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【ベースフード×FABLIC TOKYO】僕らがD2Cに取り組む理由

「D2C」と呼ばれるビジネスモデルが認知されるようになってきた。「Direct to Consumer」の頭文字を取った言葉で、メーカーが直接消費者に商品やサービスを届けることを指す。

2017〜2018年あたりからだんだんと日本でも認知が広がり、2019年にはさらに事業の成功事例が増えるだろうと予測されているビジネスモデルだ。しかし、すでに普及したビジネスモデルとは異なり、事業として取り組むに当たって障壁とされる点が多々あるだろう。

そこで今回は、すでにD2Cの成功事例として知られる株式会社FABRIC TOKYO森雄一郎氏、ベースフード株式会社橋本舜氏にD2Cでビジネスを行う上での難しさやポイントなどを対談形式で語ってもらった。

D2Cを選んだのではなく、言葉が後からついてきた

ーー今日はよろしくお願いします。おふたりは、「D2C」という言葉が日本で認知される以前からD2Cに取り組んでいましたよね。

森雄一郎(もり・ゆういちろう)
ー1986年岡山県出身。大学在学中、国内外ファッション情報サイトを立ち上げる。その後、ファッションイベント企画会社でのファッションショープロデュースや不動産ベンチャー事業開発、フリマアプリ「メルカリ」などに参画。2012年に株式会社FABRIC TOKYOを創業。
橋本舜(はしもと・しゅん)
ー1988年生まれ。東京大学教養学部を卒業後、ディー・エヌ・エーに新卒で入社。新規事業開発を担当する。2016年4月、ベースフード株式会社を創業。

橋本氏(以下、橋本) 「よろしくお願いします。そうですね、D2Cって言葉が日本にやってきたのは2017年1月。スクラムベンチャーズの宮田さんが書いたブログの記事がきっかけでした。急成長するビジネスモデルと紹介されていて、そこで初めて自分たちのビジネスをそう呼ぶことに気がついた感覚でした。知り合いからも『橋本くんがやっていたのはD2Cだったんだね』と言われて、自分も『あ、これはD2Cだったんだ』と気がついた(笑)」

森氏(以下、森) 「たしかに(笑)。僕自身、インターネットの本質は中抜きとかオープン性と思っているんですよね。ブランドから直接消費者に届けることで、中間マージンを抑えてブランディングができるって構造は、インターネットの最適解だと感じたので、全力で取り組めたんだと思っています。アメリカは2000年代後半からいわゆるオンラインSPAブランドが増えていました。その後、日本にも潮流がやってきた。2013〜2015年あたりに、ファクトリエ、Knot(ノット)なども登場しています」

橋本 「その時代が偏っているのってどうしてなんでしょうね。海外で出たから、少し遅れて日本にもやってきたってことなんですかね?」

「そうだと思います。D2Cのビジネスってインターネットを理解していないと難しいところが多いのですが、そもそもメディアとかプラットフォームってリアルに入り込めないのが課題だったんですよね。そこに、インターネットを理解した若手起業家が入れるようになったのが2013年以降で。インターネットのトレンドと人材の成熟がマッチしたんでしょうね」

ーー当時だと、クラウドファンディングプラットフォームの立ち上げも多く、D2Cのビジネスを加速させるには絶妙のタイミングだったのではないかと思います。

「たしかに、潮流としてありましたよね。クラウドファンディングは新しいもの、世の中で認知されていないものでも資金を集めることができる。コンセプチュアルなメーカーとかレストランなど、インターネットで完結しない企業が成長する背景として、クラウドファンディングは必要な存在だった気がします」

ーー先ほど例に挙がったKnotなんかもクラウドファンディングをきっかけにビジネスの成長を加速させていますよね。橋本さんはD2Cを、当時であればオンラインSPAを意識して事業を作っていったのでしょうか?

