるひとり合宿をホテルでして、覚悟を決めたんです」

年始早々に職場には退職の旨を伝えた。HTMLの知識を持つ実の弟を連れ、インキュベーション施設をオフィスとして借り、「ランサーズ」の開発をスタートさせた。スケールするかどうかもわからない、秋好氏のスタートアップの世界への挑戦がはじまっていた。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

起業すれば、誰も怒ってはくれない。初期の2年間の苦労

世の中で「ランサーズ」の認知度が上がりはじめたのは、創業から2年が経過した2011年のことだった。秋好氏は、それまでの2年間を「透明人間のような気持ち」と表現した。

秋好 「初期の2年間がつらかった理由は、2つあります。ひとつ目は、誰にも興味を持たれないこと。会社員だったときは、遅刻したり仕事をサボったりしていたら怒られます。ところが、起業すると、当たり前ですが誰も怒ってはくれません。まるで、世の中からいなくなったような気持ちでした。 そしてふたつ目は、数字が全然伸びないことです。ランサーズ内での依頼数が0と1を行ったり来たりするような毎日でした」

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

報われない日々の連続に、仕事への意欲が低下する日もあったという。秋好氏いわく、日曜日は自分で休みと決めてはいたが、当時は「サザエさん症候群」に悩まされていたのだそうだ。それでも、不思議と「もう辞めよう」と思ったことはなかった。それは、いつかきっと自分の気持ちがユーザーに届くと、心のどこかで確信を持っていたからだった。

秋好 「売上が伸びなくて焦ることはありましたし、思い悩むこともありました。でも、辞めようと思ったことは、一度もありません。きっとそれは、必ず多くの人にサービスが届く日がくると変な確信を抱いていたからなのだと思います。それに、起業するにあたり、このサービスのことをかなり考え抜いていましたから。また、意思決定した自分に対して申し訳ないと思う気持ちもありましたね」

地道なサービス改善を日々繰り返す。そうして、ついにランサーズのブレイクスルーのタイミングが2011年に訪れた。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

東日本大震災をきっかけに、日本全体で働き方が見直される取り組みが広まったのだ。従来の週給2日制・週40時間勤務などの慣習ではなく、時間や場所を自分の意思で調整する、フリーランスや副業にも注目が集まるようになった。

秋好 「ちょうど、サービスの機能そのものも大方整いはじめていたタイミングでした。ユーザーの増加と、機能改善、これらのバランスがピタリとハマったタイミングで、一気に広く知られるようになりました」

意思決定の基準が変わり、内面からスケールアップ

サービスが認知されて軌道に乗り始めても、経営するうえでの苦労が絶えるわけではなかった。好氏が起業してから経験してきたこれまでの壁のうち、もっともハードだったと感じたのは「人」に関わる悩みだった。

秋好 「今は受容できる振り幅が大きくなりましたが、社員が辞めるときの苦しさはずっと感じていました。とくに、社員数が20〜30名くらいのタイミングでは、メンバーはみんな同志であると。。家族以上に大切な存在の彼らが、ランサーズにポジティブではない印象を抱いてしまう現実に直面した時は、とても辛かったです」

こうした苦悩から抜け出すために、秋好氏は客観的なアドバイスを求め、コーチングを受ける。社長自らが第三者との対話を重ねることで、自分が直面する課題と向き合った。そこで見つけた悩みの根本は、ランサーズの価値よりも、自分の価値を高く見ることが原因で起きていることだった。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

秋好 「経営者であるなら、自分がどんな風に見られたとしてもランサーズのためになることを選んで行動しなければならないはずです。ところが、当時の僕はそうではありませんでした。失敗して自分が恥ずかしい思いをすることが嫌だ。そう感じていたんです。第三者の視点を取り入れたことで、自分とランサーズを切り分けて考えることなく、まるでシンクロするかのようなランサーズ第一主義の目線を得ることができました」

内面から生まれ変わった秋好氏は、その後も快進撃を続ける。

サービスを優先し、それに耐えうる組織構造へ変化する

テクノロジーの力による、「個のエンパワーメント」をミッションに掲げるランサーズ。サービスの成長に合わせ、今後もユーザー一人ひとりをエンパワーメントするための取り組みを行なっていく。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

秋好ランサーズを通しての仕事の受発注はもちろんのこと、これからはフリーランスの方々が仕事をする上で発生するトラブル、確定申告、健康不安などといった、業務以外のサポート体制も整えていかなければなりません」

驚くことに、フリーランスとして働く人々のうち、案件の受注に対して(つまり仕事を取れるかどうか)不安を抱えている人は全体の3割程度でしかない。残りの7割は、案件以外の側面、フリーランスとしての働き方に不安を抱えているのだ。そこで、ランサーズでは仕事の受発注にとどまらないサービスを展開していこうと考えた。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

そして、サービス体制の強化や社員の人数の増加に伴い、社内の組織体制の変更も行なった。組織外と組織内、それぞれに向けた変化を求められるタイミングが訪れているのだろう。

秋好 「以前、社員数が30人を超えたタイミングで、自分だけではリーダーが足りないと考え、経営メンバーを3人増やしたことがあります。合計4人のメンバーで社員数100人まで走りました。そして現在では、10人の経営メンバーと共に、行動指針やビジョンをもとにした経営を行なっています」

組織の人員が増えれば、経営戦略の方針も変わる。ランサーズの社内でも社員、フリーランス、業務委託など、雇用形態にとらわれない組織をつくることで生まれる、新しい働きのあり方を模索している。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

あの時掲げたビジョンを胸に。本格的に多様化した社会へと突入する

国内で今後ますますの増加が見込まれるサラリーマンを中心とした「副業フリーランス」が過ごしやすい社会となるように支援を続けると秋好氏は意気込む。

■秋好陽介(あきよし・ようすけ)Lancers代表取締役社長 インタビュー クラウドソーシング

秋好 「日本の企業はだんだんと副業を解禁しはじめましたが、それでもまだまだ副業できる環境が整っていなかったり、不安要素があると思います。そんなときに、一歩だけでも踏み出す気持ちで副業をはじめてみてほしいんです。これからの企業や産業は、多様な働き方の人たちが混在するようなかたちできっと成長していくはずなので、それらを後押しする存在になりたいと思っています」

日本で働く人たちにとって、ランサーズは新しい働き方を広める役割を担う。長年に渡り、秋好氏が変えていきたいと望んだ世の中の構造は、少しずつ確実に変化していくのだろう。

秋好 「サービスを運営してきて、ときには辛いことも苦しいこともありました。でも、事業が当たるかどうかを考えるよりも前に、自分がどうしてもチャレンジしたいテーマだから事業にしました。そんな想いでランサーズはこれまで走ってきたんです。だから、好きなことを愛して、本気で突き詰めることで、描ける世界がきっとあるはずです」

2018年、副業フリーランスの人口は744万人、広義的にはフリーランスの人口は1,119万人にものぼる。秋好氏が率いるランサーズの創業当初から変わらないビジョンが創り上げる、一人ひとりが「個」として輝ける未来は、もうそこまで来ている。

執筆:鈴木しの取材・編集・撮影:BrightLogg,inc.

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