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排泄ケアが介護現場を救う、ソーシャルスタートアップabaが10年越しに実現した介護ロボ

課題先進国と言われる日本には、少子化や地域の過疎化など様々な課題が山積みだ。そのなかでも高齢化は特に深刻視されている領域で、このまま高齢化が進めば2060年には生産年齢(15〜65歳)の現役世代1名で高齢者1名を支えることになると言われている。少子化も伴って社会保障の維持は難しくなり、介護の担い手も不足してしまうだろう。 すでに高齢化が始まっている日本では、介護課題の解決に取り組む企業は多い。本記事で紹介する株式会社aba(以下、aba)もそのひとつ。同社は介護現場の排泄ケアをロボティクスでサポートしている。介護現場で何が課題になっているのか、それをどのように解決しようとしているのか。創業者の宇井吉美氏にお話を伺った。課題先進国と言われる日本には、少子化や地域の過疎化など様々な課題が山積みだ。そのなかでも高齢化は特に深刻視されている領域で、このまま高齢化が進めば2060年には生産年齢(15〜65歳)の現役世代1名で高齢者1名を支えることになると言われている。少子化も伴って社会保障の維持は難しくなり、介護の担い手も不足してしまうだろう。

すでに高齢化が始まっている日本では、介護課題の解決に取り組む企業は多い。本記事で紹介する株式会社aba(以下、aba)もそのひとつ。同社は介護現場の排泄ケアをロボティクスでサポートしている。介護現場で何が課題になっているのか、それをどのように解決しようとしているのか。創業者の宇井吉美氏(以下、宇井氏)にお話を伺った。■宇井吉美(うい・よしみ) 株式会社aba 代表取締役 千葉工業大学卒。2011年、在学中に株式会社abaを設立し代表取締役に就任。中学生時代に祖母がうつ病を発症し介護者となる。その経験で得た「介護者側の負担を減らしたい」という思いから、介護者を支えるためのロボット開発の道に進む。特別養護老人ホームにて、介護職による排泄介助の壮絶な現場を目の当たりにした事を契機に、においセンサで排泄を検知する製品の開発を始める。

宇井吉美(うい・よしみ)
株式会社aba 代表取締役
千葉工業大学卒。2011年、在学中に株式会社abaを設立し代表取締役に就任。中学生時代に祖母がうつ病を発症し介護者となる。その経験で得た「介護者側の負担を減らしたい」という思いから、介護者を支えるためのロボット開発の道に進む。特別養護老人ホームにて、介護職による排泄介助の壮絶な現場を目の当たりにした事を契機に、においセンサで排泄を検知する製品の開発を始める。

「技術はより多くの人を救える」、祖母の病気をきっかけにテクノロジーの世界へ

宇井氏はなぜ介護課題に関わるようになったのか。きっかけは中学生の原体験にあった。それは同居していた祖母の病気だ。うつ病になった祖母を前に、宇井氏は何か力になりたいと考えたが、当時は何をして良いか分からなかった。その時に感じた戸惑いは宇井氏の心に残り続けたそうだ。 転機は高校2年生の時に訪れる。理系のクラスに進んだ宇井氏はあるオープンキャンパスで介護ロボットの存在を知り、「人を助けるロボットがいるんだ!」と驚いた。うつ病になった祖母を前に感じた戸惑いの解決法を求め、大学は千葉工業大学に進学。大学4年生で株式会社abaを起業し、介護者の負担を減らすために奔走している。 宇井「私のような原体験がある方は、介護や医療の現場へと就業しようとします。私も一度はその道を考えましたが、待てよと。もし医者や介護職に就いても、目の前の人しか救えず、一生に救える人数に限りがある。一方、テクノロジーは一度確立してしまえばノウハウを複製でき、より多くの人が救えます。だから私は技術の道へ進みました」宇井氏はなぜ介護課題に関わるようになったのか。きっかけは中学生の原体験にあった。それは同居していた祖母の病気だ。うつ病になった祖母を前に、宇井氏は何か力になりたいと考えたが、当時は何をして良いか分からなかった。その時に感じた戸惑いは宇井氏の心に残り続けたそうだ。

転機は高校2年生の時に訪れる。理系のクラスに進んだ宇井氏はあるオープンキャンパスで介護ロボットの存在を知り、「人を助けるロボットがいるんだ!」と驚いた。うつ病になった祖母を前に感じた戸惑いの解決法を求め、大学は千葉工業大学に進学。大学4年生で株式会社abaを起業し、介護者の負担を減らすために奔走している。

