コラム

「軸足を半歩ずつずらし成長を」アペルザ・石原誠が伝えたいこと

2018-07-17
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
【アペルザ石原誠CEO】インターネットで製造業の未来を変える。“点”と“点”とを繋いで描く、理想の姿への道筋

ものづくりとインターネット。一見まったく違う場所にあると考えられがちなふたつをつなぐ会社がある。2016年に創業した株式会社アペルザ(以下、アペルザ)だ。同社は、製造業に関わる企業が昔から抱えている資材調達や業務効率化の課題を、インターネットの力で解決しようとしている。業界のことを知り尽くしているからこそ出来る挑戦である。キーエンスに勤めた経歴を持つ代表の石原氏が、起業に踏み切った理由とはいったいなんだったのだろうか。これまでの経歴と合わせた、石原氏の苦悩・挑戦とそれらを乗り越えるためのマインドセットに迫った。

製造業のなかで独自に培ったインターネットの知識

■石原誠(いしはら・まこと)  ー株式会社アペルザ 代表取締役社長 新卒で株式会社キーエンスに入社。コンサルティングセールスに従事した後、社内ベンチャープロジェクトの「iPROS(イプロス)」立ち上げに参画。その後、株式会社ポリグロッツ、株式会社エデュートなどの創業を経て、2016年7月株式会社アペルザを立ち上げる。

石原誠(いしはら・まこと)ー株式会社アペルザ 代表取締役社長新卒で株式会社キーエンスに入社。コンサルティングセールスに従事した後、社内ベンチャープロジェクトの「iPROS(イプロス)」立ち上げに参画。その後、株式会社ポリグロッツ、株式会社エデュートなどの創業を経て、2016年7月株式会社アペルザを立ち上げる。

石原氏が株式会社キーエンス(以下、キーエンス)に新卒入社したのは1998年。「海外で仕事がしたい」「社会に大きなインパクトを与えられる仕事がしたい」。そんな思いをボンヤリと抱えていた石原氏は、大企業を中心とした就職活動を行なっていたと語る。石原 「就職氷河期だった当時の状況を考えれば贅沢な話ですが、大手通信キャリアや大手旅行代理店、商社などをはじめとした、いくつかの大企業から内定をいただきました」数々の内定を得たものの、結局これらの内定をすべて断るかたちで新卒入社を決めたのがキーエンスだった。いったい、どのような心境の変化があったのか。

石原 「最初は名の知れた大企業からの内定に喜んでいたのですが、どこに行こうかと考えていく中でいろいろと調査した結果、内定をいただいた大企業に対してピンとこないと感じ始めたのです。大きな企業すぎて入社後の自分の姿が想像できないというか、自分にあった活躍の場が本当にここにあるのかと疑問や不安が強まっていきました。そこで、小さくても活躍できそうな会社に目を向け、仕切り直しの就活を始めたのです。そのような中で、私の父が勧めてくれた会社の中にあったキーエンスを受けてみたんです。すると、若くてもバリバリ活躍する先輩の姿がそこにあったので、入社を決めました」

現在では社員数6,000人を超え、多くの人に知られる企業となったキーエンス。しかし、石原氏が入社を決めた当時は、まだ小規模の企業だったという。

現在では社員数6,000人を超え、多くの人に知られる企業となったキーエンス。しかし、石原氏が入社を決めた当時は、まだ小規模の企業だったという。当時は、ITバブルも終盤に差し掛かった2001年。インターネットや広告に対して“信用できない”と、世間の目は決して温かくはなかった。「なぜインターネット事業がイケると思ったのか」という編集部の問いに、石原氏は答えた。

石原 「安易ですが、普通に“便利”だと思ったからです。当時、既にインターネットで情報を集めてはいたものの、仕事のために使える専門的な情報が集まったサイトはまだありませんでした。それなら自分たちの手で、業務に必要なものを作り出そうという気持ちでした」

まったくの手探りでインターネット事業は走り出す。「HTMLとは?」「サーバーって?」など、初歩的な知識を身につけながらみんなで乗り越えていったのだ。

石原 「お客様あってのBtoBはみんなそうですが、目の前には自分たちのサービスの提供を待っているお客様が必ずいるんです。インターネット事業にも、私たちのサービスに期待し、待ってくれているお客様いました。辛くてもしんどくても、人のためならと逃げずに走り抜きましたね」

約16年間をキーエンスで過ごした石原氏。その後、教育系スタートアップを立ち上げた経験を持つ。経営者として今までを過ごした石原氏は、いったいここまでの経験をどのように振り返るのか。

約16年間をキーエンスで過ごした石原氏。その後、教育系スタートアップを立ち上げた経験を持つ。経営者として今までを過ごした石原氏は、いったいここまでの経験をどのように振り返るのか。