橋本 「僕の場合は、できること、目指すものを突き詰めたらD2Cだった、のほうが近いですかね。食品を作ったとしてもスーパーやコンビニでは簡単には取り扱ってもらえません。オンラインで売るしかないと。Makuakeでのクラウドファンディングから始まって、後にAmazonでも販売しました。ビジョンの達成のために、健康習慣を簡単にする必要があるので、定期購買サービスを充実させたい。

プラットフォームを挟むと、健康の習慣化に最適な定期購買サービスを作り込むことはできないから、Amazonではなく自社サイトで販売するようになった、みたいな。駐車場のシェアリングサービスや自動運転タクシーに取り組んでいたDeNA時代から生活の中心にデジタルを活かしたビジネスが入り込んでいく様子を見ていたんですよね。だから、発想としても違和感がなかったんです。要するに、やらざるを得ないことをやり続けていたらこうなっていた(笑)」

D2Cが生き残るために必要な人材と採用の話

ーー最近、D2Cで成功するための条件なんかが語られる機会が増えてきたように思うのですが、おふたりが考える、D2Cが生き残るために必要なことってどんなことだと思いますか?

「そもそも、D2Cって生き残りにくいビジネスですよね。なぜなら、ネットビジネスであり、小売ビジネスでも、メーカーでもあるから。インターネットだけ、ものづくりだけが素晴らしくても成長はしない。テクノロジー、販売、ブランドの3軸揃った総合格闘技感があるような気がします。

基本が販売の仕事だから、商売の基礎は必要。ものづくりのために人材も必要だし、時間もお金もかかる。そしてそれを広げるにはテクノロジーに力が必要です。そういう意味で死んだ企業は多いと思います。いずれかの要因がひとつでも欠けていると、生き残れない世界なんですよね」

ーーとくに一番大事なのってどんな要素ですかね?

「うーん、全部と言いたいですが……僕らは人材かなと思っています。IT業界の人ってアパレル業界のことは知らないし、アパレル業界の人は場合によってはITを毛嫌いしているんです(笑)。そんな存在をがっちゃんこして会社をやるんですからね。誰もできていないことだからこそ挑戦する価値があると思って創業しました」

ーーそれぞれの業界は価値観や慣習、なんなら共通言語がないなど難しさがあると思うのですが、どうやってミックスを?

「ビジョンの統一によってですね。僕、採用するときに必ず考えていることがあって。『新幹線ルール』と呼んでいるんですけれど、東京〜大阪を新幹線で移動する間、隣でずっと一緒に座っていられるか、みたいな(笑)。

カルチャーフィットの観点ですね。そういう意味で、うちは他社に比べて組織づくりが難しいと思います。ただ、カルチャーフィットさえできれば、あとはブランドがメンバーを引っ張ってくれる感覚がありますね」

ーー橋本さんは、D2Cが生き残るために必要なことってどんなことだと思いますか?

橋本 「僕も森さんと同じ意見です。完全に総合格闘技(笑)。ただ、根本的なビジネスモデルとしての強みもあると思うんですよね。それをつかんでおけば生き残りやすいという強み。

たとえば、直接商品を販売するからこそお客さんの声をダイレクトに聞けて、お客さんの声を聞きながらものづくりをするから進化できる。また、スーパーなどのように他の製品と一緒に並べられるわけでもないので差別化もできるし、独自の売り方も試せる。

あとは、D2Cでビジネスを始めている時点でだいぶ気合は入っているので、その強い想いさえあればなんとか頑張れるような気がするんです」

「わかる、わかる(笑)。D2Cの起業家に会うと、みんな気合入っているんですよね。短期的に利益を追うのではなく長期的に考えている気がするんですよね。

スタートアップって普通はトレンドがありますよね。一昔前ならキュレーションメディア、CtoCでシェアリングエコノミー、直近ならSaaSとか。その点、どちらかというとD2Cではサステナブルなサービスを作りたい人が多い気がします」

橋本 「たしかにそうですね。好きじゃないとD2Cは始められないし、自分の想いドリブンだからこそサステナブルです。逆に、D2Cは今がトレンドって理由でD2Cビジネスに入ってくると、うまくいかない可能性があるのかもしれません」

