コラム

IPO準備の実際とは?EY新日本有限責任監査法人に聞く

2020-05-26
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
国内外IPO関与実績No.1の監査法人に聞く、IPO準備のリアルな実態とは?

多くのスタートアップがマイルストーンに据えるIPO。IPOに際して必要不可欠な存在となるのが監査法人だ。監査法人は外部の第三者機関として企業の財政状態及び経営成績を取りまとめた財務諸表の監査を行い、上場により一気に増加する投資家に対して、企業が開示する財務情報の信頼性を保証する責任を担っている。また、内部管理体制の整備・運用や決算開示体制のみならずコンプライアンス体制やガバナンス体制についても指導助言も行う。数多くのIPOに関与してきた監査法人ならば、スタートアップが上場に向けてどのような課題に直面し、何を準備すれば良いか熟知しているだろう。これは、ぜひとも聞いてみたい話である。そこで、グローバル・国内共にIPOの関与実績No.1(*)を誇るEY新日本有限責任監査法人(以下、EY)の藤原選シニアパートナー(以下、藤原氏)に、IPOに向けて行うべき準備作業や監査法人との付き合い方を伺った。

*過去5年のIPO関与実績件数は2017年の国内IPOを除いてグローバル・国内共にNo.1

■藤原選(ふじわら・ひとし) EY新日本有限責任監査法人 シニアパートナー 公認会計士  IPOグループ統括 20年以上にわたり、オーナー系企業やスタートアップ企業を中心に、多数のスタートアップ支援・IPO会計監査を担当する傍ら、異業種とのネットワーキングのみならず、多数のイベントやセミナーで企画・運営・登壇を行い、ベンチャーエコシステム構築へ貢献するとともに、スタートアップ企業の発掘・支援なども行っている。 2019年度には、年間3社のマザーズ上場企業のIPO監査を担当、2018年度は設立3年9カ月(同年度の実質最短)でマザーズ上場を果たした企業のIPO監査にも携わる。産業構造の変革に挑戦したり、世の中にないプロダクト・サービスを生み出すイノベーティブなスタートアップ企業の支援にも注力。
■藤原選(ふじわら・ひとし)EY新日本有限責任監査法人 シニアパートナー 公認会計士 IPOグループ統括20年以上にわたり、オーナー系企業やスタートアップ企業を中心に、多数のスタートアップ支援・IPO会計監査を担当する傍ら、異業種とのネットワーキングのみならず、多数のイベントやセミナーで企画・運営・登壇を行い、ベンチャーエコシステム構築へ貢献するとともに、スタートアップ企業の発掘・支援なども行っている。2019年度には、年間3社のマザーズ上場企業のIPO監査を担当、2018年度は設立4年(同年度の実質最短)でマザーズ上場を果たした企業のIPO監査にも携わる。産業構造の変革に挑戦したり、世の中にないプロダクト・サービスを生み出すイノベーティブなスタートアップ企業の支援にも注力。

GAFAの監査を長年担ってきたアカウンティングファーム

GAFAの監査を長年担ってきたアカウンティングファーム

本題に入る前に、EY新日本有限責任監査法人について紹介したい。藤原氏が所属するEYは、GAFAの監査を長年行っているErnst & Young LLPと同じネットワークに属する監査法人でスタートアップの支援には定評がある。

藤原「私たちEYは『Building a better working world(よりよい社会の構築を目指して)』というPurpose(理念)を掲げています。世の中に支持され、社会をよりよく変革していく企業に貢献することが私たちの存在意義です。監査法人はその活動の実情がなかなか語られていません。ことスタートアップにおいてはIPOの監査が注目されがちですが、他にも幅広い支援業務を行っています」

EYでは監査業務を軸に据えながら、個社に対しては事業計画の策定支援や、ステークホルダー(VC・大企業・メディアなど)との連携支援を行なっている。その他エコシステム全体を盛り上げていくという観点から、スタートアップ向けのイベント「EY新日本企業成長サミット」の開催、起業家向けの表彰制度「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」の主催など、新興企業の成長を促す活動も行なう。