宇井「私のような原体験がある方は、介護や医療の現場へと就業しようとします。私も一度はその道を考えましたが、待てよと。もし医者や介護職に就いても、目の前の人しか救えず、一生に救える人数に限りがある。一方、テクノロジーは一度確立してしまえばノウハウを複製でき、より多くの人が救えます。だから私は技術の道へ進みました」

宇井氏は大学時代に介護施設へボランティアに訪れて以来、10年以上現場の人々とやりとりをしている。過酷な仕事や山積みの課題を見続けたからからこそ、その課題を解決したいと宇井氏は話す。 宇井「介護施設の職員さんは高齢者の方を移乗介助したり、重い荷物を運ぶことも多いので、体を壊す方もいらっしゃいます。職員さんの平均勤続年数は3年。もちろん、他の施設へ移る担い手もいますが、他業界に流れていく人もいるでしょう。 これら様々な課題には色々なステークホルダーが絡んでいて、解決は容易ではありません。その中でも特に課題だと感じているのは、介護知識が一般に普及していないことです。 少子高齢化や介護の担い手不足から、将来的には自宅で介護を行う人が増えていくと思います。その時に必要な介護知識にすぐアクセスできないと、介護をする側・される側、双方に危険が及ぶこともある。今後は介護職でない方も含めて、どのような人でも介護ができるよう仕組み化を進めなければいけません」宇井氏は大学時代に介護施設へボランティアに訪れて以来、10年以上現場の人々とやりとりをしている。過酷な仕事や山積みの課題を見続けたからからこそ、その課題を解決したいと宇井氏は話す。

宇井「介護施設の職員さんは高齢者の方を移乗介助したり、重い荷物を運ぶことも多いので、体を壊す方もいらっしゃいます。職員さんの平均勤続年数は3年。もちろん、他の施設へ移る担い手もいますが、他業界に流れていく人もいるでしょう。

これら様々な課題には色々なステークホルダーが絡んでいて、解決は容易ではありません。その中でも特に課題だと感じているのは、介護知識が一般に普及していないことです。

少子高齢化や介護の担い手不足から、将来的には自宅で介護を行う人が増えていくと思います。その時に必要な介護知識にすぐアクセスできないと、介護をする側・される側、双方に危険が及ぶこともある。今後は介護職でない方も含めて、どのような人でも介護ができるよう仕組み化を進めなければいけません」

資金難と人手不足、介護現場で起きている課題を解決する「Helppad

宇井氏が話すように、同業界には課題が山積している。「資金難」と「人手不足」も解決が求められている課題だ。 介護業は国がビジネスモデルを提供しているため、事業者は一定範囲内で施設の料金を決めざるを得ない。一方で、配置するべき人員数には最低何名と規定があり、人件費が経営を圧迫してしまう。多忙な業種なので、多くの施設は規定の1.5〜2.0倍の人員を配置するなど努力しているが、それでも人手は足りないそうだ。この課題に対して、同社では介護ロボットによる解決を目指している。 宇井「人手が足りない課題を紐解いていくと、労働時間の振り分けがうまくいっていない現状が見えてきました。 介護施設では正社員以外にパートタイマーも働いています。しかし、多くのパートの皆さんは主婦でもあるため、夕方には家に帰ってしまう、日勤勤務者が多いです。すると、どうしても夜間の見守り業務ができる人は少なくなり、同じメンバーで回さなければいけません。業務の中には高齢者の排泄介助が含まれます。排泄物を放置すると肌かぶれや便いじりの原因になってしまうので、深夜でもすぐに対応しなければいけません。そこで介護職の皆さんから「オムツを開けずに中を見たい」と要望をいただきました。 私たちはにおいセンサを用いて、高齢者の排泄を検知する介護ロボット「Helppad(ヘルプパッド)」を製品化しています。これを使えば、見守りをしている時間をほかの業務にあてることができる。負担が減るので介護職の皆さんにも喜んでいただいています」 同社のHelppadはにおいセンサを用いて排泄物を検知している。シート状で、ベッドに敷くだけで利用可能。尿だけでなく排便も検知でき、高齢者の体に機械をつけることもない。国内大手ベッドメーカー、パラマウントベッド社の協力もあり製品化に成功したが、導入には障壁もあるそうだ。 宇井「介護施設の財政はゆとりがない状態です。Helppad をまとまった台数導入すると数百万円かかることもあるので、施設経営者によっては、なかなか導入しづらい。一方で、施設の消耗品の中でオムツ代は大きな比率を占めています。年間1000万円以上かかる施設も多いので、「Helppad を入れたら使うオムツが減り、年間〇〇万円経費を削減できます。ならば■年で初期投資は回収できますよ」という提案もしています。地道な交渉を続けていますが、普及を進められれば介護職さんの負担が減り、将来的には離職率も低くなっていくはず」 取材の際に、宇井氏は「排泄は介護現場における最大の課題です」と話していた。テクノロジーの力を借りれば、介護職は高齢者の心のケアや他業務などに集中できるだろう。Helppad は多くの人が待ち望んでいたソリューションのひとつだろう。宇井氏が話すように、同業界には課題が山積している。「資金難」と「人手不足」も解決が求められている課題だ。

