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「起業のファイナンス」の磯崎氏が語るエクイティファイナンスの真実


「これからのエクイティファイナンスは、ますますトップ企業に集中して資金が集まるようになります」。

そう話すのはスタートアップファイナンスのバイブルとも言える、「起業のファイナンス」「起業のエクイティ・ファイナンス」の著者である磯崎哲也氏である。

ここ10年で急激な変化を起こしているスタートアップのエコシステム。シリコンバレーなどに比べればまだまだ課題が目立つものの、10年前に比べれば驚くほどの進化を遂げてきた。今回は磯崎氏が、スタートアップのエコシステムがどのように変わってきたのか、これからの10年でどのように変わっていくのかを話てくれた。

ファイナンスだけに留まらない細やかなスタートアップ支援

磯崎哲也(いそざき・てつや)
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、長銀総合研究所、ネットイヤーグループ株式会社CFOなどを経て、2001年磯崎哲也事務所を設立。以降、カブドットコム証券株式会社社外取締役、株式会社ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師等を歴任。現在、フェムトパートナーズ株式会社 ゼネラルパートナー。主な著書に「起業のファイナンス」「起業のエクイティ・ファイナンス」がある。
長きに渡りスタートアップの支援を行う磯崎氏は、スタートアップ支援の面白さについて、「すごい人に会えること」と話す。自分では考えられないような発想をする、優秀な経営者に会える事自体が磯崎氏にとってはやりがいのようだ。

磯崎「当たり前のように感じるかも知れませんが、すごいスタートアップってすごい人が集まって経営しているんですよ。そういったすごい人と接することがとても楽しいんです。キャピタリストの中には、会社をコントロールしたり、アドバイスすることに喜びを感じる方もいます。しかし、私の場合は私が想像もしないような発想を目の当たりにした時に喜びを感じます。
 
世界に羽ばたくようなスタートアップというのは、いろいろな意味で『最先端』であるはずで、その領域でフルタイムで働いているわけでもない私たちが完全に理解できるようなレベルでは、『本当にすごい』スタートアップなのかな?と疑念がわきます。以前バイオ(創薬)領域の人に『創薬となると、ガン細胞のどこに何のタンパク質がくっつくとどうなる、といったことが問題になるわけだけど、創薬領域の投資家は、それを完全に理解して投資するものなの?』と聞いたところ、『米国のある投資家は【われわれ投資家が完全に理解できるようではすでに最先端ではない】という趣旨のことを言っていた』と話してくれたことがありました。それは『投資家とは何か』ということについての真実を含んでいる言葉だと思います。
 
スタートアップ投資は子育てと似てるところもあります。親(投資家)が思い描くエリートコースを子ども(スタートアップ)にそのまま歩まれてもつまらないですよ。時代はどんどん変わっていくし、『親を超える』子に育ってもらわないと人類全体で見ると進歩していかない。そういう点で言えば、私が現在投資している経営者はみんなすごいです」

そう言う磯崎氏が支援をするスタートアップは、メガベンチャーを狙うスタートアップばかりだ。そんなスタートアップに対する磯崎氏の支援は幅広く、そして細かい。

磯崎「ハンズオンVCの役割は、経営者一人ひとりに合わせた支援だと思っています。スタートアップによくある『人に関する問題』は、特にVCの役割として大きいと思いますね。例えば、役員同士の仲が悪くなるというのは『ベンチャーあるある』ですが、経営者はなかなかそういうことを相談できる相手はいないので、そういう時の受け皿にもならなければなりません。
 
他にも、頭がよくて仕事も優秀なのだけれど、服やデザインを気にしない人には、スタイリストやオフィスのデザイナーの方々をご紹介することもあります。もちろん、経営者のファッションや、ロゴやオフィスのデザインというのは会社の本質ではありません。中身もないのにカッコだけ付けてもしょうがないですが、逆に、いいものを持っているのに、イケてるスタートアップとしてブランディングできておらず、人材採用や投資の決定の確率が下がるのはもったいない。
 