藤原「ベンチャーエコシステム全体を盛り上げていくために、起業家の母数を増やすことが一つの有力なアプローチであると考えられることから、きらりと光る起業家の方には創業前からサポートすることもあります。その結果IPOに向けての監査契約をする際に『EYさんがいいね』とご指名いただけるととても嬉しいですね。これらの活動を円滑に進めるため『企業成長サポートセンター』と呼ばれる部署も設置しています」

紹介された「企業成長サポートセンター」はスタートアップと監査事業部をつなぐユニークな部署であり、EYのIPOの強みを支える源泉にもなっているという。簡単な紹介を終えたところで、本題に入ろう。まずはスタートアップがIPO時に直面しがちな課題から伺っていく。

上場する企業には“パブリックな振る舞い”が求められる

上場する企業には“パブリックな振る舞い”が求められる

数多くのIPOに関与してきたEYは、スタートアップが上場時に直面する課題を熟知している。上場はできるだけスムーズに事を進めたいものだが、現場ではどのような課題が生じているのだろうか。

藤原「よくみかけるのは、内部管理体制の整備・運用の不備です。IPOの際には、販売業務をはじめ、購買業務、労務管理業務、決算開示業務など、上場企業にふさわしい管理制度が敷かれているかが問われます。しかし、スタートアップは急激に成長していくので、この内部管理体制の整備・運用が追い付かないことが多いのです。特に販売業務は、事業の進捗の把握、また資金繰りの観点からも重要なものです。与信管理、売上計上、債権管理などに不備があると、正しく売上計上の会計処理ができないことに加えて、売掛金が回収できずに、運転資金の確保もままならなくなり、成長のブレーキに直結します。また、取引先のチェックが甘く、誤って反社会的勢力と取引を行ってしまうと、上場にあたって大きな問題になってしまいます」

上場企業にはパブリックな振る舞いが求められ、管理体制は振る舞いを見定める試金石になる。同様に上場企業としてのコンプライアンスも求められる。

藤原「未上場企業と上場企業では、要求されるコンプライアンスのレベルが大きく違います。上場企業として求められるお作法を意識することはとても大事ですし、株式市場に集まる資金はパブリックなものなので、公共に合わせる意識変革が必要です。分かりやすく例えると、アマチュアゴルフではミスショットをしても一定の範囲内にボールをドロップして調整ができます。しかし同じ事をプロ競技で行えば競技違反となってしまいます。IPOにあたっては少なくとも約3年の準備期間がありますが、この期間でアマチュアゴルフとプロゴルフのルールの差、すなわち公の資本市場で求められる水準までの意識レベルに変革をしなければいけません。変革を行う際に重要なことは、杓子定規にただ法律を守るのではなく、社会の要請に応える意識を持つことです。スタートアップは社会の最先端領域における課題を解決することが多く、法律が追いついていない領域でビジネスをすることもあります。法律で明確化されていない以上、本質的に遵守すべきものは何なのかを深く思考する必要があります。その思考が浅いと、法律に違反していなかったとしても社会からの批判を受けたり、最悪の場合には社会問題へ発展することもあります。だからこそ、経営陣には『法律を単に遵守するのでなく、もう一段高い視座で、社会が求めている要請にコンプライする(応じる、従う、守る)』意識をもっていただきたい」

藤原氏は、新規の事業や新規の取引を始める際には事業サイドの検討だけでは足りず、法務・会計・税務・労務の観点から検討することが重要だという。

藤原氏は、新規の事業や新規の取引を始める際には事業サイドの検討だけでは足りず、法務・会計・税務・労務の観点から検討することが重要だという。

藤原「新規事業や新規取引を始める時に、社会の要請にコンプライする意識がなければグレーゾーンのバーター取引や循環取引などに巻き込まれてしまうこともあるでしょう。一事が万事で、正誤があいまいな行為を『みんながやっているから』と実行してしまうと事故を起こしてしまいます。意識は社内体制・経営管理制度に反映されます。ソフトウェア開発では『技術的負債(プログラムが複雑化し、メンテナンスがしづらくなる状態)』という言葉がありますよね。技術的負債は開発初期から対策すれば避けることが可能です。同様に創業直後からコンプライアンスを意識していれば、改修コストを抑えてIPOに耐えうる仕組みを作れるばかりでなく、企業成長を支える基盤を後戻りせずに効率的に作ることもできます。事前準備をしておけばスムーズに上場準備作業をできることも多いので、成長に応じた制度を適切に構築しながら将来を見据えた体制づくりを心がけましょう」

何事も一朝一夕には成し得ない。ことIPOには入念な準備が必要だ。いざ実行する際に慌てないよう、創業直後から心の準備はしておきたい。

IPO時の株価も大事だが、上場後に企業価値を継続的に向上していくことの方がもっと大事!

