コラム

コインチェック大塚雄介、スタートアップ新時代の協調戦略を語る

2019-10-10
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

新たな産業を作ることがスタートアップの使命である以上、既存の法律やレギュレーションとのコンフリクトを避けられない場合もある。規制が整備されていない分、悪用を考える人も存在し、時には大きな事故に発展し、各種メディアを賑わせることもある。記憶に新しいのは2018年に起きたコインチェックのNEMの不正流出だ。仮想通貨業界でなくても、最新のテクノロジーや新しい産業に携わっている起業家の中には「明日は我が身」と思った方も多いのではないだろうか。今回はコインチェック執行役員の大塚氏に、スタートアップが気をつけるべきことについて話を伺った。新しい産業を作っていくスタートアップ経営者にこそ、ぜひ参考にして欲しい。

大塚雄介(おおつか・ゆうすけ)コインチェック株式会社 執行役員マネックスグループ株式会社  執行役員2006年、株式会社ネクスウェイ(元リクルート)にて、主にBtoB新規事業開発に従事。新規事業戦略立案・法人営業・Bマーケティング・UX設計・UI開発まで一貫して行う。2012年、レジュプレス株式会社(2017年に「コインチェック株式会社」に社名変更。)に参画し、人生のストーリーを語るサービス「STORYS.JP」の運営に携わる。2014年8月仮想通貨取引サービス「Coincheck」を開始。主に、マーケティング・事業開発。

バブルが去った今だからこそ、仮想通貨を社会に浸透させていく

まずは仮想通貨業界のこれまでについて話を聞いてみたい。大塚氏が仮想通貨ビジネスに携わって約5年が経つというが、この5年で業界はどのように変わったのだろうか。

大塚「私が仮想通貨に携わり始めた5年前、仮想通貨はほとんど認知もされておらず、市場もほとんどないような状況でした。それが2017年にビットコインの価格が短期間で200万円を超えたことで、仮想通貨ないしはブロックチェーンへの期待値が急速に高まったのです。ちょうどガートナー社が提唱するハイプ・サイクルでいう『過度な期待』のピーク期のような状況でした。その期待値の高まるスピードは、私の感覚的にはインターネットの3倍ぐらいだと思っています。インターネット業界もドッグイヤーと言われて、他の産業の何倍もの速さで成長してきましたが、仮想通貨はそのさらに倍の速さです。なぜ仮想通貨がそれほどのスピードで成長したかというとインターネットの黎明期に成功したシリコンバレーの起業家やベンチャーキャピタルが、自分たちが得た巨大な富をいち早くブロックチェーン企業や仮想通貨に投資したというのがひとつの理由ではないかと考えています。それにより、お金だけでなく優秀な人々も業界に集中したため、驚異的な成長を遂げたのが仮想通貨業界でした」

業界にいた5年で、その驚くべき成長スピードを感じてきた大塚氏。そのピークが2017年だったという。驚異的なスピードで成長した仮想通貨はその後どうなったのだろうか。

大塚「2017年当時はどこに行っても『どの仮想通貨買ったの?』という話がされるほど、IT業界に関係の無い人も仮想通貨に夢中でした。みんなが仕事の休憩時間になる度に、スマホの画面にかじりつくようになり、一気にクリティカルマスを超えていったのです。しかし、その大半は技術的可能性や金融リスクを深く学ぶことなく仮想通貨を買っていたため、ビットコインの価格が暴落した後に学び始める人も多かったです。ハイプ・サイクルでいう幻滅期です。啓蒙の坂を登り始め普及期に向けて動いているというのが今です」

一度大きく流行し、その後勢いが落ち着くことは仮想通貨に限った話ではないと大塚氏は話す。同じような現象は「クラウド技術」のときも起きていたという。

大塚「クラウド技術も出始めのころは、みんなよく分からずに『クラウドがあればなんでもできる』と思っている時期もありました。クラウドというワードが魔法の杖のように語られ、大多数の企業が『クラウドを使って何かしよう』という雰囲気が漂っていました。ブロックチェーンも一時はバズワードとして持て囃され、ブロックチェーンでなくてもいいビジネスを、ブロックチェーンを使ってやろうとする会社が後を絶ちませんでした。今はその傾向も薄まり、しっかりブロックチェーンの特性を活かしたビジネスをしようという機運が高まっているのをみると、2019年はバズワードの時期を超えたのだと思います。本来であれば、ブロックチェーンはインフラレイヤーの技術なので、誰も意識することなく使われるのが自然です。今でいえば、インターネットを使うのに『TCP/IPってすごいよね』などとは誰もいわないですよね。本当はみんなインフラのことは分からなくてもいいのに、無理して分かろうとしている節もあると思います。誰もブロックチェーンについて語らなくなった時に、初めて社会に浸透したと言えるんじゃないかと思います」