介護業界は国がビジネスモデルを提供しているため、事業者は一定範囲内で施設の料金を決めざるを得ない。一方で、配置するべき人員数には最低何名と規定があり、人件費が経営を圧迫してしまう。多忙な業種なので、多くの施設は規定の1.5〜2.0倍の人員を配置するなど努力しているが、それでも人手は足りないそうだ。この課題に対して、同社では介護ロボットによる解決を目指している。

宇井「人手が足りない課題を紐解いていくと、労働時間の振り分けがうまくいっていない現状が見えてきました。

介護施設では正社員以外にパートタイマーも働いています。しかし、多くのパートの皆さんは主婦でもあるため、夕方には家に帰ってしまう、日勤勤務者が多いです。すると、どうしても夜間の見守り業務ができる人は少なくなり、同じメンバーで回さなければいけません。業務の中には高齢者の排泄介助が含まれます。排泄物を放置すると肌かぶれや便いじりの原因になってしまうので、深夜でもすぐに対応しなければいけません。そこで介護職の皆さんから『オムツを開けずに中を見たい』と要望をいただきました。

私たちはにおいセンサを用いて、高齢者の排泄を検知する介護ロボット『Helppad(ヘルプパッド)』を製品化しています。これを使えば、見守りをしている時間をほかの業務にあてることができる。負担が減るので介護職の皆さんにも喜んでいただいています」

同社のHelppadはにおいセンサを用いて排泄物を検知している。シート状で、ベッドに敷くだけで利用可能。尿だけでなく排便も検知でき、高齢者の体に機械をつけることもない。国内大手ベッドメーカー、パラマウントベッド社の協力もあり製品化に成功したが、導入には障壁もあるそうだ。

宇井「介護施設の財政はゆとりがない状態です。Helppad をまとまった台数導入すると数百万円かかることもあるので、施設経営者によっては、なかなか導入しづらい。一方で、施設の消耗品の中でオムツ代は大きな比率を占めています。年間1000万円以上かかる施設も多いので、『Helppad を入れたら使うオムツが減り、年間〇〇万円経費を削減できます。ならば■年で初期投資は回収できますよ』という提案もしています。地道な交渉を続けていますが、普及を進められれば介護職さんの負担が減り、将来的には離職率も低くなっていくはず」

取材の際に、宇井氏は「排泄は介護現場における最大の課題です」と話していた。テクノロジーの力を借りれば、介護職は高齢者の心のケアや他業務などに集中できるだろう。Helppad は多くの人が待ち望んでいたソリューションのひとつだろう。

