コラム

「失敗だけから学ぶことは少ない」Finatext・林良太のビジネス論

2018-07-30
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
逃げずにやり続ければ光は見える。フィンテック起業家が語る、起業する理由

「失敗は成功のもと」をはじめ、失敗を前向きに捉える考え方は主流だ。失敗を恐れてやらないよりは、やって失敗した方がいい。転職や起業など、新しいチャレンジをしたい人はなおさらそう思うだろう。だが、「失敗だけでは学ぶことは少ない。小さくても成功体験が必要」と言い切る起業家がいる。フィンテック領域でトップクラスの業績を誇る、株式会社Finatext(以下、フィナテキスト)を立ち上げた、代表取締役CEOの林良太だ。氏は、翌日の株価をみんなで予想し、投資を練習するコミュニティアプリ「あすかぶ!」や、手数料0円のコミュニティ型株取引アプリ「STREAM(ストリーム)」など、投資へのハードルを低くし、誰しもができる投資環境をつくってきた。なぜ、数々の金融サービスを展開し結果を出し続けることができたのか。そこには失敗はなかったのだろうか。失敗せずに挑戦できる秘訣なんて、あるのだろうか。そんな疑問を、氏にぶつけた。

今の自分があるのは、過去の成功体験があるから

林良太(はやし・りょうた)ー株式会社Finatext代表取締役CEO東京大学経済学部卒。ドイツ銀行ロンドン投資銀行本部機関投資家営業 GCI Asset Management ヨーロッパ大陸日本プロダクト営業統括。2013年Finatextを創業。

氏は起業する前から、小さいながらも自分なりに結果を出してきた。人生で最初の大きな成功体験は、大学受験だったという。

「高校生のときはテニスに夢中だったので、成績が悪かったんです。でも同級生に勉強でバカにされることが悔しくて、それならと東大を目指しました。そうしたら、ずっと模試がD判定だったのにもかかわらず本番に力を発揮し、現役合格したんです。 大学でも、立ち上げた学生投資団体やウェブ制作会社を泣かず飛ばずだったところから成功までもっていきました。最初は冷ややかな目で見られたりもしましたが、逃げずにやり続けて結果を出せたので、『基本自分は、逃げずにやりつづければできるんだ』という自信がついたんです」

finatextCEOの林良太氏

成功体験に裏付けされた自信をバネに、氏は就職するタイミングでさらなる挑戦に臨んだ。

「東大生って地頭のいい人がたくさんいるので、同級生と同じ就活したら勝てないなと思ったんです。一方、グローバルで新卒から働く人はいなかったので、自分は海外で就職しようと決めました。同期からはフリーターやるの?とか馬鹿にされたりもしました。誰もいきなり海外で就職しようなんて思わないですからね。 とはいえ、当時は英語が全くだったので『駅前留学』(笑)をしてから、イギリスの大学院でコンピューターサイエンスを学んだのちに、現地のドイツ銀行に就職しました。ふつうに企業サイトの問い合わせフォームから応募したんですが、当時日本人でポジティブでノリが良くて……っていう僕みたいなキャラの人は見たことがなかったらしく、ウルトラ特別枠みたいなので採用されました(笑)」

誰もがうらやむ良い職場、でも自分にとってその環境は「ぬるま湯」だった。

finatextCEOの林良太氏

ステータスもあるグローバル大企業でのキャリアを得たのに、氏は決してその環境に安住することはなかった。せっかく海外で就職という目標を叶えたのにもかかわらず、なぜ次は起業という新しいことに挑んだのだろうか。

「ドイツ銀行では、待遇も良く、非常に快適な環境でした。でもふと気づいたら、全然前に進んでいない感覚に陥ったんです。このままここにいたら快適な生活ができると思ったんですが、自分が成長している実感が得られなくて非常に焦りを感じてました。 父が事業家だった影響もあり、あらたなチャレンジを求め自分でやってみようと思って起業しました」

起業することにも、金融サービス領域で事業を立ち上げることにも迷いはなかったという。

「イギリスで働いていたとき、円高で日経平均も1万円を割るような状態で、海外から無視されているような印象を受けました。それが悔しかった。アメリカとかはみんなが投資して、株価もあがり、景気が良くなる。一方日本人は、金融資産を持っていても投資せず、なかなか経済停滞から抜け出せない。それで、もっと日本人に投資を広めたいと思うようになりました。 金融業界なら、これまでドイツ銀行で培った強みも生かせる。ここなら勝負できると思い、迷わず飛び込みました」

finatextCEOの林良太氏

なんとか今まで結果をだしてきた氏も、起業した最初の1年は大きな壁にぶつかった。それは、自分のプライドだった。

「最初の主力サービスとなった株のコミュニティアプリ『あすかぶ!』をやろうと決めるまで、1年を要したんです。これは一般の方向けサービスなんですが、僕はずっと金融のプロの世界で働いてきたので、金融に詳しくない相手にわかりやすく教えるというサービスをつくることを、自分のプライドが許さなかった。 でもそんな自分のプライドをなんとかへし折って、『あすかぶ!』をつくろうと決めた。これまでの金融機関のサービスは、使いづらいものばかりだったんです。なので自分たちはユーザーのことを一番に考えて、UI/UXなどを改善して本当の意味でのサービスを提供しようと思ったことが結果に結びつきました。この経験が今のFinatextのビジョンの金融をサービスとして再発明する。につながっていきます」

