コラム

クラウドRPA「cobit」開発のBizteXと嶋田光敏氏の軌跡

2018-10-18
STARTUPS JOURNAL編集部
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BizteX 嶋田 光敏CEOインタビュー ビジネスでも重要なのは「自分の強みを理解して活かすこと」

バックオフィス業務の定型的な業務をロボットに代行させるシステム「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」。これまではオンプレミス(自社でサーバーやネットワークを管理すること)が一般的だったため、導入費用が高く大企業でもなければ導入しがたいシステムだった。

そんなRPAにクラウドを用い、これまで価格の面でRPAを導入できなかった企業にもサービスを提供している会社がある。

それがBizteX株式会社。2015年7月に創業し、最近(2018年8月)ではシリーズAラウンドで4億円もの資金調達を行った。代表の嶋田氏はソフトバンクという看板を捨て、40歳を過ぎてから起業を決断している。今回はそんな嶋田氏が向き合ってきた苦悩の日々と、今のビジネスモデルにたどりつくまでのストーリーをお届けする。

サッカーと営業経験で身に着けた成り上がり根性

BizteX 嶋田 光敏CEOインタビュー ビジネスでも重要なのは「自分の強みを理解して活かすこと」
嶋田光敏(しまだ・みつとし)ーBizteX株式会社代表取締役 Founder/CEOJフォン株式会社、Vodafone株式会社、ソフトバンク株式会社で通信商材を企業向けに提供する法人事業に従事。営業時代に達成率No.1を獲得。2012-15年、法人事業の新規プロジェクト、新規事業開発の室長を歴任。法人向け電力小売り、IBM Watson、法人版Pepperなど数多くのプロジェクト立ち上げを経験。 2015年BizteXを創業。

香川県で生まれ育った嶋田氏。小学校時代に読んだ「キャプテン翼」でサッカーに憧れを持つも、学校にサッカー部がなかったため、陸上部で汗を流していたという。結局、サッカーを本格的に始められたのは高校に入学してからのこと。

嶋田「入学したのが香川県でも2番目にサッカーが強い高校でした。関西からも選抜クラスの選手を集めている学校だったのですが、そんな中で私は素人としてサッカーを始めました。やっと好きなサッカーができるということもあり、自分なりに頑張って3年生ではベンチに入り、副キャプテンを務めました」

素人から副キャプテンまでのぼりつめた理由について、「自分の強みを理解して活かしたこと」と語る。

嶋田「私は中学では陸上部で長距離をやっていたので、サッカー部の中では先輩を含めて誰よりも体力がありました。その強みを活かして誰よりも練習することができましたし、プレイにも活かすことができたので実績を残せたのだと思います」

この時の這い上がっていく経験が原体験となり、今にも繋がっているという。その後、社会人になっても働きながらサッカーを続けていた嶋田氏。アパレルの会社に入社するも、サッカーへの想いを断ち切れず退社。母校のサッカー部のコーチになり、子供たちにサッカーを教えながら自分でプレーする道を選んだ。

嶋田「コーチを1年くらい続けましたが、正直生活するまで至りませんでしたし、もう一度働きながらサッカーをすることにしました。そこで当時のJ-PHONE(現ソフトバンク)に転職し、通信系のBtoBの営業にチャレンジすることにしたのです。 入社からすぐにJ-PHONEがボーダフォンに買収されて外資系の営業スタイルになり、高い成果も求めらるようになりました。入社したての頃は全く成果を出せなかったのですが、3~4年頑張ってみると成果が出始めて目標達成率で全国No.1をとることができました。このときの経験もサッカーと一緒で、ゼロから這い上がっていくというチャレンジ精神の礎になっています」

ボーダフォンでの営業では自分の営業スタイルを確立できたのが、成功の秘訣だと語る嶋田氏。

嶋田「ボーダフォンでの営業では自分の中でセールストークの型を作れたのが自然と強みになりました。当時はエンジニアのパートナーがいたので、彼にITやネットワークについて教えてもらって他に負けないセールストークが作れましたね」