ハードウェア開発と資金繰り、ソーシャルスタートアップの苦労とは

ここでひとつの疑問が浮かぶ。介護業界は課題が明確で、今後市場が伸びていくことが予想されている。しかしながら、テクノロジーを用いて介護業界の課題を解決しようとしている企業はあまり聞いたことがない。これはなぜだろうか。 宇井「介護業界には最低3者のステークホルダーがいると思います。それは高齢者(施設入居者)・介護者(介護職従事者)・購買決定者(施設経営者など)です。この3者に向けた三方よしが難しいのだと思います。経理ソフトなどを使えば、施設経営者のオフィスワークは改善できます。しかし、施設経営者の負担を減らすだけでは介護業界全体の課題は解決できません。 難しいのは高齢者と介護者に対するバランス調整です。高齢者に寄り添い過ぎれば介護者の負担が大きくなりますし、介護者に寄り添い過ぎれば高齢者は不快な生活を送ることになってしまう場合が多い。 わかりやすい例が大容量オムツです。使えば介護者はオムツを変える頻度が減り楽になりますが、高齢者はもしかしたら、『なんだか気持ち悪いな』という時間を長く過ごすことになってしまいます。 介護に限らず、ソーシャルスタートアップの参入障壁が高いのは、ステークホルダーが多いからです。ユーザーインタビューはどこかに偏っていてはいけないですし、プロダクト設計も泥臭くなりがちです」 特に同社はハードウェアを開発する企業だ。ソフトウェア開発とはまた異なる苦労があるに違いない。創業して10年になる同社はどのように開発を進めているのか。 宇井「ハード開発は大変です。現場で確実に動くものを作らなければいけませんし、誰もが簡単に扱えるものでなければいけない。現場の声を聞きながら、センサやリモコンの位置も微調整していきました。 また、Helppadは将来的にデータを活用して、アルゴリズムの挙動を改善できるように設計しています。データ取得のために通信装置を盛り込みましたが、介護施設はWi-Fiが整備されていない所も多く、既存の仕組みを利用しつつデータをクラウド上にアップする仕組みを作りました」 苦労する点は開発だけではない、企業活動を続けるためには資金が必要だ。同社では経営資金を公的機関からの補助金でまかなってきた。なぜ資金調達ではなく、補助金を利用していたのだろうか。 宇井「創業当初にも資金調達の話は出ていましたが、当時のメンバーたちと話し合ったところ「製品が出るまで我慢した方がいい」と話がまとまりました。なぜなら、開発がスタートしたばかりで、売り上げを出せるか分からない状況だったからです。資金調達をすれば、必ずリターンを返す責任が生まれます。当時は『まだVCに声をかけるべきタイミングではない、声をかけるとしてもエンジェル投資家へ』と考えていました。 幸い、国の補助制度もこの10年でとても使いやすくなっています。確かに国の補助制度には報告書作成を始めとした報告義務がありますが、abaにはそれらに対応できるメンバーもいます。毎回100P近くなる報告書を作って対応してくれていますよ(笑)。 補助金の獲得には資金調達とは異なるノウハウが必要です。特に必要なものは研究開発実績で、これがなければ補助申請も通りません。同じくリアルテックの領域では、たとえばユーグレナの永田さんに聞いたところによると、ユーグレナ社は健康食品の分野で利益をきちんと出し、それをバイオジェットなどの研究開発費として当てていたそうです。介護領域でも同様で、エクイティファイナンスにこだわらず、補助金を活用したり、資金が稼げる事業をしながら、社会の課題解決をした方が結局長く企業として生き長らえると思います」ここでひとつの疑問が浮かぶ。介護業界は課題が明確で、今後市場が伸びていくことが予想されている。しかしながら、テクノロジーを用いて介護業界の課題を解決しようとしている企業はあまり聞いたことがない。これはなぜだろうか。

宇井「介護業界には最低3者のステークホルダーがいると思います。それは高齢者(施設入居者)・介護者(介護従事者)・購買決定者(施設経営者など)です。この3者に向けた三方よしが難しいのだと思います。経理ソフトなどを使えば、施設経営者のオフィスワークは改善できます。しかし、施設経営者の負担を減らすだけでは介護業界全体の課題は解決できません。

難しいのは高齢者と介護者に対するバランス調整です。高齢者に寄り添い過ぎれば介護者の負担が大きくなりますし、介護者に寄り添い過ぎれば高齢者は不快な生活を送ることになってしまう場合が多い。

わかりやすい例が大容量オムツです。使えば介護者はオムツを変える頻度が減り楽になりますが、高齢者はもしかしたら、『なんだか気持ち悪いな』という時間を長く過ごすことになってしまいます。

介護に限らず、ソーシャルスタートアップの参入障壁が高いのは、ステークホルダーが多いからです。ユーザーインタビューはどこかに偏っていてはいけないですし、プロダクト設計も泥臭くなりがちです」

特に同社はハードウェアを開発する企業だ。ソフトウェア開発とはまた異なる苦労があるに違いない。創業して10年になる同社はどのように開発を進めているのか。

宇井「ハード開発は大変です。現場で確実に動くものを作らなければいけませんし、誰もが簡単に扱えるものでなければいけない。現場の声を聞きながら、センサやリモコンの位置も微調整していきました。

また、Helppadは将来的にデータを活用して、アルゴリズムの挙動を改善できるように設計しています。データ取得のために通信装置を盛り込みましたが、介護施設はWi-Fiが整備されていない所も多く、既存の仕組みを利用しつつデータをクラウド上にアップする仕組みを作りました」