IPO時の株価も大事だが、上場後に企業価値を継続的に向上していくことの方がもっと大事!

ここで話を変えて、IPO時に直面しがちな資金まわりの課題を伺った。企業の成長に資金は欠かせない。それは経営活動の血液となり、事業を推し進める原動力になる。IPOを視野に入れた時に、スタートアップはお金とどのように付き合っていけばよいのか。

藤原「まず資金調達からお話すると、ここ数年でVCばかりでなくCVCを創設する事業会社も増え、資金の出し手と金額が大きくなってきています。ベンチャー企業の中には投資を受け、資本金が多くなるところも出てくるでしょう。ここで見落としがちな事項として、資本金があります。資本金が5億円以上になると上場前でも会社法の『大会社』に該当し会計監査が必要になり、資本金が5億円以上になった翌事業年度に会社法監査を実施しなければ会社法違反になります。大きな資金調達を行う場合は注意した方が良いと思います」

上場を見据えたときに、本音としては株価も気になるところだろう。できるだけ大きな金額でIPOを果たしたいところだが、事前に準備できることはあるのだろうか。

藤原「上場後に株価が上がらない企業は、予算と実績が大きく乖離したことが原因になっていることもあります。投資家からみれば、そのような企業は業績が予想しづらく、購入後に株価が下がってしまうリスクを抱えている。つまり買いを敬遠してしまうのです。買い手が増えなければ株価は伸びません。株式市場は、『買い』から取引を行う投資家ばかりでなく、『売り』から取引をスタートする投資家もいるので、予算と業績は、上振れ・下振れ、どちらも避けた方が良く、乖離時には即座に正しい数字へ修正できる仕組みを作っておくことが重要です。ただし、いうは易く行うは難しですが。予算を策定する力は、それを支える経営管理体制から生まれます。まずは実績を正しく把握する事が大事で、先ほど述べた販売プロセスをはじめとした内部統制の構築も進めなければいけません。また、予実差をしっかり分析して、改善施策を行って業績改善につなげていくというPDCA力がないと、株価うんぬんではなくIPO自体に支障が出てきてしまいます。いずれにしても、大事なことは上場後の成長です。大型上場してもその後株価が下がれば損失を被る人が出てしまう。極論をいえば、最初はスモールIPOでもいいのでまずは上場をして企業活動のステージを変えて、IPOを成長ドライバーとして上場後に確実かつ継続的に企業価値を向上し、結果として時価総額が上がれば、市場に関わる全員が利益を得られ、市場から歓迎されます」

もう1点、藤原氏からアドバイスがあった。それは上場後を見据えた新規事業の準備だ。

藤原「直近のIPO事例をみると、ワンプロダクト・ワンサービスでIPOを遂げる企業が多いと感じます。それ自体はヒト・モノ・カネの制約があるスタートアップの事業戦略としては間違ってはいないと考えます。しかし、マーケットは必ず頭打ちが来るものです。上場直後は新規事業への大きな投資など目立ったことがしにくい場面もあるので、上場前に新規事業のタネを蒔いておくと後々経営を助けてくれると思います」