ブロックチェーンも、これまでの革新的な技術が辿ってきたのと同じ変遷を辿っているようだ。もうひとつ大塚氏が例えとして挙げたのが「ブラウザ」である。

大塚「ブラウザが発明された1999年当時、ブラウザによってデジタル空間に初めてサイバー空間があることを一般の人々が認識できるようになりました。それまでは、サイバー空間というのは黒い画面でしかなく、コマンドラインを打てる人にしか認識できなかったのです。Netscape Navigator(ネットスケープ ナビゲーター)というブラウザが発明され、一般の方をサイバー空間にナビゲートしました。その10年後にFacebookやAmazon、Googleが登場するわけですが、当時はSNSやECという概念もまだなく、当時、SNSやECの価値に気づける人はほとんどいなかった。しかし、なんとなく『インターネットすごい』という熱狂は確実にあった。これと同じことが今ブロックチェーンでも起きています。取引所が発明されたことで、これまで技術者しか認知できなかったサイバー空間のお金(資産)を、一般の人々が認知できるようになりました。現在、仮想通貨産業は22兆円を超える産業になっていますが、サイバー空間にそれだけの産業があることを取引所を通して認知できるようになったのです。インターネットの黎明期にGoogleやAmazonの登場を予想することが難しかったように、今もまた、ブロックチェーンを活用したどんなサービスができるのか見通せている人は多くありません。裏を返せば、見通せている人が少ないからこそ、ブロックチェーンらしさを活かしたサービスを提供できれば、大きな市場を獲得できる可能性がある産業だと思います」

機能がコモディティ化することは避けられない

大塚氏はブラウザを例に挙げたが、ブラウザ業界はその後IEやFirefoxなどの競合がまたたく間に現れた。しかし、結局Chrome、Safari、Firefoxに寡占化された歴史がある。取引所も同じ変遷を辿るというのだろうか。

大塚「取引所もたくさんの企業が参入してきていますが、長期的な視点にたてば、機能や商品はある程度コモディティ化されていくと思います。最終的には業界で上位3つくらいのサービスがほとんどのシェアを占める構図になっていくのではないでしょうか。それは取引所に限らず、携帯電話産業でもそうですし、どの産業でも同じだと思います。そして生き残るのに必要なのは優れた機能を作るだけではなく、いかにいいユーザー体験を作れるか、そしていかに業界のスピードに順応できるかです。ダーウィンの進化論と同じ、強く賢いものたちが生き残るのではなく変化に適応できるものたちが生き残る」

機能や商品がコモディティ化していくのであれば、他社との差別化は難しくなっていくはずだ。その中でコインチェックはどのように差別化をはかっていくのだろうか。

大塚「どの産業でも機能は似たり寄ったりになってしまうのは仕方ありません。なぜならユーザーが求めていることは本質的には同じだからです。しかし、同じユーザー体験が作れるわけではありません。手前味噌ではありますが、Coincheckアプリは、『使いやすい』という評価をいただいています。表面的なデザインは、真似をして同じようなものを作れるかもしれませんが、ユーザー体験まで改善し続けることは容易ではありません。エンジニアやデザイナーはお互い連携し、試行錯誤しながら改善を積み重ねてきた結果であり、コインチェックの成長を支える大きな強みだと思っています。クラフトマンシップ(職人技)の積み重ねがCoincheckの『使いやすい』を生み出しています。昔で言えばソニーがウォークマンを開発した時、AppleがiPodを開発した時も同じだったと思います。エンジニアとデザイナーがお互いに連携しクラフトマンシップを積み重ね素晴らしいユーザー体験を生み出した。歴史は学べることはたくさんあります」

歴史から学べることは多い

未来のことは分からなくても、過去から学べることは多いと話す大塚氏。複雑な業界ほど、歴史を学んでその背景を知ることが大事だという。

大塚「仮想通貨というのは『テクノロジー』と『法律』と『金融』の交差点にある産業です。一つひとつが深い専門性がある上に、その組み合わせのため未来を予想するのは困難です。しかし、なぜ今そうなっているのか歴史を紐解いて、理由を学び直すと未来を予測するためのヒントが見えてくるものです。先程話した上位3つのサービスが大きなシェアを占めるというのは証券会社やFXを見てもそうですし、携帯電話産業にも見られるように、機能が時間と共にコモディティ化していくのも避けられない事実です。そのような事実を受け入れて、自分たちの立ち位置を認識していれば、どこにリソースを割けばいいのか自ずと見えてきます」