苦労する点は開発だけではない、企業活動を続けるためには資金が必要だ。同社では経営資金を公的機関からの補助金でまかなってきた。なぜ資金調達ではなく、補助金を利用していたのだろうか。

宇井「創業当初にも資金調達の話は出ていましたが、当時のメンバーたちと話し合ったところ『製品が出るまで我慢した方がいい』と話がまとまりました。なぜなら、開発がスタートしたばかりで、売り上げを出せるか分からない状況だったからです。資金調達をすれば、必ずリターンを返す責任が生まれます。当時は『まだVCに声をかけるべきタイミングではない、声をかけるとしてもエンジェル投資家へ』と考えていました。

幸い、国の補助制度もこの10年でとても使いやすくなっています。確かに国の補助制度には報告書作成を始めとした報告義務がありますが、abaにはそれらに対応できるメンバーもいます。毎回100ページ近くなる報告書を作って対応してくれていますよ(笑)。

補助金の獲得には資金調達とは異なるノウハウが必要です。特に必要なものは研究開発実績で、これがなければ補助申請も通りません。同じくリアルテックの領域では、たとえばユーグレナ永田さんに聞いたところによると、ユーグレナは健康食品の分野で利益をきちんと出し、それをバイオジェットなどの研究開発費として当てていたそうです。ハードウェアスタートアップ領域でも同様で、エクイティファイナンスにこだわらず、補助金を活用したり、資金が稼げる事業をしながら、社会の課題解決をした方が結局長く企業として生き長らえると思います」

大企業との提携の秘訣は、バイネームで接すること

先ほど補助の話が出たが、宇井氏は大企業との提携も重要だと話す。現にHelppadはパラマウントベッド社と共同開発を行い、量産費用を負担してもらうことで製造にこぎつけた。 宇井「ハードウェアを作る企業は、最初から自社生産にこだわらない方が良いと思います。なぜならスタートアップには量産ノウハウがなく、コストや時間の無駄が多くなるからです。ノウハウを持った大手と組んで生産すればうまく製品化できるし、量産に必要なタイムスケジュールと費用が大まかにわかります。大切なことは課題を解決すること。だから、自社生産は2回目以降でいいんです」 同社では大企業との提携のほかに、クラウドファンディングも今後視野に入れている。まずはミニマムで始めて製品の作り方を知る。より大規模に生産したいのならばアセットとノウハウを持った企業の力を借りる。企業価値よりも社会課題の解決に比重を置く、ソーシャルスタートアップならではのやり方だと感じた。 では、大企業と提携するためには何が必要なのだろうか。 宇井「担当者さんがプロジェクトに情熱を持っていることが大前提です。大企業と提携する場合は、私たちも向こうの事情を理解しなければいけません。社内政治を把握して、常にやり取りさせてもらう担当者さんの立場を聞き出し、別部署とやり取りしやすいように先回りして課題をもとに資料を渡しています。 会社間の取り引きでは担当者さんを企業そのものとして見てしまいがちです。けれど、対企業として見ていては、中にいる個々人の課題は見えてきません。そのため、『〇〇部の■■さん』とバイネームで接するようにしています。 こう考えるようになったのは、介護施設のボランティアがきっかけでした。現場で高齢者の方に『おばあちゃん』と声をかけたら、ベテラン職員さんに叱られてしまったんです。その人は『この人は”おばあちゃん”という名前ではない。〇〇さんという名前がある。そうやって一人ひとりにしっかり向き合わないと、その人が何をして欲しいかは分かりません。最初に名前を聞いて関係性を築きましょう』と諭してくれました。 個々の課題に向き合うことはビジネスでも変わらないと思います。それぞれに立場があり、課題があって解決法を求めている。それをサポートできなければ事は進みません」先ほど補助の話が出たが、宇井氏は大企業との提携も重要だと話す。現にHelppadはパラマウントベッド社と共同開発を行い、量産費用を負担してもらうことで製造にこぎつけた。

宇井「ハードウェアを作る企業は、最初から自社生産にこだわらない方が良いと思います。なぜならスタートアップには量産ノウハウがなく、コストや時間の無駄が多くなるからです。ノウハウを持った大手と組んで生産すればうまく製品化できるし、量産に必要なタイムスケジュールと費用が大まかにわかります。大切なことは課題を解決すること。だから、自社生産は2回目以降でいいんです」