起業を意識することになったソフトバンク時代

BizteX 嶋田 光敏CEOインタビュー ビジネスでも重要なのは「自分の強みを理解して活かすこと」

その後、ボーダフォンがソフトバンクに買収されるタイミングで、東京転勤のチャンスを掴んだ嶋田氏。起業を見据えて料金プランを決める企画の部署や、販売代理店にiPhoneの売り方を教える部署、新規事業部など積極的に様々な業務を経験して回った。そんな中、起業を意識するきっかけとなった出来事が二つあったという。

嶋田「2010年くらいから、社長の後継者を育てる『ソフトバンクアカデミア』というプロジェクトが始まりました。私は1期目に応募して落ちて、2011年の2期目に入ることができたのです。そこで社長の帝王学を学んだり、社長が考えている経営課題に対してピッチするという経験を経て一段と起業への意識が高まりましたね。 社長の言葉で一番好きなものに『自分の登る山を決めろ』というのがあって。どういうことかというと、自分の一生をかけてやり遂げることを見つけるということなんです。ソフトバンクでの企画の仕事などは面白かったのですが、その言葉を聞いた時に『俺は社長が山を登るのを手伝っているんだな』って思えて。その時に後悔しないように自分の事業をしようと思えたんです」

ソフトバンクアカデミアがきっかけで、MBAをとるために2012年にグロービスに通い始めた嶋田氏。そこでも起業の大きなきっかけがあった。

嶋田「グロービスには経営知識を学びに行ったんですが、堀さん(グロービス大学 学長)が『志を語れ』と言うんですね。学んだ経営知識をどう社会のために使うか、それを自分の言葉で語れということなんです。それが社長の言っていた『登る山を決めろ』と繋がって、自分の中で社会のために何をするかという気持ちが芽生えました。 グロービスは2015年に卒業しました。それまでは、仕事終わりにグロービスに通っていたので、その時間をチャレンジに使うべきだと思ったんです。年齢もちょうど40歳になっていたので『この歳でチャレンジしなかったらずっとしないだろうな』って思って」

起業への迷いを断ち切った友人の一言

BizteX 嶋田 光敏CEOインタビュー ビジネスでも重要なのは「自分の強みを理解して活かすこと」

それから嶋田氏は本格的に起業への照準を合わせたものの、まだ心の中には迷いがあった。その迷いを断ち切ったのはソフトバンクアカデミアの同期での飲み会で、友人が言ってくれた一言だった。

嶋田「彼はソフトバンクでも事業を立ち上げ、今は自分で会社も興しているんですが、そんな彼にこう言われたんです。 『嶋田さんはいつもこんなことがしたいと志は語るけど、それに向かって全然行動していないよね。社内では実績もあってみんなに頼られる存在だけど、自分の本当にやりたいことをやっていない。だから会社辞めて起業しろ。』 僕も酔っぱらっていたこともあって『いついつまでに会社辞める』って宣言したんです(笑)それで本当にその年の上期末に辞めると上司に話しました」

会社を辞めることが先行していたために、ビジネスモデルを構築せずに飛び出した嶋田氏。友人に相談しながらビジネスモデルを作り、投資家たちにプレゼンするも断られる日々が続いたそうだ。

会社を辞めることが先行していたために、ビジネスモデルを構築せずに飛び出した嶋田氏。友人に相談しながらビジネスモデルを作り、投資家たちにプレゼンするも断られる日々が続いたそうだ。

嶋田「今思えば、投資を断られ続けた当時のビジネスモデルは友人に言われて作ったものだったので、本当に心からやりたいことではなかったことが原因でした。後から気付きましたね。しかもその時はC向けのビジネスモデルだったのですが、私はずっとB向けの営業や企画をしていたので強みを活かしきれませんでしたね。結局その後もいくつかビジネスモデルを練り直したんですが、結果的にフェードアウトしていきました」