テクノロジーも法律も金融も、どれも参入障壁の高い業界だ。参入するのが難しい一方で、うまく行けば大きなビジネスチャンスにもなるのも事実。そのような業界にチャレンジする際に気をつけることはどのようなことだろうか。

大塚「まずは他者と協調することです。ひとりでテクノロジーと法律と金融を学ぶのは無理ではないにしろ、大変時間がかかります。だからこそ、全くバックグラウンドの違う人達同士が協力することが重要になってきます。例えば、私たちはマネックスグループやマネックス証券で活躍してきた方々と一緒に仕事をしているのですが、歩んできた道のりは全く違います。サービスのリリースひとつとっても、ITスタートアップはリーン的な考え方をする一方で、金融業界はウォーターフォールな考え方で仕様をしっかり作ってから開発をするという風に考え方や進め方が異なるのです。しかし、これはどちらも正しいのであって、相手を否定したり、一方の考えを押し付けていたりしていても良い成果は生まれません。まず、お互いが違う道のりを歩んできたためにバックグラウンドが異なることを認識しなければなりません。その上で、相手がなぜそのような判断をするのか、背景を理解して歩み寄ることが重要です。開発だけでなく、法律のレギュレーションなど、意見が異なるシーンはよくあります。そのような時に相手の背景にあるものを理解して協調し、状況に応じてどれが1番良い結果を生む方法なのか一緒に考えていくことが重要であり、我々のような『テクノロジー』と『法律』と『金融』の交差点にある業界には必要なことです。インターネットで完結するビジネスであれば、同じ価値観の人が多いので、あまり『違い』を気にしなくても良かったのですが、これからはX-Techの時代です。インターネット業界と、それ以外の様々な業界(金融、リテール、法律、行政など)の人々が一緒にビジネスをするようになっていきます。事業が大きくなれば、例えばスタートアップしか経験していない若者と、大企業の大人がいかに協調できるかが成功のカギになっていきます。こうしたバックグラウンドの異なる者同士が、成果を出すためにお互い歩みよることが重要です。このようなスキルは、これからのビジネスマンには必要になっていくと思います」

同じ業界であってもコミュニケーションに悩んでいる人もいる中で、全く違う業界の人間と仕事をしていくことはハードルが高い。ではいったい、歩み寄るためにはどのようなことを注意すればいいのだろうか。

大塚「お互いにリスペクトし合うことです。年次が高い人はもちろん知見や経験値がありますし、若い人には発想力やリスクをとってきたという勇気があります。そういうところをお互いにリスペクトできるかが大事だと思います。頭ごなしに『あのやり方はだめだ』といっていては、うまくいきません。私たちも今回マネックスのグループ入りを果たしましたが、互いに文化が全く違います。私達にはコインチェックを成長させてきたプライドがありますし、マネックスにも20年事業をやってきたプライドがあります。しかし、お互いに歩み寄って話さなければ、これからの成長はありえません。これまでいくつかグループ入りした会社の話を聞いたことがあるのですが、失敗したケースの共通項は、お互いのプライドがぶつかっていることのように思いました。表面上上手く取り繕って仕事をしていても、心の底でお互い見下しています。失敗したケースのほとんど根本原因がここにあるのではないでしょうか。スタートアップはIPOだけでなく、大企業にグループ入りをして成長していくという戦略オプションもあります。大手のグループに入って独立単体では得難いリソースを確保することで成功確率を上げることができるかもしれません。しかし、その時に不毛なプライドのぶつかりによって失敗していては、互いにデメリットしかありません」

実際に大塚氏は、今回のマネックスグループ入りによってCOO・取締役を辞めて執行役員になった。周囲からは『悔しくないか』と聞かれることもあるというが、そんな気持ちはまったくないと話す。

大塚「自分たちのプライドと、会社の成功どちらが大事かという話です。そのプライオリティについて、少なくともお互いのトップ同士が会社の成功にコミットしていなければ、成長は望めません。私がCOO・取締役でなくなっても、お客様は何も困りませんし、今の布陣がコインチェックを成長させるベストな布陣です。自分の肩書よりも会社を伸ばすことのほうがプライオリティが上ですからね。自部門のメンバーにも、この会社になんのために集まっているのか、よく問いかけています。コインチェックを伸ばすことを第一に考えていれば、自然と答えが見えてくるはずです。そのような視座を持って協調していかなければ、このような複雑な産業で成功するのは難しいでしょう」