同社では大企業との提携のほかに、クラウドファンディングも今後視野に入れている。まずはミニマムで始めて製品の作り方を知る。より大規模に生産したいのならばアセットとノウハウを持った企業の力を借りる。企業価値よりも社会課題の解決に比重を置く、ソーシャルスタートアップならではのやり方だと感じた。

では、大企業と提携するためには何が必要なのだろうか。

宇井「担当者さんがプロジェクトに情熱を持っていることが大前提です。大企業と提携する場合は、私たちも向こうの事情を理解しなければいけません。社内政治を把握して、常にやり取りさせてもらう担当者さんの立場を聞き出し、別部署とやり取りしやすいように先回りして課題をもとに資料を渡しています。

会社間の取り引きでは担当者さんを企業そのものとして見てしまいがちです。けれど、対企業として見ていては、中にいる個々人の課題は見えてきません。そのため、『〇〇部の■■さん』とバイネームで接するようにしています。

こう考えるようになったのは、介護施設のボランティアがきっかけでした。現場で高齢者の方に『おばあちゃん』と声をかけたら、ベテラン職員さんに叱られてしまったんです。その人は『この人は”おばあちゃん”という名前ではない。〇〇さんという名前がある。そうやって一人ひとりにしっかり向き合わないと、その人が何をして欲しいかは分かりません。最初に名前を聞いて関係性を築きましょう』と諭してくれました。

個々の課題に向き合うことはビジネスでも変わらないと思います。それぞれに立場があり、課題があって解決法を求めている。それをサポートできなければ事は進みません」

企業間の壁はあろうともワンチームとして動いていく。その姿勢を表すエピソードがある。 Helppad は開発段階で別の製品名を付けられていたが、流通を前に「Heplpad」へと改められた。変更理由はロゴを刷新するためだ。Helppad のロゴはアルファベットの「H」を斜めに傾けたデザインで、線の角度はパラマウントベッド社のロゴマークに合わせてある。つまり、2社で力を合わせてプロジェクトを進めることを表現している。企業間の壁はあろうともワンチームとして動いていく。その姿勢を表すエピソードがある。

Helppad は開発段階で別の製品名を付けられていたが、流通を前に「Helppad」へと改められた。変更理由はロゴを刷新するためだ。Helppad のロゴはアルファベットの「H」を斜めに傾けたデザインで、線の角度はパラマウントベッド社のロゴマークに合わせてある。つまり、2社で力を合わせてプロジェクトを進めることを表現している。

※左がパラマウントベッドのロゴ、右がHelppadのロゴ。左上から右下に流れる線は同じ角度を描いている

ここまでやるか、と驚く人もいるだろう。しかし、ここまでやるからチームの一人ひとりのモチベーションが上がる。昨今ではオープンイノベーションで大企業とスタートアップが提携する例が増えてきた。同社の姿勢は多くのスタートアップが参考にできるものだと思う。

大きな課題は小さなアクションで解決できる

最後に、これから起業する方へのメッセージを聞いてみた。

宇井「これからのスタートアップには3つの軸が求められると思います。

・ソーシャル(社会課題にどうアプローチするか)
・テクノロジー(課題をどのようなテクノロジーで解決するか)
・ビジネス(持続性を高めるため、どのように稼ぐか)

というのも、お金を稼ぐだけなら他にも手段はあると思うからです。そして、マンパワーには限りがあります、大きな社会課題を解決するためにはテクノロジーが必要で、多くの人が解決したい課題に取り組むからこそ、たくさんの援助を受けられると思うんです。

私自身もそうでしたが、解決したい課題が見えている人は、起業を止められてもいずれ起業するものだと思います。今は創業しやすい世の中ですし、SNSやWebサービスを活用すればミニマムアクションを起こすこともできる。小さな行動を積み重ねていれば、いずれチャンスは巡ってくるはずです」

こう話す宇井氏自身も、起業から10年間地道に開発を続け、2018年には三菱UFJ銀行主催のビジネスコンテスト「Rise Up Festa」のソーシャルビジネス部門で最優秀賞を受賞した。

大きな課題を前にして「できない」と言うのは簡単だけれど、宇井氏のように「やる」と決めて一歩一歩ゴールへ近づいている人がいる。小さな「できた」を積み上げていけば、いつか大きな課題を解決できる。信じて進む人は強いと思った。

執筆:鈴木雅矩
取材・編集:BrightLogg,inc.
撮影:戸谷信博

 

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