どんなにテクノロジーがよくても、訪問した時にオフィスやファッションがダサかったら、取引先や面接に来た採用候補、VCの人に伝わらないこともあるのです。特に創業者は、顧客や従業員や投資家に理念を伝える立場で、『この人の言ってることは正しそうだ』『この人について行けば大丈夫』と思ってもらえることが最大の仕事の一つですから、ブランディングも必要ですね」

エクイティファイナンスは限られた優秀な人間のためのものになっていく

ファイナンスのスペシャリストである磯崎氏は、エクイティファイナンスは本来的に「すごい人」に有利に働いてしまう傾向があると話す。

磯崎「エクイティファイナンスというのは、残酷なことに、超すごい人が評価され、トップにお金が集まって、それ以外にはさほど行き渡らない『winner-takes-all(勝者独り占め)』の世界なのです。いい企業の人が評価されるという傾向は、もちろん銀行融資などにもありますが、銀行融資が日本全体で100万社単位の会社に資金を供給しているのとは全く異なる世界です。
 
最近では日本でも、1000億円単位の大型上場が増えてきましたが、まだ米国のように兆円単位の上場が次々に出てくる状況ではありません。しかし、今後はさらに大型上場が増えることが予想されます。実は日本の上場の数もアメリカの上場の数もあまり変わりません。日本では現在、評価額が20億円や50億円の会社でも上場できますが、今後は日本もその程度の評価額では上場できなくなっていくでしょう。数年前まで数多くのスタートアップに1000万円単位で投資していたVCも、今は少数の有望なスタートアップに集中して10億円規模で投資するというような動きになってきています。今後は日本もどんどんアメリカの傾向に近づいて行くと思います」

毎年、磯崎氏の元には、数百社のスタートアップ経営者からの相談が来るが、「1番になれる可能性が感じられなければ投資できない」と話す。投資したからといって、誰もが上場できるわけではない。そしてVCは、上場やM&Aの出口(exit)で資金を回収しなければならないのだ。

磯崎「もし今スタートアップに投資したら、イグジットするのは5年後や、10年後になります。私達キャピタリストはその10年後をいかに予想するかが仕事です。
 
現にここ10年で、スタートアップ投資の世界も大きく変わりました。10年前であれば経営者がいろんなVCを歩き回って、やっと2,3社から1000万円引っ張ってくるということがほとんどでした。今では5億、10億円の調達も当たり前になっています」

今日本で起きている変化は、アメリカや中国だけでなく、世界中で起こりつつあると語る磯崎氏。そして、スタートアップが成長するにはエコシステムが全体で成長しなければいけない。

磯崎「ベンチャー投資というのは、まだ起きていない未来のことへの投資です。投資家は資金を投資しますが、創業者や従業員も自身の時間や努力を投資しています。見えない未来に投資してもらうのですから、『このスタートアップならイグジットできるんじゃないか』というシグナルを出して、それを信じてもらわなければいけません。
 
日本では従来は、実際に利益を出している会社が銀行融資も受けられ、その資金で投資をして、さらに成長していっていたわけです。そこでは、もちろん学歴や経歴も考慮されないわけではないですが、ある意味『実績が物を言う、平等なチャンスの世界』でした。
 
一方、現在のアメリカでは、ハーバードやスタンフォードで修士を2つ3つ持ってる人がいる経営チームも当たり前。そこにセコイアなどが投資すると、『すごい経営陣が揃っている』『すごいVCが投資している』というシグナルになり、そのシグナルに世界で最も優秀なクラスの人や数百億円の資金もあつまって、実際にすごい会社になっていくというサイクルができています。皆さんが好むと好まざるとに関わらず、この動きは日本のエクイティファイナンスの世界でも起こりつつあり、その傾向は今後ももっと強くなっていくでしょう。
 