協調の重要性の例として、大塚氏は経験豊富なシニアやミドルエイジと若者の組み合わせをあげる。

大塚「私たちがまだ10人くらいの組織だったころ、楽天銀行の常務までやっていた方に顧問に入ってもらっていました。その方は当時50代の後半でしたが、私たちのことをリスペクトしてくれましたし、もちろん私達も彼のことをリスペクトしていました。そのような調和がなければ仮想通貨業界でここまで成長させるのは難しかったと思います。これは世界の成功企業に目を向けてもそうです。Googleは20代のセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジという創業者と途中から参画した40代のエリック・シュミットが加わり、3人が調和して協力し成長を遂げました。Facebookも20代のザッカーバーグだけでなく、40代のシェリル・サンドバーグががいてこその成功です。やはり若い人だけでは成功率は下がりますし、特に、大きな産業に挑戦する企業には、年の離れているパートナーと協力することは大事だと思います。私と和田も10歳離れています、また、マネックスグループの会長である松本やコインチェックの社長である勝屋とはもっと歳が離れています。しかし、お互いに遠慮なく意見していますし、それが会社の成長に必要なことだと思っています。成長しているスタートアップを見渡しても、若者の役割と大人の役割が協力し合っている経営チームの印象があります。逆にうまくいっていない会社は、若い起業家が若気のいたりで行動してしまうのが目立ちます。産業規模が小さいうちは問題が健在化し難いのですが、大きな産業、大きな組織になると問題が健在化してきますので、もったいないと思ってしまいます」

年齢の違う人同士が手を取り合うのは、よくいわれる「多様性のある組織」に繋がる話だ。多様性は年齢だけの話ではない。

大塚「中途採用だと、世代だけでなく職種に関しても様々なバックグラウンドを持つ方が集まります。大事なのは自分と違うバックグラウンドを持った方をいかに受け入れられるかということ。例えばリクルートは、以前は純血主義が強くて生え抜きの社員でなければマネージャーになるのは難しい文化がありました。しかし、海外に事業展開したり、IPOを経験することで純血主義の色は薄まったようです」

海外の話が出てきたが、世界の多様性を受け入れる文化はどのようなものなのだろうか。

大塚「トランプ政権が誕生して以降、世の中が保護主義に傾いていく傾向にあるといわれています。そんな中でブロックチェーンのようなテクノロジーが世の中に浸透していけば、政治よりもテクノロジーを信じる方が増えていきます。

もともと、仮想通貨は、中央集権的な発想への反発から生まれたといわれています。それが、あっという間に世界に広まり今のような巨大なマーケット規模ができたのです。それもたった10年の間に起きたことです。私もメンバーには『10年後、自分たちが産業を作ったんだ、と誇りを持って言える仕事をしよう』といっています。そう考えれば、このタイミングで日本で仮想通貨に携われていることはとても幸運です。例えば、IT革命時代シリコンバレーがなぜすごいかというと、ビル・ゲイツなどの起業家がたまたまあの時代にシリコンバレーにいたからなんです。当時はパーソナルコンピューターの波が世界を変え、続いてインターネット、その後に訪れた波がスマートフォンであり、その次がブロックチェーン、仮想通貨といわれています。生まれる時代は選べませんが、今の時代に仮想通貨に携われることは本当に運のいいことです。もちろん産業が出来上がるフェーズなので、アップダウンも激しいです。このタイミングで携わりたいという方は、好奇心の強いタイプの方が多いように思います」

アップダウンの激しい仮想通貨業界で学んだこと

アップダウンの激しい仮想通貨業界。国内外でさまざまな事件、事故が起きており、日本でその最たるものがコインチェックの事故だろう。大塚氏はあの事故経て、次世代を担う起業家に何を伝えたいのだろうか。

大塚「私が若い起業家やスタートアップの人に伝えられることは、スタートアップも、サービスが成長するに従って社会と折り合いをつける必要があるということです。スタートアップは最初、自分たちのエゴから始まります。『世界を変えたい』、『この課題を解決したい』、創業者の様々な内なる動機から始まります。しかし、ある程度の規模になると、エゴだけでやれるものではありません。社会を変えるということは、必ずしもプラスの影響を与えるだけではありません。マイナスの影響を与えることも想定して、それでもなお、大義を求めるかが問われると思います。例えばFacebookもフェイクニュースが流れて問題としてとりあげられていましたが、改善の余地があるにしろFacebook自体が全て悪いわけではありませんよね。それでも、それだけ社会に影響力のあるサービスを作るということは、責任も生まれるということです。私は事故が起きる前から警察と連携して不正が起きないような取り組みを行っていました。警察署に何度も赴き、仮想通貨がどのようなものか説明をしていたのです」