「ただ、投資家をはじめ周囲の理解を得るまでが大変ですよね。どうして自分たちで商品を作るところから始めているのか、なかなか伝わらないから。とくにIT業界に浸かると、在庫を抱えたりものを売ったら負け、みたいな風土ってあるので。だから、なかなか資金調達できないって苦労はあります」

橋本 「そう思います。一例ですけれど、フィンテックを差し置いてD2Cが200億円の資金調達に成功するなんてことはないわけで。僕自身、採用に苦労はなかったのですが、資金面を考えたときの採用の順番には気を使いました。今、このファンクションを採用して、資金を使うべきなのか、ですね」

ーー資金調達の難易度が高く、資金に制限があるからこそ、採用の優先順位が大切って話ですね。考えた結果、最初に採用したのはどういうファンクションの方だったのですか?

橋本 「僕の場合、ふたりめは特定のファンクションでなくジェネラリストを採用する、でした。DeNA時代の同期に入ってもらって、3人目以降はプロフェッショナルを採用していましたね」

「僕もまったく同じです。最初にジェネラリストを採用して、途中から特定分野のスペシャリストの流れです。最初の頃ってやらなければいけないことが多いから、あらゆることができる人間が必要なんですよね。

とはいえ、その一方でアパレルの専門性を持った人材も必要でした。食も同じだと思います。そこで、専門性の高い内容は、外部のアドバイザーに依頼していましたね。スピード感が必要な初期こそ、馬力で手を動かせる若手人材を集めて、アドバイザーの方には週一だけお願いしていました」

橋本 「たしかに僕も、はじめの頃は、食品業界の経験が必要なことは外部の方や企業に依頼していましたね。製品保証のことを考えると、そのほうが安心できたんです」

「特定の業界のプロフェッショナルをなるべく採用しないようにしています。業界出身者って、良くも悪くも正解を知っているから想像を超えるビジネスができにくいんです。

でも、僕らは想像できない仕事をしたいと考えているから、業界出身者は極力減らしたい。別業界だったり、新しい視点で物事を捉えられる人のほうが、うちにとっては必要な人材ですね」

橋本 「食品業界って結構レガシーなので、普通だとITを掛け合わせることによるジレンマが発生するらしいんです。でも、たしかにうちも食品業界出身者が少ないから、ジレンマを感じにくいのかもしれません。ITの普及した今の時代に一から食品会社をつくるなら普通こうするよね、を実行していますね」

唯一無二であることが、D2Cの価値になる

ーーイノベーションを目指すとき、いわゆる「死の谷」が訪れるなんて話がありますよね。認知を広げるに当たっての苦労ってありましたか?

「ありましたね。今は、やっと死の谷を抜けた感覚があります。死の谷はとにかく辛かった(笑)。2016年の夏から秋にかけてだったのですが、四半期の売上が下がって、社員数も減って、という時期があったんですね。ちょうど組織が少し大きくなってきてカルチャーミックスしたことによる統一感の欠如が原因でした。まあギスギスしていましたよ……。

これまでは言葉にしなくても伝わっていた感覚が、だんだんと汲み取れる人ばかりではなくなっていたので、ビジョンやコンセプトを改めて伝えるようにしました。昔からいたメンバーに伝道師になってもらって、採用時や1on1の機会などで積極的に伝えていましたね。今、会社の壁にはコンセプトが書いてあるんですが、それも社員からの発案で実行したものですし。うちにとってはすごく象徴的なエピソードでした」

橋本 「なるほど。うちはまだまだ死の谷を感じるフェーズが訪れていないかもしれないです。ただ、ひとつ感じるのは、やっと唯一無二感が出てきたこと。たとえ商品を真似できても、ヒストリーを含めたブランドや顧客体験全体の模倣はできない。そんな今だからこそ、あれこれ追われて手を回すだけではなく、持続可能にビジネスを回すためのバランスや舵取りを考えるタイミングが訪れています」

ーー舵取りって具体的にはどのように?