数年前までは、『ベンチャーというのは、大企業に就職できないような奴がいく場所』といった偏見も多く見られましたが、驚くことに、ここ数年で全く違う状況になりました。今最も熱い視線でスタートアップを見つめているのは、東大や慶応などでも最も優秀な学生や、外資系投資銀行の人など、世の中で最も感度の高い人たちです。先日ある銀行のスタートアップ支援をしている人が学生に『スタートアップは就職先に考えないの?』と聞いたら、『スタートアップは、学生時代から活躍していてものすごく優秀な奴が行くような場所であって、私のような学生時代を普通に過ごしていたような人間には無理です』と答えた、とのこと。たった数年で、日本社会のスタートアップに対する認識も大きく変わってきたなあ、と思います。
 
この時大事なのは、スタートアップはエコシステムで成り立っているということです。VCもお金を出して終わりではなく、優秀な人が経営チームに来てくれたり、次の投資家が資金を出してくれたり、いい弁護士事務所や監査法人、証券会社がついてくれなければ上場まで行けません。ここが審査・融資から回収まで一行で行う銀行融資の世界とは異なるところです。スタートアップはひとりでコツコツ頑張ればいいわけではなく、多くの人を巻き込んでいく必要があるのです。またそのためには、すごい投資家がひとり現れればいいのではなく、エコシステム全体で成長していく必要があります。
 
世界の投資事情も大きく変化しつつあります。
 
15年前は米国型の独立系VCというと、そのほとんどがシリコンバレーで、あとはヨーロッパに数社あるくらいだったと言われています。それが去年初めてアメリカ以外のVCの投資額が、アメリカのVCの投資額を超えたのです。もちろんその投資の大半は中国なのですが、それ以外の国にも東南アジア・南米や中近東・アフリカまで、スタートアップのエコシステムが広がりつつあります。このように、スタートアップは『個社』ではなく『エコシステム』全体で機能するものであり、エコシステムが育つには時間がかかる上に、目に見えません。日本のエコシステムもやっと温まってきたと感じます」

トップでないとエクイティファイナンスを受けられないと話す磯崎氏。しかし、スタートアップは必ずしもトップを目指している企業ばかりではない。トップを目指さないスタートアップは、どうすればいいのだろうか。

磯崎「これからスタートアップに投資される額は、全体では幾何級数的に増えていくでしょう。しかし、エクイティファイナンスを受けられるスタートアップの数はさほど増えていかないと思います。気の合う者同士で集まって、10人くらいの組織でスタートアップをしていく選択肢が悪いことだと言っているのでは決してありません。しかし、資金調達方法として本当にエクイティが適切なのか?それは自分がやりたい方向性なのか?今後10億円100億円をエクイティで調達するライバルが現れた場合に、そこに勝って生き残っていける可能性がある領域・ビジネスモデルなのか、などは真剣に考える必要がありますね。
 
エクイティでなくても日本政策金融公庫や銀行でも資金は調達できますし、今ならクラウドファンディングという方法もあります。『時価総額30億円ぐらいで上場できればいいや』という考えが通用しなくなっていくのは間違いありません。もっと壮大なことを考えないと、人も資金も集まらなくなっていくと思います」

これからは機関投資家のお金がスタートアップに流れ込む

これから日本のスタートアップのエコシステムが、シリコンバレーのように成長していくと話す磯崎氏。そのひとつのきっかけとして、今年設立されたグロービス・キャピタル・パートナーズのファンドに、年金などの機関投資家のお金が流入したことを挙げる。

磯崎「実はいままでは、日本のベンチャー投資のアセットクラスは、機関投資家の運用資金には見向きもされなかったのです。それがようやくスタートアップに機関投資家のお金が流れ込んでくるというのは、とても大きな意味をもっています。
 
アメリカではVCの調達する資金のかなりの割合が機関投資家のお金です。機関投資家は全体では100兆円単位の資金を運用していますので、それはある意味社会全体と連動しており、『自分たちのお金を増やすことだけを考えている金の亡者』というよりは、『おじいちゃんおばあちゃんまで含めた社会全体に、いかにより高いパフォーマンスを還元できるか』が仕事の人たちです。その機関投資家のお金が入るということは、スタートアップ投資が根底から変わることを意味します。
 