IPOはゴールではなく企業が次のステージに進むための通過儀礼なのだろう。そこから大きく羽ばたいていくために何ができるのか、将来設計をしっかりと固めていきたい。

IPOに必須のCFO、ヒト・モノ・カネは魅力的な経営者に集まる

IPOに必須のCFO、ヒト・モノ・カネは魅力的な経営者に集まる

次はIPOとCFOの関係を伺う。上場にあたり大きな役割を果たす役職だが、どのような能力が求められるのだろうか。

藤原「私見では上場を目指すスタートアップのCFOに求められる能力は、・取締役の一員として経営をハンドリングする『マネジメント能力』・決算開示体制を整備・運用していく『アカウンティング能力』・資金調達を担う『ファイナンス能力』の3つがあると思います。しかし、個々の会社で課題は異なるので、必ずしもすべての能力は必要ありません。資金調達を重視するならば『ファイナンス能力』、事業計画を策定し、PDCAを高速で回して事業活動に資する経営力を重視するならば『マネジメント能力』が必要です。逆に、資金調達が不要な会社は、決算開示体制を強化すればIPOできる確度が格段に上がるので『アカウンティング能力』のあるCFOを採用するのが得策です。いずれにしても、“優秀なCFO”の定義は各社の状況や各社の成長ステージで変わってきます」

藤原氏は、「上場準備においてCFOの担う役割は大きい」と話す。CFOが確保できない場合、コンサルファームに決算関連を中心としたIPO準備作業を一時的に依頼する方法もあるが、それだけでは上場準備が万端とはいえないケースもあるそうだ。

藤原「上場すると、正確かつ迅速な決算開示が求められます。正確で早期に決算開示を実現するためには、作業のスピードとともに決算数字を正確に算定できる仕組みや内部管理体制が必要です。外部のコンサルタントに依頼し対応する場合も多々ありますが、その場合でも決算を正確かつ迅速に行う前提になる上流の業務プロセスの改善が進まないと適時に正確な決算開示ができない場合もあります。これは上場にあたって支障が出てくる典型的な課題の1つになっています。具体的には、事業活動の基盤となる販売業務プロセスの整備・運用が進まないことが多く見受けられます。それは集計される売上の数字そのものが間違っていることにつながることになり、財務諸表上で非常に大きな問題になります。内部管理体制の整備は日常的に業務に従事しており、社内のすみずみまで熟知している内部者の方がスムーズに改善のためのプロジェクトマネジメントを進めることが出来ます。以上の理由から、CFOはそのプロマネにあたりキーマンになり、CFOの実力はIPOにかなり影響を及ぼすことが経験則上多い気がします」

ただし、上述の3つの能力を兼ね備えた人材は少ない。もしいたとしても、他の企業で活躍していることが多いだろう。上場に不可欠なCFOをどのように採用すれば良いのだろうか。

藤原「まずは、会社の魅力を伝えることが必要です。起業家は投資家にコーポレートストーリー、正確にはエクイティ・ストーリーを提示しますが、これは採用にも応用できます。魅力を伝える際は、単なるバズワードで表現してはいけません。中長期的に、その企業が市場にどのような価値を打ち出せるのか、解像度の高い価値あるストーリーを描きます。一事が万事ですが、ヒト・モノ・カネは魅力的な経営者に集まります。自社を魅力的にアピールできれば、実力があるCFOが採用できますし、自然と資金も集まるでしょう」

ただし、と藤原氏は続ける。

藤原「CFOに限らず人材採用の際には、現在必要な能力・職務と、数年後に必要なそれとを分けて考えることも大事。今取り組むべき課題の解決に必要な能力と数年後に生じるであろう課題の解決に必要な能力が違うこともあるからです。軸足をどちらにどれくらい置くかは状況次第だと思いますが、将来のことも意識して採用活動をすることはとても重要だと思います。また、採用時には候補者のリファレンスを事前にとって十分検討するほうが採用のミスマッチが減る可能性が高いように思われます」

CFO採用のプロセスをまとめると、まず自社の課題を洗い出し、必要な人材像を設定すること。次に自社の魅力を伝えて、候補者を見極めること。時間もコストもかかる作業だが、IPOにCFOは欠かせない存在だ。ここは着実に準備を進めたい。

監査法人は企業成長の伴走者、経験豊富なパートナーを選びたい

監査法人は企業成長の伴走者、経験豊富なパートナーを選びたい

スタートアップと監査法人の付き合い方についても伺った。何事にもパートナー選びは重要なもので、どの監査法人、ひいてはどの公認会計士と付き合うかで上場準備の効率やIPOの成功率は変わってくるという。