当時は何度もビジネスモデルのピボットを繰り返したという。ピボットするタイミングについてはこう語る。

嶋田「最初は自分なりに考えて資料を作ってユーザーヒアリングなどをするんですが、1ヶ月くらいすると途端に進まなくなるんですよね。ヒアリングした結果をもとに友人のエンジニアにお願いして、プロトタイプを作るところまでいくんですが、そこからなかなか練れなくなるんです。自分が得意じゃない領域のことだから、仲間に自信を持って伝えられないということもあるんですが。今のビジネスをやり遂げられたのは、自分で考えたビジネスであることと、自分の強みを活かせるtoBのビジネスだったからだと思います」

クラウドRPAというアイディアとCTOとの出会い

クラウドRPAというアイディアとCTOとの出会い

嶋田氏は、ビジネスモデルの検討と並行し、起業後しばらくはソフトバンクでの講師や、友人の新規事業立ち上げのコンサルティングを行っていた。クラウドRPAというアイディアに行きついたのはそんな時だった。

嶋田「いろんな会社を見ていると、定型業務を山ほど手入力していたんですね。ソフトバンクにいた時も、データ入力とかをたくさんしているのを見ていたんですが、ソフトバンクみたいなIT企業でもこんなことしてるなら、他の企業でも同じだろうなって思いました。その課題を解決したいって思ったのが始まりだったんです。 調べてみて解決策としてRPAというものがあるのを知ったんです。ただ、オンプレミスで動かすもので導入費用も高く、誰でもが導入できるものではないと思いました。それでクラウドを使えば、誰でも気軽に使えてコストも下げれると思って『クラウドRPA』に着想したんです」

そのアイディアを持って経産省が開催しているイノベーター育成プロジェクト「始動2016」に参加した嶋田氏。目的は2つあった。

そのアイディアを持って経産省が開催しているイノベーター育成プロジェクト「始動2016」に参加した嶋田氏。目的は2つあった。

嶋田「『始動』では上場企業の社長やVCの方にメンタリングを受けられるので、このアイディアをブラッシュアップしようと思ったのが一つ。もう一つはエンジニアをはじめとした仲間を見つけに行くのが目的でした。その中で2度ほどメンタリングを受けた方にエンジニアの方を紹介して頂いたんです。ちょうどエンジニアの彼も現職の仕事を辞めるタイミングだったので、私の構想にも共感してくれました」

その後、何度かお酒の席を重ねていく中で、CTOとして迎え入れるきっかけになる瞬間があった。

嶋田「私はエンジニアの目利きができなかったので、彼にCTOとは何か聞いたんです。すると彼は3つの要素を答えてくれました。『高い技術力を持っていること』『エンジニアの文化を作れること』、そして3つ目が『自分より技術力のあるエンジニアを連れてこれること』。その答えに感激して1週間後、共同創業者としてビジネスをしてもらうことをお願いしてCTOになってもらったんです」

起業はサラリーマンの100倍苦しくて100倍楽しい

BizteX 嶋田 光敏CEOインタビュー ビジネスでも重要なのは「自分の強みを理解して活かすこと」

40歳をすぎて、起業した嶋田氏。これからスタートアップに飛び込もうとしている人、起業を考えている人にメッセージをもらった。

嶋田ソフトバンクにいた時はお金もブランドもあって、お客さんもいたのでビジネスをしていてもすぐに動けました。まるでスーパーカーで走っているような感覚でしたが、それは勘違いで、起業するとブランドもお金もお客さんもいなくて、車どころか走る筋肉すらないことに気付かされました。俺はこんなもんなんだと思わされることで、友達に仕事をもらったりして生きる力を身につけていったんです。ビジネスモデルを作って、仲間を作った今となっては服ぐらいは手に入れた感じですね(笑)」

また転職市場においても起業のメリットを語ってくれた。

嶋田「仮に失敗してまた企業に就職することになったとしても、普通のサラリーマンに負ける気がしませんし、私が採用するにしても起業経験のある人を選ぶと思います。なので、起業を考えている人にはぜひ起業して欲しいと思います。大企業で働きたい人にとっても起業はプラスの経験になると思います」

執筆:鈴木光平取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:三浦一喜

※現在BizteXでは採用強化をしております。

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