橋本 「総合格闘技の話に戻るんですけれど、D2Cの経営ってアドリブが多いと思っているんです。上流から下流までを全体感を持って判断するのが難しいから、人間である経営陣の頭脳や感覚に頼らざるを得ないというか。

一方で、規模もリソースも大きくなってくると、よりシステマチックな経営体制を構築する必要があるし、構築するリソースもある、という感じです。その上で、自分達らしさや世の中の流れをふまえて、ブランディングも大胆な仕掛けをしていかないといけない」

「そう考えると、ブランディングってとっても難しいですよね。成功するかわからないし、定量でも数値が取れないし。その上、勇気を振り絞ってやらないと、卓越化されたブランドにはできないから。D2CブランドのPRやブランディングには、いかに無駄なことを適切に振り切ってできるのか求められているような気がします」

ーーそれって、どうしたらいいんでしょうね。

「たとえばですが、アメリカで急成長しているAWAY(アウェイ)ってスーツケースのD2Cブランドがあります。彼らは自分たちをスーツケースメーカーだとは思っていないんですよ。旅雑誌を作って本屋に売ったり、編集者を雇ったり。彼らは、あくまでも旅を提案するブランド、なんです。

スーツケースメーカーだったら絶対にやらないような無駄なことを、合理的に本気で続けています。店舗を持っているので、占いイベントを開催して旅行先の提案とか、普通なら絶対にやらないですよね(笑)」

橋本 「だから、唯一無二なんですよね。今までは、性能や価格で勝負するのが当たり前だったはずのところを、AWAYは自分達らしさをベースにいろいろなアプローチで仕掛けてくる。だから真似もできない。決して奇をてらっているわけではなく、格好良く旅をするといったビジョンのために必要なことを尽くしているのだと思います」

「今って、情報伝達速度が飛躍的に向上したので、二番煎じがものすごくダサく見える時代です。今、AWAYと似たブランドが出てきたとしてもたぶん支持は得られないじゃないですか。

機能や性能を真似するのは簡単だけど、それを取り巻く世界観やブランドの価値観は真似できないし、そこにこそ価値がある。だから、D2Cは他社が真似できないものをとにかく作ることが大事なのだと思います」

ライフスタイルに浸透したブランドへの成長に向けて

ーーおふたりが描く青写真ってどのようなものですか?

「僕、社員にはAppleみたいなアパレルを作ろうと話しているんですよ。具体的にいうと、リアルとテックをかけ合わせてライフスタイルを革新していく企業になりたい。

もうひとつは、世界中にファンがいるブランドを作りたい。iPhoneって24時間365日、常に共に過ごすものじゃないですか。それって、ユーザータッチポイントが無限なので可能性が広がるんですよね。でも、アパレルも構造はすごく似ていて。ユーザーとの接点を持てる可能性がまだまだあるはず。

だから、テクノロジーへの投資を続けることで、いずれはビジネスウェアのテックカンパニーになりたいですね」

橋本 「日本でD2Cをやっているからこそ、ものづくりの強みを活かした海外展開は挑戦したいですね。ただ、難しいのは、ライフスタイルや思想の提案は国によって大きく異なること。ものがある分国境は超えやすいんですが、まだまだ課題がありますね。

また、僕らもテクノロジーの要素はさらに高めていきたいと考えています。iPhoneが最終的にはスマートフォンというハードではなく、iTunesやアプリなどソフトウェア勝負だったように、食も究極的には食品そのものではなくパーソナライズなどが価値を強めていくと思っています。

いずれ健康診断結果と紐付いて食を提案できるようになって、気がついたら健康診断がオールAしか取れないような世界観を作りたいんです」

「面白い世界観ですね……! ものではなく、ものを通じた体験を買っているってことですよね。D2Cの本質を理解することから始まり、ものづくりを高めて、サプライチェーンを回して、ブランドを築く。そこまでできたら良いんですが、バイタリティとスキルの両輪を回せる経営者も少ないから僕らは頑張らないといけないですね」

橋本 「本当、経営者が一番総合格闘技感を求められている!(笑)」

執筆:鈴木しの
取材・編集:BrightLogg,inc.
撮影:戸谷信博

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