コラム

「超高齢化×AI」に挑戦する。エクサウィザーズ代表・石山洸氏

2019-07-04
STARTUPS JOURNAL編集部
Editor
STARTUPS JOURNAL編集部

世界初の超高齢社会を迎える日本。大きな社会課題であると同時に、これから超高齢社会を迎える先進国のモデルケースとして世界各国が注目しているのも事実だ。日本で超高齢社会に対応するためのソリューションを実現できれば、今後は世界にも展開できるため、見方を変えれば大きなビジネスチャンスともえるだろう。そんな日本の超高齢社会に対して、AIでの解決を図っているのが株式会社エクサウィザーズ(以下、エクサウィザーズ)。世界中のトップクラスの人材が集まり、最先端のAIビジネスを展開している。今回は代表の石山洸氏に、AIビジネスと超高齢社会について話を伺った。

課題解決を目的にするから技術が進化していく

石山洸(いしやま・こう)東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年4月、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授。

日本の超高齢社会の問題は、もはや日本だけの問題ではないと石山氏は語る。日本の後に、世界中が超高齢社会を迎えるため、ビル・ゲイツやセルゲイ・ブリンといった、世界の名だたる経営者も、介護や創薬の分野にこぞって参入しているのだ。そんな中でエクサウィザーズは、AIを活用して超高齢社会に立ち向かう。医療費の問題や労働力の不足など、超高齢社会は様々な課題を孕んでいるが、それだけ様々な市場が存在していると言うのだ。「超高齢社会×AI」という領域の中には、フィンテックやHRテック、ロボットなど、さまざまなビジネスチャンスが眠っている。そして、エクサウィザーズはそれらの課題に対して、「ゼロイチ」でビジネスを創出していくことにこだわっているのだ。石山「私たちがゼロイチにこだわっているのは、ゼロイチがなければ、社会課題も解決できないし、AIの分野も成長しないからです。たとえば、スタートアップの中には、こんなテクノロジーがあるから、AIならこんなことができるから、といったプロセスで起業するスタートアップも多いです。仮にこれを『順張り型AIスタートアップ』としましょう。 その逆に、こんなことしたくて、AIならそれが可能かもしれないと、AIが目的ではなく手段になっている場合もあります。それを『逆張り型AIスタートアップ』と呼びましょう。 私たちがそのどちらかというと、『逆張り型AIスタートアップ』だと言えます。そして、だからこそテクノロジーが進化していくのです。順張りの場合、テクノロジーありきで課題をフィットさせるため、テクノロジーは進化しません。 しかし、『逆張り』で大きな課題に技術を合わせるには、それだけテクノロジーを進化させなければいけなくなります。だから私たちは、課題優先で、ゼロイチのビジネスを立ち上げることにこだわっているのです」続けて石山氏は、「テクノロジーといった時に、どの範囲までを意味するのか」といったトピックについて語る。

石山「たとえば、スタートアップのCTOという文脈でいえば、テクノロジーはソフトウェアテクノロジーを意味することでしょう。しかし、私たちの場合、それだけでは不十分で、サイエンスの領域も含めて考えなければなりません。AIで社会課題を解くには、ソフトウェアだけでなくハードウェアはもちろん、脳科学のようなウェットな分野や、医学、薬学、ロボティクス、ファイナンスも必要ですし、介護領域のサービスを作るなら、介護の知識も必要になります。 実際にエクサウィザーズのエンジニアの中には、介護のインストラクター資格まで取得した人間もいます。そこまで頑張って科学技術を学んでいくことで初めてフルスタックと呼べて、課題に対して技術を活かすことができるのです」

これは世界で遅れをとっている、日本のコンピューターサイエンスの解決策にもなると話す。

石山「日本も今は、国を挙げてコンピューターサイエンスの教育に力を入れていますが、それだけではどうしても世界各国からの遅れを取り戻すのは難しいですね。今はコンピューターサイエンスを学んだエンジニアが、さまざまな領域でサービスを作っていますが、介護や経済といったドメインサイエンスに詳しい方が、AIを学んでいくような二刀流人材の創出も大切です。そして、それは結果的に、日本のコンピューターサイエンスを前進させることにつながると考えています」

ソリューションとプロブレムの行ったり来たり

サービスを作る際には、課題から逆算して考える「プロブレムドリブン」の考え方が大事だと話してくれた石山氏。だが、同時に「順張り」である「ソリューションドリブン」の考え方は不要かと言えばそんなことはないという。

石山「弊社がそうであるように、『課題ありき』で課題から逆算して考えること非常に重要だと考えていますが、常に『この技術でこんなことができる』というソリューションをストックしておくことももちろん大切です。そういったソリューションが溜まっているから、課題に気づけるし解決することができます。 かと言ってソリューションばかり溜め込んでいても、プロブレムは見つかりません。結局はソリューションとプロブレムを行ったり来たりしながら、どちらも溜め込んでいく必要があるのです」

日頃からプロブレムもソリューションも蓄積しているという石山氏だが、どのように膨大な知識を蓄積しているのだろうか。

石山「最近、iPhoneのタイムスクリーンの機能で気づいたのですが、SNSを見ている時間よりも、なぜか、ウィキペディアを見ている時間の方が長いです。ウィキペディアを活用したデザインシンキングのような感じで、ここでの着想から専門書や論文を経由して、将来、ソリューションになりうるネタを溜め込んでいます。 最近は『文化史』のコーナーの本を良く読んでいます。本やテキストベースでは入ってこない情報も多いので、普段から人に会うことも心がけていますね。 また、プロブレムを探すためには、自分が取材を受けた際に、逆に記者の人が、普段からどのように情報収集しているか、聞くようにしています。ドキュメンタリー作家の方などは、積極的に問題を探しているので、そういった方が普段どのように情報収集しているか、直接会って聞いたりしていますね」