石原 「会社をつくるのって、人を育てるのと似てるんですよね。どういう会社をつくるのかとか、社内の雰囲気や空気感は経営者で決まってしまいますから。もう一度起業したとしても同じ会社を作りたいと思える、そんなカルチャーを持つ会社を作りたいですね。もともとキーエンス時代は、子会社の経営に携わっていたのですが、子会社であることにだんだんと限界を感じるようになったんです。別会社だとしても、価値観の原点は親会社のキーエンスにあります。だから子会社として人格をイチから作ることは難しかったです」

子会社経営ではなく、独立へと舵を切った石原氏は、創業当初こんなことを考えていたという。

石原 「最初に考えたことは、この会社が100年先にも残るかどうかです。長い時間を経ても社会から必要とされる企業であるためには、営んでいる事業以上に、文化や仕組みが重要だと思うからです。そういう意味で起業は、“実験”的な要素を持ち合わせているように感じます。原点には社会を動かしたい、人や文化を作りたいという気持ちがあり、教育分野を選んで起業しました」

自分の心が動く方へ、インターネットの力で製造業を元気にする道

キーエンスでのインターネット事業、そこからの教育領域でのスタートアップという転身で、石原氏はある“やり残し”を抱えていたという。

キーエンスでのインターネット事業、そこからの教育領域でのスタートアップという転身で、石原氏はある“やり残し”を抱えていたという。それは、“かつての勢いを失った、製造業をなんとかしたい”という思いだった。

石原 「製造業を枕詞にした日本の国力低下が叫ばれているなかで、インターネットの力を使って風向きを変えたい。そういった、漠然とした気持ちが事業内容よりも先にありました。また、一度製造業を離れ教育の分野で挑戦したことにより、改めて製造業のマーケットの大きさを客観的に捉えられるようになったことも作用したと思います」

「大きなことを成し遂げるには、20年がかり」当時、40歳手前だった石原氏の決断の裏側には、「人生で大きなことを成し遂げるには、60歳までに残された20年を捧げる必要がある」という覚悟もあった。教育系スタートアップは順調に成長しており、決して撤退するような状況ではなかった。それでも、製造業でやり残した気持ちは、石原氏の行動に影響を与えたという。ーー 自分が死ぬまでに本当にまっとうするべきものは、なんなのだろうか?悩みに悩んだ末の、決断だった。

石原 「やるべきことって、ロジカルに決まるものではなくて、どれだけ自分の心が動くのか、がすごく大切だと私は考えています。つまり、違和感を感じていた時点でじつは答えは決まっていたのかもしれません。だから今は、この製造業の道を選んだことをまったく後悔していません」

石原 「やるべきことって、ロジカルに決まるものではなくて、どれだけ自分の心が動くのか、がすごく大切だと私は考えています。つまり、違和感を感じていた時点でじつは答えは決まっていたのかもしれません。だから今は、この製造業の道を選んだことをまったく後悔していません」

教育分野から手を引き、ものづくりの世界へと戻った石原氏は、創業時に大切にした価値観がある。

石原 「どういう会社を、どうしてつくりたいのか、と自分にずっと問いました。そのなかで見つけた、3つのこだわりがあります。 ・社会に大きなインパクトを与えられる・海外に通用するサービスを日本発で作る・世代を超えて永続する これらを成し遂げようと思うと、製造業は市場規模が大きく、海外でも日本が強いため、ぴったりと当てはまるんです。なので先に対象市場を決め、事業としてなにをやるのかは後から決めました」

ものづくりの国と呼ばれて長らくたった日本。今後、石原氏が描く製造業の未来はいったいどのようなものなのだろうか。

石原 「今、生産設備や工場で使われるような装置や部品の多くは、中小企業が製造しています。日本の生産設備に対する海外の評価は非常に高いのですが、企業体力の影響もあり、中小企業ほど海外市場に目を向けられてはいません。こうした現状を、インターネットを活用することで変えたい。もっと手軽に諸外国にアピールできるようにしたい。アペルザ(Aperza)の意味*の通り、製造業をオープンにすることが我々のミッションなのです」

*アペルザの意味:Aperza(アペルザ)は、ラテン語で「open(オープン)」を意味する「aperto(アペルト)」という言葉に、職人ギルドを意味する日本語の「座」を加えた造語

最後に、これから起業やスタートアップへの転職を検討している方へ向けてのメッセージを伺った。

最後に、これから起業やスタートアップへの転職を検討している方へ向けてのメッセージを伺った。

石原 「どんな選択にも間違いはない、つまりどんな経験も次に活かせる。だから経験が重要ということを伝えたいです。私自身、過去を振り返ってみると、自分がなりたい姿に向かって、軸足を半歩ずつずらして成長してきた感覚があります。起業するときも、半分はキーエンスで学んだことを活かし、もう半分はチャレンジといった具合で、挑戦することを続けてきました。そしてロジカルだけではなく、“やってみたい”という気持ちを大切にした方が良いと思います。目の前に今あることを必死に頑張ることで、点と点がつながって、次への道筋が自ずと見えてくるはずです。その時に思いが重なったら、成功確率がグンと上がるはずだから」

執筆:鈴木しの取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:矢野拓実

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