意外に感じるかもしれませんが、これまでの多くの日本のVCは、高いパフォーマンスを出すことは必ずしも目的ではありませんでした。VCに集まる資金が、機関投資家の運用資金というよりは、『米国のスタートアップの状況を知りたい』『XX領域の技術を知りたい』といった事業会社の資金なども多かったため、たくさんの会社に投資をして、広く浅く情報を取ることも重要でした。中で働いている人たちも、2億円のキャピタルゲインでも100億円のキャピタルゲインでも『よくやった』と褒められるだけ。自分のボーナスがさほど増えるわけでもなく、逆に投資先が潰れたら怒られるという日本の標準的なサラリーマンと同じインセンティブ構造の人がほとんどだったので、無難な方向性をとって、投資先が潰れないように、また、少額でもいいから上場させることを考える傾向になってしまっていました。
 
しかし本来、VCの投資を最大化しようとしたら、10社投資して9社潰れてもおかしくないほどのリスクをとっても、1社が200倍に成長すればいいはずなのです。投資した企業を全て1.2倍にしようというのは、銀行融資的な考え方です。銀行であれば100社融資して1社でも潰れれば採算が合いませんが、VCはもっとリスクをとれるし、とった方が成功するのです」

機関投資家が参入してきたのは、ファンドサイズが大きくなって投資できる額が増えたからだと話す磯崎氏。兆円単位の資金を運用する機関投資家は、10億円や20億円の資金でも小さすぎるくらいだが、その額の投資を行うには、VCのファンドが100億円規模以上であることが必要で、それだけの規模がなければ機関投資家も投資しづらいと言うのだ。ではなぜ、ここ数年でファンドサイズが大きくなったのだろうか。

磯崎「ここ数年で、事業会社やCVCの投資が増えたこともありますが、それもあって、優秀な人がスタートアップ業界に流れ込み始めたことが大きな理由です。今でこそスタートアップへの投資額は、総額で4000億円程度にまで増えましたが、全体で1000億円以下の時ですら予定の資金を投資しきれないファンドがいたのです。
 
ファンドというのは、投資をする約束をして資金をお預かりし、お預かりした資金の2%程度を毎年のフィーとして頂きます。ただ、投資額が予定に満たないと契約でペナルティも発生します。そのため、投資しきれないほど巨額のファンドを設立するのは、VCとしても大きなリスクになります。優秀な人がスタートアップに行くことを尻込みしている環境では、いくら資金だけあっても仕方がない。今は優秀なスタートアップも増えて、資金さえあれば(採用の苦労は絶えませんが)優秀な人も流れこみ、投資できる先が増えたので、大きなファンドを設立するVCが出てきたのです」

証券会社のスタートアップへの付き合い方も大きく変わる

スタートアップのエコシステムの一つである証券会社にも、機関投資家のお金がスタートアップに流れることで変化が起きると磯崎氏は言う。

磯崎「これまでであれば、50億円の上場でも証券会社は主幹事として付き合ってくれました。証券会社が関わり出してから何年も経って上場しても、証券会社に入るのは、上場時に公募や売出しをする証券の金額の数%です。何年もかけて、小粒の上場では、それだけでは本来、証券会社は割に合わないはずです。従来は、特に日系の証券会社のメインのお客さんは、株を売買してくれるお金持ちなどであって、証券会社にとってのスタートアップの上場というのは、その個人投資家などに割安の株を回す『おまけ』の役割の色彩が強かったと思います。つまり、旧来の証券会社にとって公募価格を上げるインセンティブは全くないわけですから、上場時の公募価格と上場後の流通価格も、ものすごく乖離していました。スタートアップのみなさんは『すごい!上場して株価が爆上げだ!』と喜んだりしますが、逆です。元々の値付けが低すぎたんです。
 