加えて、思考力を鍛えるために「アナロジー(類推、類否)」が必要だと言います。アナロジーとは、特定の物事に対する情報を理解しやすくするために、他のものごとをなぞらえることを指します。石山氏はアナロジーを鍛えるトレーニング法も教えてくれました。

石山「まず紙に縦線と横線を引いて、4つの象限を作ります。そうしたら、それぞれの象限に4冊のジャンルの異なる本を置くのです。5分ずつ使って本を読んだら、さらに最後の5分で読んだ本の共通点を見つけて、今日から仕事に使える新しいアイディアを生むというトレーニングです。これは社会人1年目の時の最初の上司が教えれてくれたトレーニング方法でした。 私は昔からこれに近い思考法をしていて、学生時代も授業中に先生が言っていることと違うことをメモしていました。先生が言っていることと違うことをメモしているので成績は良くありませんでしたが(笑)、将来の研究につながる面白いアイディアが沢山生まれました。その結果、どういう研究をするか、どういう仕事につくかというキャリア選択にも役立ちました。人の思考の8割はアナロジーだと言われているので、みなさんもそれに近いことをやっているはずです。ぜひそれをもっと活用してみればいいと思います。 アイディアを出すというのは、AIではできないことなので、これからの時代に求められるスキルだと思います」

大きな課題に立ち向かうためにチームの協力が不可欠

超高齢社会という大きな課題に立ち向かうには、チームでの協力が不可欠だという。チームとしての指針を表すクレドについても、石山氏は教えてくれた。

石山「私たちはクレドを作成して、チームの指針を定めています。エンジニアの4分の1が外国人なので、英語のクレドになりますが、次のようなものです。 ①Cultivate Collective Awareness②Mission-Driven Teamwork③Elevate Your Craft④Tackle the Biggest Challenges⑤Above and Beyond Expectations ①は直訳すると『集合意識を啓発し合う』ということです。集合意識(Collective Awareness)は集合知(Collective Intelligence)になる前の段階です。特定の問題を解くには、いろんなことを知らなければいけません。そのためにいろんな人が集まって『この社会課題を解決した方が良いんじゃない?』、『このソリューションで解決できるんじゃない?』と意識を啓発し合うことが大事です。こういうことは人間が得意で、AIは苦手な領域です。 ②は『ミッション主導のチームワーク』ということになります。私たちの組織はとてもダイバーシティがあり、ひとつのゴールに向かって進むのが難しいのです。そのためミッションをしっかり定めることで、合意形成を図りやすくしています。ちなみに、意図的にダイバーシティがある組織を作っていて、理由は難しい社会課題に挑戦していくには、さまざまな領域の専門知識やスキルが必要だからです。 ③は『職能を磨く』」ということ。チームワークも大事なのですが、そもそも個々人のスキルが高いという前提が必要です。それぞれが自分の領域のスキルを磨いていくことで、自分の個性や強みというのも分かってきます。自分が何が好きなのか気づくことは、とても大事ですね。 ④は『最も大きな課題に取り組め』です。できる、できないではなくて、最も大きな課題にチャレンジすることをカッコ良いと思える集団でありたいと思います。大きな社会問題に取り組んでいるからこそ、簡単にはスタートアップで採用できないような優秀な人材が集まってきているのだと思います。 ⑤は『期待を超えていく』という意味です。課題を解決するということは、マイナスをゼロに戻すことですが、そこで終わらずにプラスに持っていくが大事だと思っています。取り組んだ問題にイノベーションが起きるようなことをイメージして取り組んでいます」

高いスキルを持つ個人が集まり、集合意識やチームワーク組織。みんなで良くご飯を食べに行くのも組織の特徴だと話してくれる石山氏。AIの会社で一番の飲みに行くのではないかとまで言うが、AIを扱っている会社だからこそ、アナロジーやアイディア創発など人間しかできないことをやる会社になったという。

最後に、起業を考えている人へのアドバイスを聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

石山「起業する人の中には、特定の社会課題を解決するために起業する人がいると思いますが、決まった答えがあると思っていると辛くなってしまいます。スタートアップを成功させるのはとても難しいことです。答えがあるのかないのか、解決にたどり着けるのかその過程まで含めて楽しんでもらえばと思いますし、楽しめる人はベンチャー企業に向いていると思います」

超高齢社会という前人未到の課題に対し、AIでの社会アップデートを図るエクサウィザーズ。決して楽観視できる未来ではないが、そんな大きな課題だからこそ、石山氏にとってはチャレンジのしがいがあるようだ。

執筆:鈴木光平編集:Brightlogg,inc.撮影:高澤啓資

無料メールマガジンのご案内

無料のメルマガ会員にご登録頂くと、記事の更新情報を受け取れます。プレスリリースなどの公開情報からは決して見えない、スタートアップの深掘り情報を見逃さずにキャッチできます。さらに「どんな投資家から・いつ・どれくらいの金額を調達したのか」が分かるファイナンス情報も閲覧可能に。「ファイナンス情報+アナリストによる取材」でスタートアップへの理解を圧倒的に深めます。