若い起業方たちへの具体的なアドバイスはなんだろうか。

大塚「成長を求めると同時に、リスクを洗い出し可能な限り潰していくということです。ただし、リスクを気にしすぎても事業のブレーキになってしまいます。バランスをとりながら進めていくのは重要ですし、我々も試行錯誤しながらやっています」

新しい産業を作るには関係業界を巻き込んでいくことが必至

さまざまな業界に影響を及ぼす仮想通貨。しかし、その構造は複雑で理解してもらうことは難しい。関係業界の理解を得るために走り回った大塚氏は、どのようなことを意識して説明してきたのだろうか。

大塚「大事なのは相手を理解することです。例えば仮想通貨とコンフリクトを起こす法律があったとしても、その法律には作られた理由があり、それを理解しなければなりません。そのために法律やお金の歴史も勉強しました。ある時、財務省の方に、仮想通貨を説明し怒られたことがあります。相手は人生をかけて、貨幣制度を担ってきた人です。その方からすれば金融政策の影響力を低下させる仮想通貨を受け入れている日本政府の方針も受け入れがたい様子でした。『金融政策をなんだと思っているんだ』と怒る気持ちも理解できます。そんな方に真っ向からビットコインの思想を熱く語っても理解を得るのは無理でしょう。ですので『たしかに金融政策は日本円を安定させるためにありますし、仮想通貨のようなものがあれば金融政策がしづらいですよね』と相手に理解を示さなければなりません。その上で『しかし、今は仮想通貨に可能性を感じる若い人も増えてきていますし、これからの選択肢のひとつとして有り得るかも知れませんよね』と聞くと、相手も少しづつ納得してくれます。相手の価値観に敬意を払い、その上で事実に目を向けていただく必要があります。仮想通貨の事業をやってわかったことは、法律も変えることができるということです。普通に社会人として働いていると感じないかもしれませんが、今の法律ができた時と今では、私達の生活も大きく変わっている部分もあります。特にテクノロジーの進化によって、ギャップが広がってきていると感じています。そこで、なぜ当時そんな法律ができたのか理解することが大切です。今私たちが当たり前だと思っていることも、過去にはその当たり前が作られた理由があるものです。特に30代以上の大人は、そのような背景を知って話さないといけません」

スタートアップで働くことの魅力は成長チャンスの多さ

新しい産業を作る過程を経験し、その苦しさも味わってきた大塚氏にこれから起業、スタートアップに飛び込む人へのメッセージをもらった。

大塚「これから起業するという方は、大きなサービスを作りたいと思っていますし、社会を変えたいと思っていると思います。創業当初はグロースさせることで頭がいっぱいかもしれませんが、サービスが大きくなっていけば自ずと責任も大きくなっていくものです。その変化タイミングをいかに早い段階で感じられるかが大事だと思います。また、法律のように変えるのが難しいと思えることも、実は変えることができるので、制限を持たずにやって欲しいです。これは仮想通貨という事業をやったからこそ分かることです」

起業やスタートアップへの転職に二の足を踏んでいる方に対してはどうだろうか。

大塚「私も元々サラリーマンで家のローンもありました。安定収入がなくなるのはとても怖かったのを覚えています。しかし、実際に飛び込んでみると大したことはありません。重要なのは、いかに自分の選択に覚悟を持てるかです。言い訳は全てゴミ箱に捨ててしまって、やりたいことにチャレンジしてもらいたいです」

スタートアップのように、新しい産業を作る会社には様々な危機が訪れる。コインチェックもその例外ではないが、それでもチャレンジをするべきだろうか。

大塚「あの時の事故は2018年1月26日に起こったのですが、その後も多くの方がコインチェックに入社してきてくれました。事故前や事故直後に入社してきたメンバーはすごい胆力がありますし、今も多くのメンバーが会社を支えてくれています。メンバーの中には、あの経験を通じて大きく成長した者もいます。スタートアップは良くも悪くも変化の激しい環境だと思います。また、人数の少ないうちは自分の専門外の業務もやらないといけないことも多々あります。そういった意味でその機会をそれを学びと捉えられる方にとっては、チャンスの多い環境だとも思います」

執筆:鈴木光平編集:Brightlogg,inc.撮影:戸谷信博

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