つまり、これまではスタートアップは証券会社の『お客さん』ではなかったのです。
 
これに対してアメリカの投資銀行は、巨額の上場をさせて、扱う株式の価値が大きくなればなるほどいい、という非常にシンプルなインセンティブで動いています。日本も今後、絶対そういう方向にシフトしていきます。
 
これまで日本で赤字上場が難しかったのも、上場する企業が小粒で機関投資家に株を買ってもらえなかったからです。『今は利益出ていないけど将来はすごいですよ』という話は、プロの投資家でなければなかなか理解できません。個人投資家に提案するには、『黒字ですよ。この業界のPERはXXくらいですよ』という分かりやすい評価をつけなければいけなかったから、とも言えます」

これまで個人投資家が投資していたスタートアップに、機関投資家の資金が入ることでどう変わっていくのだろうか。

磯崎「今後、上場後の時価総額が500億円、1000億円と高くなってくると、企業自体にも機関投資家の資金が入ることになります。そうすると、業績も厳しく見られるでしょうし、コーポレートガバナンスも問われる。単に目先の利益を上げればいいというのではなく、中長期にわたって、いかに社会にインパクトを与えることを行い、企業価値を上げていくか、ということが求められるようになっていくでしょうね」

昔では考えられないほど優秀な人材がスタートアップに飛び込んでいる

優秀なスタートアップが増えた要因の一つに、優秀な人材が増えていることを挙げる磯崎氏。10年前ではありえないほど優秀な人が大量にスタートアップにジョインしていると言うのだ。

磯崎「最近では外資系投資銀行や、中央官庁の官僚のキャリアを築いていた人も次々にスタートアップに飛び込んでいます。昔では考えられませんね。今は優秀な人ほどスタートアップに飛び込んでいる印象を受けます。
 
その理由として考えられるのは、ひとつには『オープンイノベーション』でスタートアップに触れる機会が増えたことがあるかもしれません。
 
また、大企業での終身雇用という考えが、徐々に陰りを見せていることも理由のひとつだと思います」

スタートアップにチャレンジする人が増えている背景には、給与も大きく関係していると話す磯崎氏。それは、スタートアップへの投資額が増えていることとも、大きく繋がる話だ。

磯崎「従来は『スタートアップって給料安いけどやりがいあるよ』というのが、採用する人への誘い文句でした。しかし、スタートアップへの投資額が巨大になってくれば、採用時に給料を下げる必要はないわけです。年収1000万円もらっている人を採用するために、1000万円以上のオファーも出せるのです。実際、シリコンバレーでは若くても優秀な人間には数千万円のオファーがあり、採用の競争が過熱しています。こうした状況は、マクロでの賃金上昇や消費の増加にもつながるはずです。
 
研究職にしても、スタートアップで使える研究費が年間数百万円ではなく数十億円になるなら、大企業にいる必要もないかもしれません。身も蓋もない話ですけど、スタートアップに転職して、おしゃれなオフィスで給料もよくて優秀な仲間と刺激的な仕事ができるなら、優秀な人はみんなスタートアップに押し寄せるに決まっています。日本のスタートアップへの投資額は、絶対額でアメリカや中国の何十分の一しかありません。現在まだ年間の投資額は4000億円程度しかありませんが、GDP比で考えれば、年間1兆円や2兆円でもまだ小さいくらいだと思います」

では、いったいどのような人がスタートアップにチャレンジすればいいのだろうか。磯崎氏はこう語る。

磯崎「優秀な人を集めれば集めるほど、スタートアップの成功率は上がりますから、優秀であれば性別も人種も性格も関係なく、多様な人を採用すればするほどいいはずです。
 
それに伴って、それをマネジメントする能力も必要になります。シリコンバレーのある投資家は、『うちではシリーズBくらいになると、経営者にマネジメントコーチをつけるよ』と言っていました。マネジメントと言っても、大それたことではなく、『こういう言い方をすると部下は傷つくよ』とか『こういうことをすると従業員どうしのコミュニケーションが活発になるよ』といった当たり前のこと当たり前に教える人が、スタートアップ界隈に増えればもっと活性化すると思います」