将来的にはもっと投資を身近なものにしていき、多様な金融サービスを届けていきたいという。

「普段、生活しているなかで振込や決済で銀行を使うことはたくさんあると思いますが、投資には必要性を感じていない人が多い。だから僕は、もっと投資が生活に根付けばいいのにと思っています。 そのためにも、テクノロジーを活用することで、一部のお金持ちにしか享受できていないウェルス・マネジメントサービスをより多くの人に届けたい」

3年で勝つのは難しい。でも20年続けていればきっと結果は出る

finatextCEOの林良太氏

氏のように結果を出し続けるにはどうしたらいいのか疑問に思った人もいるかもしれない。それに対する彼の答えは非常にシンプルだった。それは「勝つまでやり続ける」ことだ。

「起業する上で、頭の良さなんて誤差ですよ。本当に飛び抜けて頭の良い人はノーベル賞とかを狙いに行きますし。起業は、スポーツの世界みたいに才能が9割物を言う世界ではありません。3年で勝つのは難しいかもしれないけど、20年続けていると勝てるかもしれない。そういう世界だと私は思います」

finatextCEOの林良太氏

氏は、勝つまで続けていくために大事なこととして「油断しないこと」を掲げている。

「大学入学後と就職後の計2回、人生で油断していた時期があったんですが、そのとき、調子に乗ったらその瞬間に足元をすくわれた経験をしました。油断しないことは、働く上で一番気をつけていることです。 だから、起業してから油断したことはありません。起業において油断しないとは、1円でも大切にするということ。今だって業績は拡大しましたが、無駄なプリントアウトとか絶対しないし、変にイケイケなオフィスを構えようとは思わない。そんなことしているくらいだったら少しでも仲間によい給料を払います」

いくら勝つまで続ければいいだけとはいえ、そもそも新たなチャレンジを始めることに踏ん切りがつかないこともある。そういうときは、タイミングを見計らえばいいという。

「やろうと思ったときに今すぐやれというのが主流ですが、僕は違います。追い風が吹いていないところでやろうとはしないし、無理やり波を起こしたりはしません。株価や社会を一人一人がコントロールできないのと同じで、タイミングもコントロールできないと、と考えているんです。 今は無理なことでも、時間が経てば可能になることだってある。その間は粛々と準備作業をしていればいいのです。 逆に、人やお金、環境が揃ったなと思ったときは、その流れに逆らわない。僕が起業したタイミングも、共同創業者になる人と出会ったときでした。同い年、同じ大学出身で気も合い、出会った次の日には、夜通しコーディングをしていました。二人でニュースが流れた時間帯が、株価にどれだけ影響を与えるのかを分析しようとなったんです。その分析自体はうまくいかなかったんですが、ノリでそのまま金融サービスの会社をやろうよとなって。 だから新しい挑戦をするときは、決して無理やり始めようとはせず、でもタイミングがあれば流れに乗る。それを大事にしてみてください」

finatextCEOの林良太氏

新たなチャレンジにつきもののリスク。しかし、氏は「そんなものはない」という。

「若い人は特にですが、起業のリスクなんてよくよく考えるとないんですよ。一番恐れるのはお金の問題だと思うんですが、コンビニでバイトすればなんとか生活できるくらいにはやっていけます。 結局起業するときにみんなが恐れていることって、プライドが傷つくことなんですよ。給料が下がる、企業の後ろ盾がなくなる、バカにされる。そうした、これまでの自分の自信になっていたものを失くすから、みんな怖がるんです。でも、そうした自分のプライドをどこまで捨てられるか。これは、自分との勝負です」

最後に、これから起業したい人に向けてのメッセージを伺った。

「起業するかしないかって、結局人生に何を求めているかってことにつながるんですよ。優良企業で、楽な仕事と心地いい環境で給料がもらえるなら、こんなにコスパが良いことはない。それを求めるなら、それはそれでいいんです。 でも僕は泥臭い人間で、人生で求めていることも『飽くなき好奇心』。自分で起業するのは、時間やお金の意味でコスパは悪い。でも、楽しいことは間違いない。でかい勝負をするとそれだけでかい実験ができるし、新しいことを学ぶチャンスも多い。 先ほども述べたように、起業にリスクなんてないんですから、やりたいと思っているならタイミングを見計らい、ぜひ具体的なアクションに移してみてください」

執筆:菅原沙妃取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:横尾涼

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