藤原「ポジショントークに聞こえてしまうかもしれませんが、パートナーに選ぶならばスタートアップ支援及びIPO関与実績がある監査法人をお勧めしたいです。なぜかというと、理由はふたつあります。ひとつは内部管理体制の整備・運用の側面から。上場準備の段階では『この仕組みを直してください』とアドバイスをよくしますが、慣れていない場合、スタートアップに大手企業で採用されている仕組みと同水準を要求して、結果的にビジネスにブレーキをかけてしまうリスクがあります。スタートアップには急成長が求められるので、ブレーキを踏みすぎてもいけません。大手企業のような安全性を重視しすぎてしまうとビジネスの成長速度を阻害してしまいます。監査法人がこの塩梅を理解してガバナンスやコンプライアンス体制の構築や内部管理体制の整備・運用のアドバイスをできるかどうかは、スタートアップという『車』が加速できるか、カーブの際にブレーキをうまくきかせて事故を起こさずに曲がりきれるかに大きな影響を及ぼします。もうひとつは、コミュニケーションの側面から。スタートアップ業界特有の考え方・概念や用語があるため、監査法人側とのコミュニケーション・コストが想定以上に発生することが考えられます。例えばスタートアップ業界では資金調達の際に、『シリーズA・B』、『プレ・ポスト』などの言葉をよく使いますよね。SaaS成長モデルを語る場合の『T2D3』とか。全ての公認会計士がスタートアップ業界の常識に明るいわけではないため、用語をうまく理解できないこともありますし、ひいてはスタートアップのビジネスモデルや新規事象を適切に捉えきれないおそれも出てきます。経験豊かな担当者が監査チーム内に1人でもいれば、コミュニケーション・コストが下がり、ビジネスモデルを的確に理解したうえで、上場準備の中でやるべきこととやらなくてもよいことを峻別できるので無駄がありません。これらの素養を見極めるためには、監査契約検討の際に『監査チーム内の担当者にIPOに携わった方はいますか?』と聞いてみるのも良いでしょう。監査法人が経験豊富でも、担当者の経験が浅い場合もありますから注意が必要です。企業の成長ステージに合った良い塩梅のアドバイスができる担当者はとても貴重な存在になります」

最後に社会問題になりつつあるといわれている「監査難民問題」について伺った。

藤原「監査の厳格化による工数の増加、監査法人での働き方改革による残業時間の削減の影響、監査の担い手の人員減少により、ご依頼頂いた監査の全てをお引き受けすることは現実的には難しくなっております。昔は監査法人に任せていれば上場準備作業を諸々先回りして支援してくれていた時代もありました。しかし、最近では監査法人も人手不足で一昔前のようなフルサポートをするのは難しくなってきています。したがって、上場を目指す場合は、“自ら上場準備作業を進める”という企業側の自律的な意識が必要になってきています。また、現在、あらゆる産業において、新たなデジタル技術やビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きています。こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX)をスピーディーに進めていくことが求められています。監査法人の監査も同様であり、監査先企業のDXを理解し、監査対応のための協議を始めています。監査品質を担保しながら、監査の付加価値を向上させ、監査先企業の監査対応負荷を軽減させるには双方のDXを最大限に活用していくことが不可欠になります。EYでは、すでにAIやデジタルツールを使用するDigital Auditを進めています。企業のDXの状況により、監査を受けるための直接・間接コストも大きく変わってくる時代になってきています。今般のコロナ禍では、監査対象のビジネス文書が『紙』であったり、承認手続が『ハンコ』であったりするなど、決算作業を含む業務プロセスの課題が浮き彫りになりました。コロナ禍の経験を生かすためにも、従来の仕組みを根本から見直して、現在のテクノロジーを十二分に活用してプロセスを再構築する時期が到来しているともいえます。最後になりますが、IPOを遂げるためには入念な準備と関係各所との連携が必要です。私たちにできることには限りがありますが、よりよい社会を構築するためにできる限りのことをしたいと考えています。上場を検討されているならば、豊富な経験からアドバイスできることもあると思います。ぜひお気軽にご相談いただければ幸いです」

この記事で紹介した内容は、監査法人に相談に行って初めて聞けるTIPSだと感じた。とはいえ、各社の課題や実情は異なるものだ。より具体的な相談はぜひ監査法人に足を運んでほしい。経験豊富なパートナーは上場の力強い味方になってくれるだろう。

執筆:鈴木雅矩取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:小池大介

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