スタートアップ経営は目線が高くなければうまくいかない

これまで何千人とスタートアップ経営者を見てきた磯崎氏だが、どのようにして投資をするか判断しているのだろうか。

磯崎「投資判断をするのに、『固定された何百項目の評価表』のようなものがあるわけではありません。もちろんDD(Due Diligence=投資のための調査)は非常にしっかり行なっているという自負があり、投資委員会にかける資料もそれなりにぶ厚いものを用意しますが、後から考えてみると、初めて出会った時にビビッときた経営者に、結果的に投資している気がします。もちろん数年経ったら経営者が見違えるように成長していた、ということもありますが、ひとつのラウンドに限って言えば、最初が微妙な印象なのに、後からじわじわ魅力を感じて投資に至るということは、まずありませんね。
 
どういう時にビビッと来るかというと、一言で言えば目線の高い経営者に会ったときですね。考えていることが小さい経営者はつまらないです。例えば『原宿近辺の女性を変革する』と言うより、『世界中の女性を変革する』という話の方が大きいですし、社会を大きく変革することは、結果的に企業価値の規模も大きくなります」

では自分の目線を高めるには、どうすればいいのだろうか。

磯崎「これまでの経営者というのは、『自分が集められるのはせいぜい1億円だが、その中でできるのはここまでだ』といった風にビジネスを組み立ててきたと思います。しかし、今はお金にも人にも限界がありません。すごいことを考えている人には、いくらでもお金も人も集まります。一度自分の枠を取り払って考えてみてはいかがでしょう。
 
『アメリカ人だからできるんでしょ』と暗黙に考えている人もいますが、日本の人もとても優秀です。例えば孫さんが設立したソフトバンク・ビジョン・ファンドは、投資しているユニコーンの数は世界で3位ですし、投資した企業の企業価値の合計は世界で1位です。
 
このように世界で最先端のことを日本発でやっているのです。こういう話を聞いて『でも孫さんは例外でしょ』と思うか、『孫さんができるならオレもできるかも』と思うかが、スタートアップに向いているかどうかの分かれ目だと思います」

目線を上げるというと、真っ先に思い浮かぶのは世界で戦うことだが、世界で戦うことについて磯崎氏はこう語る。

磯崎「『世界で戦います!』という人もよくいますが、本気で世界を戦うことを考えている方は、世界のサービスや製品のことを本当によく調べています。私が何を聞いても自信を持って答えてくれますし、そういう人からは目線の高さや本気さを伺えます。逆に、『どうやるかはこれから考えます』という人からは本気さは感じられません。『世界の業界に知り合いがたくさんいて、しょっちゅう海外でディスカッションしてます』ということでなくても、今やインターネットもあって、海外の情報やデータも寝ながらでも入るのに、それすら調べてない人が成功する感じはしないです。
 
インターネットのおかげで、今は英語を学ぶハードルもとても低くなっていると思います。実際に私も今年の1月から英語を勉強し始めたんですが、昨年までは日常全く英語を喋ったこともなかったのに、2月にはエンデバーという世界のスタートアップ支援のNPOのパネルディスカッションを英語でなんとかこなせるできるぐらいには成長しました。昔であれば仕事で使える英語を身につけようとしたら、留学や機会費用なども入れると数千万円規模のコストがかかったんじゃないかと思いますが、今ではNetflixもPodcastもYouTubeもあるし、コーチのフィーなどにコストをかけても、10分の1程度で同じレベルまでいくのではないでしょうか。
 
何が言いたいかというと、世界との言語のハードルも低くなって、日本人が世界を狙うのが難しかった理由もなくなってきています。自分の枠を取り外せば、今やどんなこともチャレンジできるはずだと思います」

執筆:鈴木光平
編集:Brightlogg,inc.
撮影:戸谷信博

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